カントリー・ガールズやJuice=Juiceで活躍した稲場愛香が4月17日にリリースした両A面シングル『圧倒的 LØVE / Pink Temperature』。ソロデビュー作となる本作は彼女の魅力と新たな一面を内包した、稲場愛香の門出を祝う作品になっている。アイドルから1人のアーティストとしてこれから歩んでいく彼女は今、何を語るのか。たっぷりと話を聞いた。
歌って踊るのが好きだった
──まずは、稲場さんがなぜアイドルを目指したのかというところから聞かせていただきたいのですが、いかがですか?
稲場愛香(以下、稲場):気付いたら目指していたというのが正直なところなので、キッカケがあったかと聞かれると、ないんです。物心がついたときには歌って踊ってということをしていたので、将来の夢を考えたときに必然的に音楽をやったり、ステージに立ったりする人になりたいと思っていたんです。
──幼少期に憧れていた人やよくご覧になっていた人はいますか?
稲場:地元の北海道で4歳のときに入ったスクールの先輩にあたるのが、ZONEさん。ローカルアイドルをやらせていただいた時の事務所の先輩にもあたるので、すごく身近な存在でした。あとは、母の影響で音楽を聴くことも多かったので、中森明菜さんやB’zさんの曲はよく聴いていました。
──なるほど。じゃあ、お家の中ではたくさん音楽が流れる環境だったんですね?
稲場:そうですね!常に流れていたと思います。あとは、車に乗って爆音で曲を流しながら、海に出掛けていたというのが、幼少期の風景なんです。母が海好きでほぼ毎日のように幼稚園バスから自家用車に乗り継いで海へ行く。車自体がスピーカーみたいな感じで(笑)。爆音で音楽を流しながら、海へ向かっていたので、音楽はすごく身近だったと思います。
あと、自分では覚えてないんですけど、宇多田ヒカルさんの『Automatic』に合わせて、ノリながら踊っていたりしたみたいです(笑)。
アイドルとしての稲場愛香
──そんな幼少期を過ごし、ハロー!プロジェクトに加入され、Juice=Juiceでも活動されましたけど、改めてハロプロでの時間は稲場さんにとってどんな時間でしたか?
稲場:最初にメジャーデビューをさせていただいたのは、カントリー・ガールズだったので、Juice=Juiceのときはその頃とはまた違った気持ちで過ごしていました。活動歴はあってもいちばん新人として加入するので、当初はとにかく大変だったなと。やっぱり既存のグループに入るとなると、すでに楽曲もたくさんある状態。私は1人加入だったので、私さえ覚えれば完成する楽曲がたくさんある中で、1日に何曲も振り付けや歌割りを覚えてグループの和を乱さないようにデビュー前の新人の気持ちで挑みながら頑張っていましたね。
でも、年齢的には上の方ではあったので、後輩もどんどん入ってきて、自分の立ち位置も変化していったときに、心情も変わっていったというか。自分のことだけでなく、グループ全体のことを考えたり、後輩にどういう風に伝えてあげたらいいかとか、少し言いづらいようなことも言葉を選びながら言ってみるという経験をさせてもらったり、とにかく濃い日々で、人生の中ですごくいい経験させていただいた時間でした。
──なかでも一番学んだことはなんでしょうか?
稲場:全てのお仕事において、人と人との繋がりで成り立っているんだなとすごく感じていて。どんな場所でお会いする方でもそれぞれの人生があるなと。そういう人の気持ちをより考えて、先回りして、そのために自分がどういう位置にいるのが正解なのかとか、人生についてすごく考えるようになったかもしれません。周りにいる人を大切にすることが大事だなって。
──幼少期から歌って踊ることが好きだった稲場さんですが、アイドル以外の選択肢もあったりしましたか?
稲場:幼少期の頃はありましたね。歌って踊るということはするんだろうなと思いつつ、小さい頃はお花屋さんになってみたいとかケーキ屋さんがいいなとかクレープを作ってみたいとか、そういう思いもあったので。ただ、成長していく中で先の人生を考えたとき、そろそろ動き出さないといけないというタイミングがやってくるんですよね。私が本当にやりたいことは何だろうと。
小学5年の頃から、EXPG STUDIOに入って、本格的にダンスを習い始めたんですが、ダンスが本当に楽しかった。歌には苦手意識があったけど、ダンスはずっと続けていられそうという自信、嫌いにならない自信というか、どんなに大変でもそれも楽しめるみたいな感じで続けてきました。そうしたら段々と、自分はダンスだけでなく苦手な歌も演技も含めて、表現できる人になりたいと思うようになって。いろんなものが表現できる職業は何かと考え始めたときに出会ったのがハロー!プロジェクトでした。アイドルっていいなと思ったし、アイドルはアイドルでもハロプロにどうしても入りたいなと思ったんです。
──なぜ、ハロー!プロジェクトに惹かれたんですか?
