「うらやましいな」
ポツリとつぶやいたのは、夜よる空そらに浮うかぶ小ちいさな星ほしでした。
その星ほしは、太陽たいようのように地上ちじょうを照てらすわけでもなければ、
月つきのようにおしゃれに姿すがたをかえるわけでもない、
ただ、輝かがやくだけの普通ふつうの小ちいさな星ほしでした。
そんな小ちいさな星ほしを、地上ちじょうから不思議ふしぎそうに眺ながめている少年しょうねんがいました。
「何なにがうらやましいの?」
「僕ぼく以外いがいの全部ぜんぶさ」
「君きみ以外いがいの全部ぜんぶ?
じゃあ、僕ぼくのことも?」
「もちろんだよ」
「何なにがうらやましいの?」
「君きみは、遠とおくまで旅たびすることができるだろ。」
「旅たび?
うん。
一度いちど、お父とうさんに連つれて行いってもらったことがある。
すごく楽たのしかった。
だからね、僕ぼくは決きめたんだ。
大人おとなになったら、僕ぼくもお父とうさんのように、
世界せかいを旅たびしてまわろうって。」
「うらやましいな」
「君きみも旅たびをすればいいじゃないか?
ほかの星ほしを見みてごらんよ。みんな、旅たびをしてるよ。」
「僕ぼくにはできないんだ。
僕ぼくは、ここから動うごけないんだ。
他ほかの星ほしが東ひがしの空そらから西にしの空そらに旅たびをして、
季節きせつとともに 別べつの空そらに旅立たびだつときも、
僕ぼくは、ここにいるしかないんだ。
みんなのことを見送みおくるしかできないんだ。」
「そうなんだね。
さみしい?」
「少すこしね。」
「つまらない?」
「少すこしね。」
「そうか…
そうだ!
じゃあ、僕ぼくが、君きみの代かわりに、君きみの分ぶんまで旅たびをしてくるよ!
色々いろいろなところに旅たびに行いって、
色々いろいろなものを見みて、
色々いろいろなものを手てに入はいれて…
そして、いっぱいいっぱい、そのお話はなしをしてあげるよ。」
少年しょうねんの言葉ことばに、小ちいさな星ほしは、少すこしだけ瞬またたきました。
それからも、
その小ちいさな星ほしは、
その場ばを動うごかずに、
ただただ、ほかの星ほしたちの旅たびを見守みまもり続つづけていました。
そんなある日ひ、小ちいさな星ほしは、誰だれかの泣なき声こえを聴きいた気きがしました。
「何なにを泣ないているの?」
小ちいさな星ほしは尋たずねました。
「家いえに帰かえりたいんだ。」
大おおきな大おおきな砂漠さばくの真まん中なかで、
一人ひとりの男おとこがしゃがみこんでいました。
「家いえに帰かえる途中とちゅうなの?
じゃあ、君きみは、旅たびをしてたのかい?」
男おとこは、力ちからなくうなだれるように頷うなずきました。
「うらやましいな。」
「うらやましい?
