(セリフ)
「辿々たどたどしくは候そうろうも、墨すみをすり、
筆ふでを噛かみ、恥はじも外聞がいぶんも考かんがえず、憶おぼえしい
ろはの仮名書かながきにて、老おいし身みのただひと
つ、今生こんじょうにての願ねがいを込こめ……」
暗くらい夜業よなべの 灯あかりの蔭かげに
そなた案あんじて 筆ふでとり候そうろう
秋あきの祭まつりの 太鼓たいこの音おとも
一人ひとりわび住すむ 母ははなれば
なまじなまじ なまじ白髪しらがの
ますのみに候そうろう
(セリフ)
「いつまでもなんで子供こどもと思おもう
のかと笑わらわれてもその子供こどもをこそ忘わすれ
られぬが母ははにて候そうろう」
結むすぶ夜毎よごとの 夢ゆめさえも
遥はるか都みやこの 空そらにて候そうろう
よるべなき身みに さぞやの苦労くろう
離はなればなれの 悲かなしさは
思おもい思おもい 思おもい届とどかず
もどかしく候そうろう
(セリフ)
「雨あめの朝あさ、月つきの夜よる、縁えん寺てらの鐘かねを
聞きくたびにどうぞお守まもり下くださいとご先祖せんぞ
さまにお願ねがいしては泣なくばかり。」
老おいの繰くり言ごと たどたどと
便たより書かく手ても 凍こごえて候そうろう
飾かざる錦にしきは 何なにほしかろう
親子おやこ二人ふたりで 水入みずいらず
暮くらす暮くらす 暮くらすのぞみに
すがり居おり候そうろう
(セリフserifu)
「辿々tadotadoしくはshikuha候sourouもmo、墨sumiをすりwosuri、
筆fudeをwo噛kaみmi、恥hajiもmo外聞gaibunもmo考kangaえずezu、憶oboえしいeshii
ろはのrohano仮名書kanagakiにてnite、老oいしishi身miのただひとnotadahito
つtsu、今生konjouにてのniteno願negaいをiwo込koめme……」
暗kuraいi夜業yonabeのno 灯akariのno蔭kageにni
そなたsonata案anじてjite 筆fudeとりtori候sourou
秋akiのno祭matsuりのrino 太鼓taikoのno音otoもmo
一人hitoriわびwabi住suむmu 母hahaなればnareba
なまじなまじnamajinamaji なまじnamaji白髪shiragaのno
ますのみにmasunomini候sourou
(セリフserifu)
「いつまでもなんでitsumademonande子供kodomoとto思omoうu
のかとnokato笑waraわれてもそのwaretemosono子供kodomoをこそwokoso忘wasuれre
られぬがrarenuga母hahaにてnite候sourou」
結musuぶbu夜毎yogotoのno 夢yumeさえもsaemo
遥haruかka都miyakoのno 空soraにてnite候sourou
よるべなきyorubenaki身miにni さぞやのsazoyano苦労kurou
離hanaればなれのrebanareno 悲kanaしさはshisaha
思omoいi思omoいi 思omoいi届todoかずkazu
もどかしくmodokashiku候sourou
(セリフserifu)
「雨ameのno朝asa、月tsukiのno夜yoru、縁en寺teraのno鐘kaneをwo
聞kiくたびにどうぞおkutabinidouzoo守mamoりri下kudaさいとごsaitogo先祖senzo
さまにおsamanio願negaいしてはishiteha泣naくばかりkubakari。」
老oいのino繰kuりri言goto たどたどとtadotadoto
便tayoりri書kaくku手teもmo 凍kogoえてete候sourou
飾kazaるru錦nishikiはha 何naniほしかろうhoshikarou
親子oyako二人futariでde 水入mizuiらずrazu
暮kuraすsu暮kuraすsu 暮kuraすのぞみにsunozomini
すがりsugari居oりri候sourou