稲場:やっぱり生歌がすごいなって。こんなに歌って踊って、当時の私からしたら考えられないことでした。ダンスを踊るだけでも息が上がるのに、本当に歌っているんだと思ったし、こんなに高いヒールで踊っているのもすごいし、衣装もキラキラしていて可愛い。単純にグループとしてモーニング娘。さんに憧れがあって、スマイレージさんの初期、4人の4スマがすごく好きだったので。その頃からオタク的な自分の人格が芽生え出して、観ていても楽しめるのがアイドル、ファンの方は推しを見つけて可愛いなと癒される。私もそういう存在になりたいと思いました。
──実際にその夢を叶えたわけですけど、いかがでしたか?
稲場:もちろんキラキラしてるだけじゃないっていうのは当たり前だけど、それ以上に得るものも大きくて、自分が想像していたよりも難しくて楽しくて、アイドルになれて本当によかったと思います!
卒業し、1人で歩んでいく
──いいですね。そこから卒業し、1人で歩んでいくことになります。
稲場:グループの頃から1人のお仕事もあったりしたので、そういう感覚でもっとお仕事を増やしていきたいと思って、年齢や今後を考えて卒業をしたんですけど、歌とダンスを辞めるという選択肢はなくて、M-lineでのライブ活動もあるので、ライブ活動をしながら演技のお仕事だったり今後やっていきたいなとか、メイクやコスメも好きだったりファッションも好きなので女性向けの活動もしていきたいなと色々考えてはいたんですけど、なかなか最初から上手くはいかないというか。
やりたいことだけが出来る状態ではない中で、ライブ活動を続けながらどうやっていこうかなと思っているときにソロデビューのお話をもらって。正直、ソロというのは考えてなかったんです。まさか私がという感じで。やり切ったと思っていたアイドル活動が、1人になるとアーティストという形にはなるわけですけど、また一から挑戦していくんだと思うと相当な覚悟が必要だなと思いました。でもそれを聞いたときに断るという選択肢はなくて、やるからには全力でやりたいと思ったし、ファンの皆さんから「曲を出してほしい」、「音楽活動を応援したい」という声も頂いていたので、その声にも応えることが出来るかなと思ったんです。
──本作を聴いて思ったのは、稲場さんはずっと歌って踊りたいと思ってる人だなと思ったんですよ。やっぱりパフォーマンスをしている稲場さんは輝いてると思うし、実際にMVも拝見しましたけど、めちゃくちゃ眩しかった。
稲場:えー、本当ですか?!映像効果で輝いて見えてただけじゃないですか?
──いや、稲場さんが輝いてましたよ(笑)。
稲場:嬉しいです。
──稲場さんにとって、歌って踊るってどういうことなんでしょう?
稲場:私の生き様を魅せられる最大のものたち、ですかね。ずっとそこを中心に生きてきたので。もし歌とダンスをやっていなかったら、どうやって生きてきているんだろうなと思うし、人生のメインが歌とダンスだから。人生そのものだと思います。
──これまでグループに属して切磋琢磨できる仲間がいる状態でパフォーマンスをしてたわけですが、これからは1人でステージに立つことになります。それってとても怖いことだと思うんです。
稲場:怖かったですよ!本当に恐怖です!眠れない夜もあったくらい。悩んだらとことん悩むタイプなんですけど、以前の悩みとはちょっと違うというか。同じ心境でいてくれる人がいない状況で、これからは自分自身で乗り越えていかないといけないということがすごく不安だったし、プレッシャーでした。制作の仕方もグループのときとは異なり、トラックダウンやマスタリングの現場にも携わらせていただいて、楽曲1つに関わってくださる方々のお顔を直接見たり、お話したりして、今まで以上にたくさんの人の思いを背負っていることに気付けたというか。皆さんの思いを代表して「これが私の曲です!」と歌っていかなければいけないと思うとプレッシャーを感じましたね。
でもいざやってみると、1人だけど1人じゃない。制作を共にされた方、反応くださるファンの皆さん―――「ファンの皆さんのおかげで」とよく言うけど、本当にその通りだなって。聴いてくれる人、見てくれる人がいなければ、私はどうにもならない。皆さんがいてくれるから、初めて自分のやりたいことができるし、伝えたいことも伝えることができる。皆さんのありがたみをより感じました。
──ソロになったことで色んな気付きがあったんですね。マスタリングなどの現場も経験したとのことですが、音楽の聴き方にも変化があったのでは?
