1. 西野カナの『パッ』は「パッと散っていく」だけの曲ではない

西野カナの『パッ』は「パッと散っていく」だけの曲ではない

西野カナという名前を聞いただけで、「あ?、あのうっすい感じの歌を歌ってる姉ちゃんね。バカに人気あるイメージ」みたいなひどいことを言う人が一定数以上いるだろうことは、容易に想像できるんだ。

2017年6月8日


あるいは、多少なりとも音楽が好きな人には「会いたくて震える人ね」とか「トリセツ芸人でしょ」なんてイメージで語られているかもしれない。

そして「どれ、そんな人気ならチェックしてみるか!カナやん可愛いとか書かれてそう」と思った人がYouTubeのコメント欄見て「うわーマジでコメントがカナやん可愛いばっかりだわー!」と笑いのネタにしているかもしれない。ええ。そんなイメージで語られているだろうことは、構わんのですよ!

でもね。例えば、2017年のシングル『パッ』を聴いて「『パッ』って何だよ(笑)。すげーパッて適当に作ってそう(笑)。楽な仕事だよね?(笑)」と、(笑)だらけに感じるような輩には、もうちょっとちゃんと歌詞読めと物申したい。多分、この曲はパッと簡単に作っているもんではない。



“毎日毎日朝起きてお化粧して
来る日も来る日も仕事して家に帰る
本当はやりたいこともいっぱいあるのに
メイクも落とさずベッドにダイブ
はい、お疲れさん!”


まず、冒頭から「パッ」が出るまでのストーリーを作ってる。「毎日毎日」「来る日も来る日も」ハジけることができない日常を歌う!後半登場の「パッ」を際立たせる為に、前半結構低めの音でスタートしてんだぞ!しかもだ、「いっぱいある」の歌詞で、小さい「っ」「ぱ」を使って「パッ」の伏線作ってる!音的にも意味的にも「パッ」の伏線になってる!「パッ」には「やりたいこともいっぱい」って感情が込められてんだ!

“パッとハジけたいの
スカッとしたい気分
もったいないわ楽しまなきゃ
人生一度きり
パッとしない日々を
かっ飛ばしたい気分
可愛くないわ笑わなくちゃ
たまにはシュワっと
炭酸みたいにハジけたいの
頑張った自分に乾杯”


そしてサビだ。自分で歌ってみい!結構歌いにくいメロディだぞ!「パッとハジけたい」感情を音の高低差で表現してる!さらに「パッと」「スカッと」「もったいない」「かっ飛ばしたい」と、怒涛の「っ」の連続!そしてサビの最後にくる「シュワっと」!タイアップソングのお手本だぜ!自然な歌詞の並びでありながら、1番印象に残るかたちで「シュワっとハジける炭酸」のフレーズを持ってくる!さらにだめ押しの「頑張った」「っ」!私達は、この曲の「っ」の虜になってんだ!更に言えば、「もおたいなーいーわっ」「たのしまなきゃっ」って、歌ってるからね!どんだけ「っ」使うんだっていうね!

そして、考えてもらいたい。この曲は炭酸飲料のタイアップ曲だ。なら、タイトルはストレートに「シュワッ」で良いはずだ。なんで「パッ」なのか。

もともと英語で歌詞を書ける西野カナは、より広く自分の歌を伝えるためにあえて日本語重視で歌詞を書いてる。だから日本語の特性をよく知っている。日本語は真に言いたいことを文の最後に持ってくる。だからサビの最後、曲の後半に主題をさりげなく持ってくる。西野カナの曲は、このパターンがよくある。『パッ』の本質も後半で出てくる。
“パッと花咲いてパッと散っていく
過ぎ去った時はもう巻き戻せないけど”



このフレーズが炭酸飲料のCMで使われてる箇所だ。なぜ、この箇所がCMで使われてるんだ?多分だが、こんなやり取りがあったんだと思う。

CM担当者が、西野カナにこんな要望を出す。「去年のCMで西野カナさんの曲使ったら好評でした!今年もよろしくお願いしゃっす!シュワッと炭酸みたいな歌詞入れて、メインターゲットの中高生にウケそうな明るくハジけた感じの曲お願いしゃっすー!」たぶんそんなノリで発注してる。その要望に西野カナがこたえる。

CM担当は、その歌詞を見てパッとしつつ、ハッとする。「パッと花咲いて パッと散っていく 過ぎ去った時はもう巻き戻せないけど」そうだ、青春とは「巻き戻せない」んだ。青春の本質とはこれだ!そしてCMのキャッチコピーが「青春は、戻らないらしい。」になる。

あるいは、もともとこのキャッチコピーありきで、西野カナが合わせたのかもしれない。いずれにせよ、この曲は、しっかりと炭酸CM曲になってるだけでなく、青春の本質を突いてるんだ!

そう。「パッと花咲いて パッと散っていく」。青春とは、人生とはそういうもんだ。『パッ』には、シュワっとはじける炭酸だけでなく、儚い青春の意味も含まれている。もっと言えば、西野カナは自分の曲がパッと消費されるものだと自覚していて、そういう自身の売れ方、イメージすらも無意識に込めている。

「パッと簡単に作った曲が売れていいよね。それに比べて自分はパッとしねえわ。ああ、西野カナを聴いてる能天気な奴がうらやましい。こっちは毎日大変だわ」みたいに思っている奴はいくらでもいるだろう?この曲は、むしろそんな輩のためにこそある。

「パッとしない日々」「今日が終わってく」「どうすれば満たされるの?」「もう巻き戻せない」「パッと散っていく」実はこの曲はネガティブな表現にあふれている。でもそれを感じさせない。それは曲の後半に行くほど、ポジティブな表現を増やしているからだ。

“頑張った自分に乾杯
とりあえず明日に乾杯
これからの自分に乾杯”


乾杯する対象は曲が進むにつれ変わっていく!「頑張った自分に」という過去から「とりあえず明日に」という近い未来に行き、そして最後に「これからの自分に」というでかい未来に行きつく。ちゃんとストーリーになってんだ!このさりげないストーリー展開見ろよ!

パッと散っていく短い人生をくだらねえネガティブ感情に費やさず、これからの自分の肯定に使えよ!そういう曲だ。それが全く説教くさくない。だから西野カナは、すげーんだ。さりげなくよく考えられてる歌詞書いてんだ!そりゃドームで公演できるわ!


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