昔々むかしむかし 栄さかえし国くにの
王子おうじがひとり狩かりへと出でた
禁忌きんきの森もりに入はいり
崖がけに足あしを取とられて
気きが付つけば月つきも落おちぬ夜よる
そのとき眩暈めまいのなか 近ちかづくのは金色こんじきの姿すがた
気高けだかく聳そびえた角つの 一頭いっとうの神々こうごうしい牡鹿おじか
不思議ふしぎな光ひかりに向むけ 若者わかものは我われを失なくしたように
弓ゆみを構かまえて 狙ねらいを定さだめて
撓たわむ弦げんに鋼はがねの矢や
命いのちなど惜おしまぬと
鹿しかは銀ぎんいろの声こえで云いう
だがこの森守もりまもるわたしが
死しねばすべては茨いばらとなり
おまえの都みやこも滅ほろびるだろう
心臓しんぞうを突つき
金きんの首くびと剥はいだ皮かわ
勇いさんで城しろに運はこばれる
幾いく年とせが経たち王子おうじは王おうに
戦破いくさやぶれ国くには衰おとろえ
茨伝いばらつたう城壁じょうへき
嘆なげき交かわす人々ひとびと
愛あいも幸さちも遠去とおざかりゆく
やがては喰くうものまで 底そこを尽つき飢うえと渇かわきのなか
森もりへと訪おとなえども朽くちた木々きぎ 芽めのひとつもなく
泉いずみも涸かれ 獣けものの影かげさえなくただ風かぜが通とおり
疲つかれ頽くずれ ふと目めを上あげれば
黄金おうごんの幼おさなき牡鹿おしが
あなたは父ちちの仇かたき
いつかと同おなじ声こえが響ひびく
でも屍しかばねと化かした国くにを
再ふたたび甦よみがえらせるのは
あなたをおいては誰だれもいない
永遠えいえんの わたしのこの血肉ちにくで
国人くにびとを救すくえるだろう
命いのちは捧ささげましょう
鹿しかは銀ぎんいろの声こえで鳴なく
王おうは涙なみだをこぼしながら
やわらかな胸むねへと矢やを射いる
あの日ひの過あやまちを心こころから懺悔ざんげして
悔くい改あらためた王おうは禁色きんじきの光ひかりと生いきる
死しぬまで二頭にとうのアラ皮かわ
纏まといつづけながら
昔々mukashimukashi 栄sakaえしeshi国kuniのno
王子oujiがひとりgahitori狩kaりへとriheto出deたta
禁忌kinkiのno森moriにni入haiりri
崖gakeにni足ashiをwo取toられてrarete
気kiがga付tsuけばkeba月tsukiもmo落oちぬchinu夜yoru
そのときsonotoki眩暈memaiのなかnonaka 近chikaづくのはdukunoha金色konjikiのno姿sugata
気高kedakaくku聳sobiえたeta角tsuno 一頭ittouのno神々kougouしいshii牡鹿ojika
不思議fushigiなna光hikariにni向muけke 若者wakamonoはha我wareをwo失naくしたようにkushitayouni
弓yumiをwo構kamaえてete 狙neraいをiwo定sadaめてmete
撓tawaむmu弦genにni鋼haganeのno矢ya
命inochiなどnado惜oしまぬとshimanuto
鹿shikaはha銀ginいろのirono声koeでde云iうu
だがこのdagakono森守morimamoるわたしがruwatashiga
死shiねばすべてはnebasubeteha茨ibaraとなりtonari
おまえのomaeno都miyakoもmo滅horoびるだろうbirudarou
心臓shinzouをwo突tsuきki
金kinのno首kubiとto剥haいだida皮kawa
勇isaんでnde城shiroにni運hakoばれるbareru
幾iくku年toseがga経taちchi王子oujiはha王ouにni
戦破ikusayabuれre国kuniはha衰otoroえe
茨伝ibaratsutaうu城壁jouheki
嘆nageきki交kaわすwasu人々hitobito
愛aiもmo幸sachiもmo遠去toozaかりゆくkariyuku
やがてはyagateha喰kuうものまでumonomade 底sokoをwo尽tsuきki飢uえとeto渇kawaきのなかkinonaka
森moriへとheto訪otonaえどもedomo朽kuちたchita木々kigi 芽meのひとつもなくnohitotsumonaku
泉izumiもmo涸kaれre 獣kemonoのno影kageさえなくただsaenakutada風kazeがga通tooりri
疲tsukaれre頽kuzuれre ふとfuto目meをwo上aげればgereba
黄金ougonのno幼osanaきki牡鹿oshiga
あなたはanataha父chichiのno仇kataki
いつかとitsukato同onaじji声koeがga響hibiくku
でもdemo屍shikabaneとto化kaしたshita国kuniをwo
再futataびbi甦yomigaeらせるのはraserunoha
あなたをおいてはanatawooiteha誰dareもいないmoinai
永遠eienのno わたしのこのwatashinokono血肉chinikuでde
国人kunibitoをwo救sukuえるだろうerudarou
命inochiはha捧sasaげましょうgemasyou
鹿shikaはha銀ginいろのirono声koeでde鳴naくku
王ouはha涙namidaをこぼしながらwokoboshinagara
やわらかなyawarakana胸muneへとheto矢yaをwo射iるru
あのano日hiのno過ayamaちをchiwo心kokoroからkara懺悔zangeしてshite
悔kuいi改arataめたmeta王ouはha禁色kinjikiのno光hikariとto生iきるkiru
死shiぬまでnumade二頭nitouのnoアラara皮kawa
纏matoいつづけながらitsudukenagara