稲場:変わりましたね!今までどうやって音楽を聴いていたんだろうって思いました。もちろん色んな楽器の音を意識して聴くようにしていたし、ハロプロ研修生の頃から、インストを聴いて何個の楽器が使われているかとか学んでいたりもしたので、やってきた分の知識はあるつもりだったけど、用語とか分からないことも多くて、その分発見もたくさんありましたね!あとはいつもイヤホンで聴いていたものを、ヘッドフォンで聴いてみました。かなり音楽の聴き方には変化があったと思います。
以前バースデーイベントで使った、カラオケ。当時は何も感じなかったけど、今回リリースイベントで同じ音源を使おうと思ったときに、頭にほんのちょっとだけブレスの音が入ってるのが聞こえて、今までだったら気付かなかった音にも気付けるようになっているんですよね。
──鍛えられましたね。相当いい経験をしてると思いますよ。自分で音楽を作りたくなったりもしてるんじゃないですか?
稲場:いやぁ、なりそうです!本当に楽しくて!自分はこういう音が好きということが分かってきたし、何をどう始めればいいか分からないけど、いつか出来たら楽しく作れそうだなと思います。
ソロデビュー作『圧倒的 LØVE / Pink Temperature』
──それでは、『圧倒的 LØVE / Pink Temperature』についてお聞きします。本作はどのような作品に仕上がりましたか?
稲場:まず、『圧倒的 LØVE』はタイトル通り、圧倒的な愛を歌った曲。色んなところに愛がちりばめられていて、歌詞一つとっても、恋する乙女の、好きすぎてどうしようもない気持ちが伝わってくる作品で。そんな恋心が全面に出ればいいなと思い歌っています。MVもキラキラした世界観で、一見すると全てCGに見えるかもしれないですが、よく見るとLEDのセットになっているという、何度も見て楽しめる作品になったなと思います。とにかくキラキラとしたカワカッコいい曲に仕上がりました。
──稲場さんを象徴した作品だなと思いました。最初に聴いたときの印象はいかがでしたか?
稲場:可愛い!いい曲だ!絶対に歌いたい!と思いました。アニメの主題歌になったら素敵だなと思うような曲調で、可愛いに振り切った曲だなと思ったんですが、制作を進めていく中で、ロックな感じも際立ち始めて可愛いだけじゃなくかっこよさもあるということで、幅広い世代の方に聴いていただける曲になったなと思います。
──個人的にはこの曲調は、稲場さんの得意なジャンルなのかなと思ったのですが。
稲場:どうですかね〜。客観的に考えると得意そうだなと思います(笑)。私は、高音の箇所は突き抜けたいタイプで、この曲は抑えず歌うことが出来るので。以前から、「高音がキラキラしてる」と言っていただけることも多く、そのキラキラ感は出していきたいなと思いつつ、Bメロでは吐息混じりで意外と大人な発声も出来るんだよと新たな一面も魅せられる曲でもあると思っていて。落ちサビも含めて、ウィスパーな感じも出ている得意そうな曲だなと思います。
──一方で、『Pink Temperature』はクールな稲場さんの表情というか。新たな一面なのかなと。
稲場:完全に大人まなかんですよね。最初に聴いたときからダンスが激しく、絶対カッコよくなるなと想像できた曲ですね。海外の方に作曲して頂いた曲ということもあり、グルーヴ感がすごくて、ならではの感じ。今にも踊り出したくなる曲調です。
ただ、レコーディングをしてみると、最初のイメージよりも大人な発声になったというか、とにかくクールでかっこいい曲だと思っていたのが、かなりセクシーな曲に変わっていって。大体のサビって突き抜けたくなるんですけど、あえてAメロから低めに歌いつつ、サビでウィスパーになるという歌い方にチャレンジして、試行錯誤しながらのレコーディングでした。歌えば歌うほど、聴けば聴くほど好きになる曲で、今回は両A面ですけど、どっちが好きと聞かれても選べないくらい大好きな2曲になりました。
──制作をしながら楽しくなっていくってすごくいい循環というか。アーティストの醍醐味のような気がしますね。
稲場:初めて、自分で意見していくのも大事なんだなと教えてもらいました。何も言わないのは遠慮とかではなく、自分の仕事をサボっているのと一緒になってしまうと気付かされた制作現場でした。何も分かってない自分が言うのは失礼だと思っていたけど、実際に意見を出すことで「いいですね」と採用していただける場面も多く、とても楽しい制作でしたね。
──意思疎通を取れるいい現場だった。
稲場:そうですね。分からないけど、言ってみました。それがもし違っても、皆さんが優しく教えてくれるので、初心者に優しい現場だったと思います(笑)。
たくさんの反響があった、デビュー作
──UtaTenでは恒例の質問がありまして、好きなフレーズや歌詞を聞いているのですが、『圧倒的 LØVE / Pink Temperature』で好きなフレーズはありますか?
