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温泉すらもロックンロールに!『OS』に見るキュウソネコカミのロック魂

シンセとギターの入り交じるパワフルで多彩なサウンドと「サブカル女子」や「かわいい“だけ”の女性」などへの愛のあるDisの効いた歌詞が特徴的な彼等。そんな「大真面目にアホな事をしながらリスナーを叱ってくれる」バンドであるキュウソネコカミの楽曲の中にも、ちょっと異質な曲があった。


個性的な若手バンドが乱立し、「ロックバンド戦国時代」とも言われているここ数年の邦楽ロックシーン。皆それぞれ魅力的で目移りしてしまう程だが、そんな中でも燦然と異彩を放っているバンドがいる。

「キュウソネコカミ」だ。

彼等は、2009年に大学の同級生を中心に結成された五人組のロックバンド。シンセとギターの入り交じるパワフルで多彩なサウンドと「サブカル女子」や「かわいい“だけ”の女性」などへの愛のあるDisの効いた歌詞が特徴的な彼等の作風は、バンド名からも滲み出しているコミカルさと鋭い社会風刺が共存していてとっても痛快。
時に耳が痛い程の批判精神溢れるボーカル・ヤマサキセイヤの言葉は、“関西のあんちゃん”的赤裸々さに溢れていて非常に清々しい。

しかし、そんな「大真面目にアホな事をしながらリスナーを叱ってくれる」バンドであるキュウソネコカミの楽曲の中にも、ちょっと異質な曲があった。


その曲は、アルバム『ハッピーポンコツランド』に収録されている『OS』。
意味深なタイトルが興味をそそるこの楽曲は、スピーディなギターと鋭利なシンセのリフが印象的なハードなイントロから始まる。いやが上にもテンションの上がるカッコいいイントロに、「どんなロックンロールナンバーが始まるのか」とワクワクしながら聴いていると、私達はうっかりワンフレーズ目から度肝を抜かれる。
――――
「人も猿も浸かれば癒し 温泉の歴史の多彩なそれ
掘り起こすぜ熱い源泉 みんなのテルマエをここに築く」
――――


なんと、この曲のテーマはテルマエ……「温泉」だった!
実はタイトルもオペレーティングシステム……などではなく、単なる「ONSEN」の頭文字。もしや、いつもの批評眼は封印の面白ソングか?
と思いきや、次に続くのはこんなフレーズだ。
――――
「貴重な休み潰して 疲労して秘湯目指す」
――――

確かに、よくテレビなどで取り上げられている「山奥の秘湯」なんかがある場所と言えば大体一日がかりで行かなければならないような辺境の地ばかり。心身を癒やす為に行くはずの温泉へと向かう道中でそんなに体力を使ってしまっては本末転倒なのでは? と誰もが思った事があるのではないだろうか。そんな『痛い所』を見事にツッコんでくるその気概は流石キュウソとしか言いようがないが、しかしそんな人間の滑稽さに構っている暇は無いと言わんばかりに歌詞はサビに向かって意外な展開を見せる。

――――
「オーエス オーエス 裸になれば軽やかにshall we bath
オーエス オーエス 温泉じゃタオルは湯船つけるなよ
オーエス オーエス ラジウム温泉リウマチ和らぐ
オーエス オーエス 沸かせここが我の音泉じゃーい!!」
――――


なんともシンプルな温泉への愛に溢れたフレーズ! 「オーエス」の部分でシンガロングが促されるのがライブ映えしそうだ。「温泉」ではなく「音泉」と言う表記を用いているところが実に彼等らしい。


ライブは温泉に似ている。インターネット配信が主流な昨今、音楽なんて家でも充分楽しむ事ができるコンテンツになった。CDショップにすら行く必要がない程のこんな時代でも、忙しい毎日の合間を縫ってリスナーはわざわざライブへ足を運ぶ。
温泉も同様に、わざわざ遠出して秘湯なんか目指さなくたって、家の風呂で充分なはずだ。しかし人はわざわざそれを求め、自分から疲れに行く。
冷静に考えてみればなんとも滑稽な話だが、それでも私達は生バンドの腹に響く轟音を、露天風呂の肌に触る優しい夜風や家風呂とは一味違う湯の手触りを、どうしたって求めてしまうのだ。
そんな、ライブに潜む「温泉的」な抗い難い魅力を、キュウソネコカミはどのバンドよりもわかっている。

特にこの曲においては、彼らのそんなスタンスが2番の「お風呂!」と連呼する部分に色濃く表れている。
MVを観ると、ヤマサキが張り上げる力強い「お風呂!」のシャウトと共に「OFF LOW!」と言う字幕が表示されているのだが、ヒップホップ風のスクラッチや脳髄を揺さぶるようなシンセを多用したサウンドとヤマサキのパワフルでロックバンドのボーカルらしい歌声を聴いていると、段々本当に「OFF LOW!」と意味深でカッコいい英語フレーズをシャウトしているように聴こえてくるのだ。少なくとも、まさか「お風呂!」と叫んでいるようには聴こえない。

本来ロックはライブでこそ映える楽曲であり、どんな歌詞の内容であれライブで聴いて「カッコいい」事こそがその存在意義で大正義である。たとえ「お風呂!」と怒鳴っていたって、ライブでカッコよく聴こえればそれは立派なロックンロール。そんな「究極のロックンロールスタイル」を貫いているのが、キュウソネコカミと言うバンドなのかもしれない。


因みに、この楽曲には元になった別の楽曲がある。同じくアルバム『ハッピーポンコツ』に収録されている『清水音泉ぶっとばす』と言う曲なのだが、この曲は関西に拠点を置く「清水音泉」と言うイベンターをオマージュした楽曲だ。
「清水音泉」はライブを「温泉」に例えたプロモーションが独特なイベンター。その特有のスタイルはライブに潜む「温泉的」な魅力を知っているからなのかそうでないのかはちょっとよくわからないが、そんな遊び心のありあまるスタンスにキュウソネコカミが賛同するのもなんとなくわかる気がする。


キュウソのフィルターを通せば温泉さえも立派なロックンロールに化ける。彼らのスタンダードである風刺的な色合いの強い曲も、「世間を斬ってやるぜ」と言う強い批判精神が原動力と言うよりは「普段思っているけどなかなか言えないこと」をたまたまロックのサウンドに乗っけてみただけなのだろう。 だからこそ、あの「肩に力の入り過ぎないカッコよさ」が醸し出されるのだ。
「温泉」から「スマホ中毒」「詐欺写メ」まで、この世の全てをロックに染め上げるキュウソネコカミの懐の深さとレンジの広さには脱衣、もとい脱帽だ。あなたも日々の悩みやもやもやを全て脱ぎ捨てて、キュウソのロック魂に浸かってみてはいかがだろう?


TEXT:五十嵐 文章

▷キュウソネコカミ 公式HP ▷ビクターエンタテインメントHP

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