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カーペンターズ『クロース・トゥ・ユー』とポリティカル・コレクトネス

最近、ニュースで人種差別問題を目にすることが増えてきたように思います。インターネットの普及で火種そのものが増えたのかもしれません。ポリティカル・コレクトネス(差別や偏見を是正するための政治的に正しい言葉遣い)などというワードもよく聞かれるようになりました。
今回ご紹介するカーペンターズの『クロース・トゥ・ユー(邦題:遙かなる影)』はかれこれ半世紀に渡り親しまれてきた曲です。

しかし歌詞をよくみると、今どきであればポリティカル・コレクトネスを迫られかねない部分を含んでいます。

そこでこの曲のカヴァーの歴史を辿ってみると、やはりポリティカル・コレクトネスめいた動きがあったことがわかりました。

カーペンターズ・ヴァージョンの『クロース・トゥ・ユー』



Why do birds
Suddenly appear?
Everytime you are near
Just like me
They long to be
Close to you


なぜ鳥たちは
不意にあらわれるの?
あなたが近くにいるときはいつもそう
きっとわたしのように
彼らもいたいのね
あなたのそばに


『クロース・トゥ・ユー』の歌詞は、あまりにも魅力的な人物をひたすら讃えるという内容です。

バート・バカラックとハル・デイヴィッドのコンビの手によるこの曲は、1963年にリチャード・チェンバレンの歌唱によって初めて発表されました。

そして1970年、決定版とも言うべきカーペンターズによるヴァージョンが発表されます。

美しくロマンティックな彼らの『クロース・トゥ・ユー』は、同年のビルボードHot1001位となる大ヒットを記録しました。

以降あらゆる国や人種のアーティストがこの曲をカヴァーして現在に至りますが、そのほとんどはカーペンターズ版を原典としています。

『クロース・トゥ・ユー』は白人を讃える歌?


ただ歌詞を追っていくと、敏感な人であれば白人以外は抵抗を感じるのではないかという表現があります。

それは、"you"がなぜそんなに魅力的に生まれたのかを説明する箇所です。

On the day that you were born
The angels got together and decided
To create a dream come true
So they sprinkled moondust in your hair
*[of gold and] starlight in your eyes of blue


あなたが生まれた日
天使たちはこぞって決めたのよ
夢を現実にしようって
だから彼らは、あなたの金色の髪に月の塵を振りまいて
あなたの青い目に星の輝きを与えたの


*[]内は、引用元の歌詞では"and golden"ですが上記の聞き取りが一般的。

つまり、魅力的な"you"は金髪に碧眼であることが分かります。

これによって"you"はアングロサクソン系の白人だとみなされても仕方ないと言えるでしょう。

もちろん白人のカレン・カーペンターが歌えば何ら違和感はありません。

しかし白人種以外のシンガーがこのラインを歌えば、ニュアンスがかなり変わってしまう可能性があります。

黒人たちによる『クロース・トゥ・ユー』の歌詞改変


実はカーペンターズがレコーディングする以前に、『クロース・トゥ・ユー』を取り上げた黒人シンガーがいます。

ディオンヌ・ワーウィックは1964年にこの曲を吹き込みました。しかしながら問題の歌詞の部分はカーペンターズと同じように歌っています。

ディオンヌの本当の心情はともかく、白人マーケットを見据えた彼女のシンガーとしての立ち位置ををうかがわせる興味深い事例です。

同じように白人マーケットを無視できない立場に当時いたと考えられるのが、モータウンの歌姫ダイアナ・ロスです。

カーペンターズ版のヒット直後に彼女もこの曲をレコーディングしていますが、例の部分はやはりそのまま歌っていました。

対照的なのが、ダイアナ・ロスとほぼ同時期にこの曲を取り上げた黒人ジャズシンガー、ナンシー・ウィルソンのヴァージョンです。

彼女は例の部分をこう歌っています。

So they sprinkled moondust in your hair.
Oh I see rainbows when I look at you.


だから彼らは月の塵をあなたの髪に振りまいた
ああ、あなたをみれば虹がみえるわ


その後のカヴァー・ヴァージョンをいくつか確認したところ、アイザック・ヘイズやジェリー・バトラーなどの黒人シンガーがやはりこの部分を改変していました。

意外だったのは、社会派なスタンスで知られていたボビー・ウォマックが原曲の歌詞で歌っていたことです。

それぞれの思惑を想像すると興味が尽きませんが、最後に女性黒人シンガーのグウェン・ガズリーのヴァージョンを紹介して終えましょう。

1986年発表らしいシンセサウンドに変わり果てていますが、問題の部分も大きく変貌しています。

They sprinkled moon dust in your hair
But baby, your eyes ain’t blue
Oh but I love your sexy, sexy moves


彼らはあなたの髪に月の塵を振りまいた
でもベイビー、あなたの瞳は青くない
ああ、だけどそのセクシーな動きが大好きよ


ここまで来ると、原曲の歌詞を誰しもが知っていることを前提として、あえてなんらかの意図を含めた改変のようにも思えます。

そう考えると一見軽薄なサウンドアレンジすら、アンチメッセージに聴こえて来るのが面白いところです。

TEXT:quenjiro

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