稲場:悩ましいですね〜(笑)。『圧倒的 LØVE』は〈やめて 避けられないから〉ですかね。実は最初は「よけられないから」という歌詞だったんです。楽曲を作る上では、歌詞がいちばんというよりかは、聴こえ方を重視してくことが大切だと思うんですけど、私はどうしても昔から歌詞を重視して曲を聴くタイプで。今回も歌っていて、「よけられないから」ってなんだか物理的だなと思ったんですよね。この曲って、好きで好きで仕方なくて、気持ちを離したくて離すことが出来ないという感情を歌った曲だと思うんです。だから、「よけられないから」より「さけられない」からの方がキュンとするなって。自分から提案して、採用されたという背景も込みで、ここは好きなポイントです。
圧倒的LOVE 歌詞
https://utaten.com/lyric/hw24041775/
作詞 金子 真友美
作曲真下 正樹
──確かに、そっちの方が語感もいいと思うし、感情の距離を表すのには「さけられない」の方がピッタリだと思います。
稲場:おお〜!嬉しい!ありがとうございます(笑)。
──では、『Pink Temperature』はどうですか?
稲場:どうしようかな〜!!うわ〜!!悩ましいな〜。ストーリー性がある曲だからどこの歌詞もなくてはならないんですけど、歌っていてすごく入り込むのは、落ちの〈もう この身を縛る 「誰か」の視線 私の体温で燃やしてしまえ〉のところですかね。音も相まって感情移入しちゃうというか、歌詞の通り、皆さんの視線によって私は縛られているんだという感じ。「しまえ〜」の箇所はロングトーンなんですけど、最初は低い感じだったんです。
でも私は絶対突き抜けたいなと思って、語尾を上げるアレンジを提案して、レコーディングしてMVも撮らせていただいたんですけど、音楽的に考えるとズレが生じるということで音源では加工を用いていて。自分が提案して楽曲に変化をもたらすと、よりその楽曲に良さを存分に発揮しなければいけないという責任が寄りかかってくるというか。与えられたものをやるのではなく、自分がこうしたいと言ってやるからには良いものしないといけないということにも気付けたので、ここのフレーズ、特にロングトーンはかなり意識して歌っています。
Pink Temperature 歌詞
https://utaten.com/lyric/hw24041776/
作詞 児玉雨子
作曲 Julie Yu , Gustav Mared , Carlos Okabe
──いいですね。きっとその稲場さんの思いが制作チームにも伝わっているし、リスナーにも伝わると思います。リリースして少し時間が経ちましたが、周りの反響はいかがですか?
稲場:すごくいいです!本作は、2曲の他にアディショナルも含めて全5曲が収録されているんですけど、皆さん「どの曲もいい」と言ってくださっていて。1曲はカバーだけど、残りの4曲は自分のための歌。それぞれに異なる色があると思うし、「A面よりもこの曲が好き」という言葉も多くて。そういう楽曲があるということが誇らしいです。ソロになってから以前よりも数字的なことも気にするようになったけど、オリコンでデイリー、ウィークリーで2位を記録した時は、すごくたくさんの方に届いているんだなと思って嬉しかったです。
──きっとこれからもっと音楽的にも進化していくと思うし、もっともっと音楽が楽しくなっていくと思いますが、今後の展望はどう考えていますか?
稲場:そうですね〜。目標は、大きな目標を定めすぎずに、日々の小さな目標をクリアしていく感じで、流れに身を任せるのが目標!流れに身を任せながらここまで来て、やりたいこともやれているし、まだまだ挑戦したいこともある。なんだかんだいい人生を送れてると思うので、この調子で先に進んでいくには、今まで通り流れに身を任せてやっていくことが大事なのかなと思っています。