うらやましがられるようなことは、何なにもないよ。」
男おとこは、空そらを見上みあげて、言いいました。
「僕ぼくは、旅たびをしてきた。
世界せかい中じゅう、いろいろな場所ばしょに行いってきた」
「楽たのしくなかったの?」
「楽たのしいこともあったさ。
でも、辛つらいこともたくさんあった。」
「辛つらかったのに、なんで旅たびをつづけたの?」
「家族かぞくのためだよ。
とどまっているだけでは手てに入はいらないものがたくさんあるんだ。
僕ぼくは、それを家族かぞくのもとに届とどけるために旅たびをしてたんだ。
それなのに…」
「ん?」
「帰かえり道みちを見失みうしなってしまったんだ。
ちょっと風かぜが吹ふくだけで、砂すなが崩くずれて、景色けしきが変かわる。
夜よるは明あかりが一ひとつもない。
どこに向むかって歩あるけばいいか分わからない。
もう、自分じぶんが、今いま、どこにいるかも分わからない。」
「それでも、僕ぼくは、君きみがうらやましいよ。」
小ちいさな星ほしは、ただ静しずかに言いいました。
「僕ぼくはね、ここから動うごけないんだ。
旅たびに出でることもできない。
変かわることもできない。
みんなのことを見みてるだけしかできないんだ。」
「でもね、僕ぼくは約束やくそくをしたんだ。
小ちいさな男おとこの子こと。
いつか、彼かれが旅たびに出でて、
そして戻もどってきたときに、
たくさんの話はなしを聞きかせてもらうって…約束やくそくをしたんだ。」
男おとこは、驚おどろいた顔かおで小ちいさな星ほしを見上みあげました。
「君きみは…
君きみは…ずっとそこに。
ずっとそこにいてくれたのかい?」
「僕ぼくは、ずっとここにいるよ。
ずっと昔むかしから。
そして、ずっと未来みらいまで。」
「君きみは…」
男おとこは、立たち上あがりました。
静しずかに。
だけど、力強ちからづよく。
男おとこは、もう、泣ないてはいませんでした。
「僕ぼくは…帰かえる。
僕ぼくは…君きみのおかげで帰かえれるんだ。」
男おとこは歩あるき出だしました。
そして、一晩中ひとばんじゅう、歩あるき続つづけました。
小ちいさな星ほしに向むかい、これまでの旅たびの思おもい出でを話はなしながら。
見みてきた景色けしき。
出会であった人々ひとびと。
食たべた料理りょうり。
楽たのしかったことも、辛つらかったことも、
男おとこの話はなしを、小ちいさな星ほしは、楽たのしそうに楽たのしそうに聴きき続つづけました。
男おとこは、小ちいさな星ほしが見守みまもってくれている限かぎり、
星ほしに向むかって、旅たびの思おもい出でを話はなしながら、歩あるき続つづけました。
男おとこが話はなしを終おえる頃ころ、
旅たびも、ちょうど終おわりを迎むかえました
登のぼり始はじめようとする陽ひの光ひかりに、
うっすらと形かたち作づくられた街まちを見下みおろしながら、
男おとこは小ちいさな星ほしに言いいました。
「ありがとう。」
男おとこの言葉ことばに、小ちいさな星ほしは、少すこしだけ瞬またたきました。
小ちいさな星ほしは、
それ以来いらい、「うらやましい」とつぶやくことはありませんでした。
「うらやましいなurayamashiina」
ポツリpotsuriとつぶやいたのはtotsubuyaitanoha、夜yoru空soraにni浮uかぶkabu小chiiさなsana星hoshiでしたdeshita。
そのsono星hoshiはha、太陽taiyouのようにnoyouni地上chijouをwo照teらすわけでもなければrasuwakedemonakereba、
月tsukiのようにおしゃれにnoyouniosyareni姿sugataをかえるわけでもないwokaeruwakedemonai、
ただtada、輝kagayaくだけのkudakeno普通futsuuのno小chiiさなsana星hoshiでしたdeshita。
そんなsonna小chiiさなsana星hoshiをwo、地上chijouからkara不思議fushigiそうにsouni眺nagaめているmeteiru少年syounenがいましたgaimashita。
「何naniがうらやましいのgaurayamashiino?」
「僕boku以外igaiのno全部zenbuさsa」
「君kimi以外igaiのno全部zenbu?
じゃあjaa、僕bokuのこともnokotomo?」
「もちろんだよmochirondayo」
「何naniがうらやましいのgaurayamashiino?」
「君kimiはha、遠tooくまでkumade旅tabiすることができるだろsurukotogadekirudaro。」
「旅tabi?
うんun。
一度ichido、おo父touさんにsanni連tsuれてrete行iってもらったことがあるttemorattakotogaaru。
すごくsugoku楽tanoしかったshikatta。
だからねdakarane、僕bokuはha決kiめたんだmetanda。
大人otonaになったらninattara、僕bokuもおmoo父touさんのようにsannoyouni、
世界sekaiをwo旅tabiしてまわろうってshitemawaroutte。」
「うらやましいなurayamashiina」
「君kimiもmo旅tabiをすればいいじゃないかwosurebaiijanaika?
