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『瞳に映らない』彼女は何者?indigo la Endが描く小説のようなラブソング

良くも悪くも世間の注目を浴びることが増えた、バンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル、川谷絵音。数々のタイアップや楽曲提供を行い、メジャーデビュー間もない頃からクオリティの高い楽曲を大量生産するスキルとセンスに長けた彼だが、本人がツイッターで街で出会った他人に「ありあまるゲスだ!」と言われてしまったと告白するぐらいには、色々あった人物でもある。しかし、正直彼の本来の持ち味や作風の魅力を知る者からしてみたらそんな世間一般の扱いは失礼極まりないし、そんな彼の本来の作風の魅力をわかっている人は、案外少ないんじゃないかと思う。

世間を賑わせた川谷絵音の優れた才能


ゲスの極み乙女。(以下、ゲス)のブレイクによって良くも悪くも楽曲のキャッチーな部分が先行し、良くも悪くも最近なんかよく聞くようになったよねーみたいなイメージが先行しているんじゃないかと思う。

しかし、曲が有名になるという事はそれだけ良い曲を作るミュージシャンであるという事だし、それだけやり手のバンドメンバーに恵まれているという事だ。そんな伸びしろ満点のミュージシャンを捕まえて(たとえプライベートの素行があまりよろしくなかったとしても)、「ありあまるゲス」とは言語道断。

ゲスの極み乙女。の楽曲も勿論優れたものが多いのだが、彼の持ち味がよりよくわかるのが、川谷が率いるもうひとつのバンド、indigo la Endだ。

Indigo la End(以下、インディゴ)は、2010年に川谷を中心として結成された。結成時期は実はゲスよりも早く、インディゴのボーカルとして活動する川谷のサイドプロジェクト的な形で結成されたのがゲスだった。

『瞳に映らない』で見えて来る魅力


ゲスのダンサブルでキャッチーなサウンドに慣れているとビックリするぐらいシンプルな音が特徴的なインディゴは、たっぷり溜めを取ったドラムにグラマラスなベース、そして繊細でありながら思わず一緒に歌いだしたくなるようなメロディアスな歌とギターのツインメロディが印象的だ。

今でもライブの定番曲として愛されている、メジャーデビュー曲『瞳に映らない』を通して、彼らの魅力に迫ってみよう。

意味深なタイトルが印象的なこの曲は、川谷の浮遊感のあるボーカルと軽快なギターの旋律で幕を開ける。トリッキーな曲展開が特徴的なゲスに比べ、シンプルなギターロックで油断しがちだが、実はこの曲には大きな秘密が隠されている。

瞳に映らない

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行ったり来たりしないでよ
心変わりとか言って
行ったり来たりしてるのを
私のせいにしないでよ
あなた
≪瞳に映らない 歌詞より抜粋≫
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この曲の主人公は少し気の強そうな女性だ。彼女は離れ離れになり、心まで離れてしまった恋人に対し、ちょっと未練がましい想いを綴る。

彼女は、「恋にすがった私なんか嫌よね」と後ろめたさを感じながらも「あなた」を思う気持ちを止められず、いつまでも「行ったり来たりしないでよ」と「聞こえたふりでぼんやりと」しているボンクラな「あなた」に呼びかけ続けている。 

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そっと歌った
誰も聴いてないのに
風と流れて私の声は消えた
≪瞳に映らない 歌詞より抜粋≫
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狂おしく「あなた」の事を想い続ける彼女だが、その存在感はどうにも希薄だ。心変わりしたとは言え恋人にも存在に気づいてもらえず、歌声すらも「風と流れて」消えてしまう。それは何故なのだろう。

何故彼女はこれ程までに、卑屈なまでに自分を“誰の目にも触れない”“「あなた」の瞳に映らない”と思い込んでいるのか?

二番のサビの歌詞のフレーズ


二番のサビの歌詞に、こんなフレーズがある。

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あなたあなたあなただけ
私の瞳に映るから
あなたあなたあなたのことばっか
空から想うよ
≪瞳に映らない 歌詞より抜粋≫
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今まで切ないながらも軽快で楽しげなメロディをなぞってきた、女の子の可愛い未練が、少し様子を変える。「空から」思っている、と言うのは、一体どういう事なんだ?

跳ねるようなテンポを刻んでいたドラムが、物悲しくメロウな調子に変わる。

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最終電車に遅れないように
走らなきゃって
戻らなきゃって
一緒だった夜はかくれんぼしてたね
それが最後で見つけられなかった
≪瞳に映らない 歌詞より抜粋≫
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きっと、彼女と「あなた」は恋人になって間もなかった。かくれんぼをするようにお互いをさぐり合い、愛を確かめ合う最中に、ふたりは離ればなれになってしまった。

「空から」思っていると言う事は、彼女はもう、地上にはいないのだ。彼女はきっと、もうこの世にはいない人。だから、「瞳に映らない」。

誰の目にも触れずに彷徨う彼女の心は、「あなた」に早く見つけてもらいたいと願い続ける。独りぼっちのかくれんぼから救い出してほしい彼女の切なる望みが、「安心させてよ」と言う絞り出すような囁きに込められているようだ。

独り言のようだった川谷のボーカルが、大サビに差し掛かるにつれ狂おしく、力強ささえ感じる程に朗々と響くのが、切ない。

まるで小説家のように曲を描き出す


『瞳に映らない』を始め、インディゴの楽曲には物語のような世界観のラブソングや失恋の歌が多い。

これには作詞作曲を一手に引き受ける川谷の心情が現れている部分も勿論多いのだろうが、「切ない」「淋しい」「幸せ」、たとえどんな感情であってもあくまでも高い客観性の元で描かれているのがよくわかると思う。

同じ「失恋」の物語を描くにしても、自分に近い男性主人公ばかりを選ばずにこの曲のように女性の主人公を選んだり、主人公が女性ならこの描き方が良いだろう、この場合はこんな音でこんなメロディが良いだろうと考え、歌詞だけでなく曲も含め、全て小説でも書くように作られているのだ。

もしも同じテーマをゲスの極み乙女。で演奏するとしたら、彼は音の違いに合わせて全く違う曲として描くだろう。同じようなテーマでも客観的な眼差しを駆使して全く異なる物語を描くそのスタイルは、彼の持つ“ハイクオリティ楽曲大量生産スキル”の秘訣でもあるのかもしれない。

また、インディゴ、ゲスそれぞれのメンバーの音に合わせた曲や歌詞を描くのは、川谷自身が、それぞれのバンドのメンバーの音を何よりも大切に思っているからだ。メンバーもまた、彼の歌の世界を愛しているからこそ、彼の描く物語を鮮やかに音で表す事が出来るのだろう。

ゲスも同じだろうが、インディゴの楽曲は川谷がひとりで作るだけでは成り立たない。インディゴは四人でひとりの小説家のように物語を描いているのだ。

ワイドショーやネットのニュースが笑いものにしたがるような要素は、インディゴの楽曲には一切無い。何故なら彼らの曲は、「indigo la End」と言う名のひとりの小説家が描き出した、リアルなフィクションなのだから。

さあ、甘く切ない恋愛小説でも開くように、インディゴが描くセンシティブでロマンチックな物語に先入観を捨てて没入してみよう。

TEXT 五十嵐文章

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