小説をモチーフにしたACIDMANの「アルケミスト」が伝える新たな価値観とは?



どのバンドにも取って代わることのできない3ピースバンドACIDMAN。彼らの魅力をジャンルに収めることはできない。ジャズやボサノヴァのコード進行を使用したり、パンクやR&Bの要素を取り入れたりし唯一無二のサウンドを作り上げている。そんなACIDMANのオリジナリティは歌詞にも見られる。

古語や宗教用語などを用いることもあり、抽象的な歌詞が多く見られる。それが生命の躍動を感じさせる彼らの世界観へと繋がっているのだ。

ACIDMANが2012年に発売した楽曲「アルケミスト」をご存知だろうか。同曲はパウロ・コエーリョの小説「アルケミスト」をモチーフにしている。

小説アルケミストは恐れや不安とどのように付き合っていくのかなど、心の向き合い方に重点が置かれた本である。この小説では「人は人生のある時点で、自分に起こってくることをコントロールできなくなり、宿命によって人生を支配されてしまうということ」を世界最大のうそだとしている。さらに、「自分の運命を実現することは、人間の唯一の責任だ」とも書かれている。

この小説をモチーフにしたACIDMANの「アルケミスト」は何を伝えているのだろうか。



“奇跡の声がして見上げた世界樹 最後の星達が実を付け
金色の子供達その声に抱かれて 世界の始めの夢を見る
さあもう一度だけ 旅を始めよう”

「さあもう一度だけ 旅を始めよう」と希望を捨ててしまった人たちへメッセージを送っている。「金色の子供達」とは希望に満ち溢れた心の状態を指している。夢は何度でも見れるとACIDMANらしい抽象的な歌詞で教えてくれているのだ。

自分の運命を実現することは責任と書いていた小説のアルケミスト。その「運命を実現すること」に対して、ACIDMANは背中を押してくれているのだ。


“ハローアルケミスト
太陽の魔法で世界の秘密だけ もう一度聞かせておくれ

ハローアルケミスト
何億もの夢を夜空に蒔いたから 小さな星に変えてくれ”


ACIDMANは小説のアルケミストをリスナーへの応援歌へと変換してくれている。「太陽の魔法で世界の秘密だけ もう一度聞かせておくれ」といった歌詞からも読み取れるように、決してACIDMANは小説アルケミストの内容や本質を教える立場にあるわけではない。彼らもリスナーと同じく享受する立場なのである。

同じ立場に立ってACIDMANは、リスナーと小説アルケミストをつなぐ役割を果たしているのだ。

“彫刻が眠る街 砂原に君の風 幾千の銀河の旅を終え
無限の流れ星 シリウスのアンソロジー そのカケラを集めに行こう
もう戻る気はないから”


この楽曲のMVは小説アルケミストの舞台でもある北アフリカ・モロッコで撮影されたものだそう。その異国の地を頭に思い浮かべ、壮大な風景描写を歌詞に落とし込んだのであろう。日本とは遠く離れた異国の地を想像させ、リスナーの視野を広げる。ACIDMANの抽象度の高い歌詞は決してひとりよがりではないのだ。


“僕らは信じてた いつだって信じていた
手を伸ばせばすぐに届きそうなあの光を
その手離さないで 遠くまで僕ら行こう”



抽象的な言葉が続いていたが、ここで意味を捉えやすい簡単な歌詞へとあえて変えている。“世界観の押し付け”ではなく、“世界観の共有”というリスナー目線を忘れないACIDMANの特徴がここから感じられる。


「その手離さないで 遠くまで僕ら行こう」それぞれの運命を果たすために手を取り合っても問題はないのだ。抽象的な歌詞が多いACIDMANだが、リスナーと世界観を共有しようとするACIDMANの真摯な姿勢がこの箇所で特に見られる。

難解な歌詞の裏には、手を差し延べてくれる優しいACIDMANの姿があるのだ。彼らの楽曲「アルケミスト」は抽象的な言葉と分かりやすい言葉を対比させながら、リスナーに新たな価値観を与えてくれている。

「世界というのは自分たちが関わっている場所だけのことではない」ACIDMANは私たちに世界の広さを伝え、自らの運命に責任を持てるように応援してくれているのだ。



TEXT:笹谷創( http://sasaworks1990.hatenablog.com/

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