ほかのhokano星hoshiをwo見miてごらんよtegoranyo。みんなminna、旅tabiをしてるよwoshiteruyo。」
「僕bokuにはできないんだnihadekinainda。
僕bokuはha、ここからkokokara動ugoけないんだkenainda。
他hokaのno星hoshiがga東higashiのno空soraからkara西nishiのno空soraにni旅tabiをしてwoshite、
季節kisetsuとともにtotomoni 別betsuのno空soraにni旅立tabidaつときもtsutokimo、
僕bokuはha、ここにいるしかないんだkokoniirushikanainda。
みんなのことをminnanokotowo見送miokuるしかできないんだrushikadekinainda。」
「そうなんだねsounandane。
さみしいsamishii?」
「少sukoしねshine。」
「つまらないtsumaranai?」
「少sukoしねshine。」
「そうかsouka…
そうだsouda!
じゃあjaa、僕bokuがga、君kimiのno代kaわりにwarini、君kimiのno分bunまでmade旅tabiをしてくるよwoshitekuruyo!
色々iroiroなところにnatokoroni旅tabiにni行iってtte、
色々iroiroなものをnamonowo見miてte、
色々iroiroなものをnamonowo手teにni入haiれてrete…
そしてsoshite、いっぱいいっぱいippaiippai、そのおsonoo話hanashiをしてあげるよwoshiteageruyo。」
少年syounenのno言葉kotobaにni、小chiiさなsana星hoshiはha、少sukoしだけshidake瞬matataきましたkimashita。
それからもsorekaramo、
そのsono小chiiさなsana星hoshiはha、
そのsono場baをwo動ugoかずにkazuni、
ただただtadatada、ほかのhokano星hoshiたちのtachino旅tabiをwo見守mimamoりri続tsuduけていましたketeimashita。
そんなあるsonnaaru日hi、小chiiさなsana星hoshiはha、誰dareかのkano泣naきki声koeをwo聴kiいたita気kiがしましたgashimashita。
「何naniをwo泣naいているのiteiruno?」
小chiiさなsana星hoshiはha尋tazuねましたnemashita。
「家ieにni帰kaeりたいんだritainda。」
大ooきなkina大ooきなkina砂漠sabakuのno真maんn中nakaでde、
一人hitoriのno男otokoがしゃがみこんでいましたgasyagamikondeimashita。
「家ieにni帰kaeるru途中tochuuなのnano?
じゃあjaa、君kimiはha、旅tabiをしてたのかいwoshitetanokai?」
男otokoはha、力chikaraなくうなだれるようにnakuunadareruyouni頷unazuきましたkimashita。
「うらやましいなurayamashiina。」
「うらやましいurayamashii?
うらやましがられるようなことはurayamashigarareruyounakotoha、何naniもないよmonaiyo。」
男otokoはha、空soraをwo見上miaげてgete、言iいましたimashita。
「僕bokuはha、旅tabiをしてきたwoshitekita。
世界sekai中juu、いろいろなiroirona場所basyoにni行iってきたttekita」
「楽tanoしくなかったのshikunakattano?」
「楽tanoしいこともあったさshiikotomoattasa。
でもdemo、辛tsuraいこともたくさんあったikotomotakusanatta。」
「辛tsuraかったのにkattanoni、なんでnande旅tabiをつづけたのwotsuduketano?」
「家族kazokuのためだよnotamedayo。
とどまっているだけではtodomatteirudakedeha手teにni入haiらないものがたくさんあるんだranaimonogatakusanarunda。
僕bokuはha、それをsorewo家族kazokuのもとにnomotoni届todoけるためにkerutameni旅tabiをしてたんだwoshitetanda。
それなのにsorenanoni…」
「んn?」
「帰kaeりri道michiをwo見失miushinaってしまったんだtteshimattanda。
ちょっとchotto風kazeがga吹fuくだけでkudakede、砂sunaがga崩kuzuれてrete、景色keshikiがga変kaわるwaru。
夜yoruはha明aかりがkariga一hitoつもないtsumonai。
どこにdokoni向muかってkatte歩aruけばいいかkebaiika分waからないkaranai。
もうmou、自分jibunがga、今ima、どこにいるかもdokoniirukamo分waからないkaranai。」
「それでもsoredemo、僕bokuはha、君kimiがうらやましいよgaurayamashiiyo。」
小chiiさなsana星hoshiはha、ただtada静shizuかにkani言iいましたimashita。
「僕bokuはねhane、ここからkokokara動ugoけないんだkenainda。
旅tabiにni出deることもできないrukotomodekinai。
変kaわることもできないwarukotomodekinai。
みんなのことをminnanokotowo見miてるだけしかできないんだterudakeshikadekinainda。」
「でもねdemone、僕bokuはha約束yakusokuをしたんだwoshitanda。
小chiiさなsana男otokoのno子koとto。
いつかitsuka、彼kareがga旅tabiにni出deてte、
そしてsoshite戻modoってきたときにttekitatokini、
たくさんのtakusanno話hanashiをwo聞kiかせてもらうってkasetemorautte…約束yakusokuをしたんだwoshitanda。」
男otokoはha、驚odoroいたita顔kaoでde小chiiさなsana星hoshiをwo見上miaげましたgemashita。
「君kimiはha…
君kimiはha…ずっとそこにzuttosokoni。
ずっとそこにいてくれたのかいzuttosokoniitekuretanokai?」
「僕bokuはha、ずっとここにいるよzuttokokoniiruyo。
ずっとzutto昔mukashiからkara。
そしてsoshite、ずっとzutto未来miraiまでmade。」
「君kimiはha…」
男otokoはha、立taちchi上aがりましたgarimashita。
静shizuかにkani。
だけどdakedo、力強chikaraduyoくku。
男otokoはha、もうmou、泣naいてはいませんでしたitehaimasendeshita。
「僕bokuはha…帰kaeるru。
僕bokuはha…君kimiのおかげでnookagede帰kaeれるんだrerunda。」
男otokoはha歩aruきki出daしましたshimashita。
そしてsoshite、一晩中hitobanjuu、歩aruきki続tsuduけましたkemashita。
小chiiさなsana星hoshiにni向muかいkai、これまでのkoremadeno旅tabiのno思omoいi出deをwo話hanaしながらshinagara。
見miてきたtekita景色keshiki。
出会deaったtta人々hitobito。
食taべたbeta料理ryouri。
楽tanoしかったこともshikattakotomo、辛tsuraかったこともkattakotomo、
男otokoのno話hanashiをwo、小chiiさなsana星hoshiはha、楽tanoしそうにshisouni楽tanoしそうにshisouni聴kiきki続tsuduけましたkemashita。
男otokoはha、小chiiさなsana星hoshiがga見守mimamoってくれているttekureteiru限kagiりri、
星hoshiにni向muかってkatte、旅tabiのno思omoいi出deをwo話hanaしながらshinagara、歩aruきki続tsuduけましたkemashita。
男otokoがga話hanashiをwo終oえるeru頃koro、
旅tabiもmo、ちょうどchoudo終oわりをwariwo迎mukaえましたemashita
登noboりri始hajiめようとするmeyoutosuru陽hiのno光hikariにni、
うっすらとussurato形katachi作dukuられたrareta街machiをwo見下mioろしながらroshinagara、
男otokoはha小chiiさなsana星hoshiにni言iいましたimashita。
「ありがとうarigatou。」
男otokoのno言葉kotobaにni、小chiiさなsana星hoshiはha、少sukoしだけshidake瞬matataきましたkimashita。
小chiiさなsana星hoshiはha、
それsore以来irai、「うらやましいurayamashii」とつぶやくことはありませんでしたtotsubuyakukotohaarimasendeshita。