憂うき世よ算盤そろばんはじいてみたら、
苦労くろう七分しちぶに仕合しあわせ三分さんぶん。
お釣つりもこない才覚やりくりを、
値切ねぎったあげく添そわせておくれと願がんかける。
この世よは人生じんせい紙芝居かみしばい、泣ないて笑わろうて、
笑わろうて泣ないて、浪花なにわ人情にんじょう、蝶子ちょうこ・柳吉りゅうきちものがたり。
好すいた同士どうしが 手てに手てをとって
勘当かんどう承知しょうちの 駆かけ落おちさわぎ
あんたかんにん 苦労くろうをさせて
いつか小店しょうてんを 持もつその日ひまで
雇女やとな稼業かぎょうの 雇女やとな稼業かぎょうの 安来節やすぎぶし
柳吉りゅうきち「蝶子ちょうこ… 蝶子ちょうこ、戸と開ひらけてえな」
蝶子ちょうこ「どなたです?」
柳吉りゅうきち「どなたて、わいやわいや」
蝶子ちょうこ「わいでは分わかりまへんで」
柳吉りゅうきち「継つぎ康これやす柳吉りゅうきちや」
蝶子ちょうこ「継つぎ康やすしいう人ひとは沢山たんといたはります。
それに柳吉りゅうきちいう人ひとは、此処ここには用ようのない人ひとだす。
うちの大事だいじな貯金ちょきん通帳つうちょう持もち出だして、三日みっかも家いえに帰かえらんと、
どこぞで今いまごろ散財さんざいしてはりまっしゃろ。
ほんまに泣なくに泣なけんわ。
あんた、帰かえるとこよう忘わすれんかったこっちゃな!」
柳吉りゅうきち「痛いたァ!何なにすんねん、無茶むちゃしな…
すまん、すまんいうとるやないか、
どうぞ、かんにんしておくれ」
阿呆あほや阿呆あほやと柳吉りゅうきちの、胸むねをたたいて泣なきすがる、
女おんなごころの…路地ろじしぐれ。
はした金がねでも 節約しまつを重かさね
辛抱しんぼうしわ虫むし 塵ちりまで貯ためた
あんた泣なけるわ ふたりの貯金ゆめを
いつの間まにやら 根ねこそぎ使づかいこて
もとの貧乏びんぼうに もとの貧乏びんぼうに 逆ぎゃくもどり
柳吉りゅうきち「蝶子ちょうこ、お前まえ気きにしたらあかんで。
これは芝居しばいや、別わかれました、女おんなも別わかれる言いうてますと、
巧うまく親父おやじを欺だまして、貰もらうだけのものは、貰もろたら、
その金かねで気楽きらくな商売しょうばいでもやって暮くらそうやないか。
明日あす、家いえの使つかいの者ものが来こよったら、
別わかれまっさときっぱり言いうて欲ほしいんや。芝居しばいやで」
蝶子ちょうこ「…うちはいやや。
たとえ嘘うそにしろ別わかれるいうて手切金てぎれきん貰もらいたら、
それきりで縁えんが切きれそうな気きするんや」
柳吉りゅうきち「ど阿呆あほ。芝居しばいや言いうてるやないか。
ちょっとは欲よくを出ださんかいや」
蝶子ちょうこ「いやや、いやや、お金かねはいらん。
雇女やとなしてても蝶子ちょうこ・柳吉りゅうきちは天下晴てんかはれての夫婦ふうふや。
うちの力ちからであんたを一人前いちにんまえの男おとこにしてみせますさかい。」
柳吉りゅうきち「阿呆あほんだら。お前まえはほんまに阿呆あほうや!」
蝶子ちょうこ「阿呆あほや阿呆あほや、うちは浪花なにわの大だい阿呆あほうや!」
店みせを持もっても 日持ひもちがせずに
頼たよりにならない 極楽ごくらくとんぼ
あんたええがな 自由じゆうに生いきて
そんな男おとこに ほの字じやさかい
ついてゆきます ついてゆきます どこまでも
蝶子ちょうこ「あんた、なんぞうまいもん食たべにいきまひょか」
柳吉りゅうきち「法善寺ほうぜんじの"めおとぜんざい"いこか」
蝶子ちょうこ「"花月かげつ"の春団治はるだんじの落語らくごも聴ききたいわ」
柳吉りゅうきち「おばさん、あんじょう頼たよりにしてまっさ」
憂uきki世yo算盤sorobanはじいてみたらhajiitemitara、
苦労kurou七分shichibuにni仕合shiaわせwase三分sanbun。
おo釣tsuりもこないrimokonai才覚yarikuriをwo、
値切negiったあげくttaageku添soわせておくれとwaseteokureto願ganかけるkakeru。
このkono世yoはha人生jinsei紙芝居kamishibai、泣naいてite笑waろうてroute、
笑waろうてroute泣naいてite、浪花naniwa人情ninjou、蝶子chouko・柳吉ryuukichiものがたりmonogatari。
好suいたita同士doushiがga 手teにni手teをとってwototte
勘当kandou承知syouchiのno 駆kaけke落oちさわぎchisawagi
あんたかんにんantakannin 苦労kurouをさせてwosasete
いつかitsuka小店syoutenをwo 持moつそのtsusono日hiまでmade
雇女yatona稼業kagyouのno 雇女yatona稼業kagyouのno 安来節yasugibushi
柳吉ryuukichi「蝶子chouko… 蝶子chouko、戸to開hiraけてえなketeena」
蝶子chouko「どなたですdonatadesu?」
柳吉ryuukichi「どなたてdonatate、わいやわいやwaiyawaiya」
蝶子chouko「わいではwaideha分wakaりまへんでrimahende」
柳吉ryuukichi「継tsugi康koreyasu柳吉ryuukichiやya」
蝶子chouko「継tsugi康yasushiいうiu人hitoはha沢山tantoいたはりますitaharimasu。
それにsoreni柳吉ryuukichiいうiu人hitoはha、此処kokoにはniha用youのないnonai人hitoだすdasu。
うちのuchino大事daijiなna貯金chokin通帳tsuuchou持moちchi出daしてshite、三日mikkaもmo家ieにni帰kaeらんとranto、
どこぞでdokozode今imaごろgoro散財sanzaiしてはりまっしゃろshiteharimassyaro。
ほんまにhonmani泣naくにkuni泣naけんわkenwa。
あんたanta、帰kaeるとこようrutokoyou忘wasuれんかったこっちゃなrenkattakotchana!」
柳吉ryuukichi「痛itaァa!何naniすんねんsunnen、無茶muchaしなshina…
すまんsuman、すまんいうとるやないかsumaniutoruyanaika、
どうぞdouzo、かんにんしておくれkanninshiteokure」
阿呆ahoやya阿呆ahoやとyato柳吉ryuukichiのno、胸muneをたたいてwotataite泣naきすがるkisugaru、
女onnaごころのgokorono…路地rojiしぐれshigure。
はしたhashita金ganeでもdemo 節約shimatsuをwo重kasaねne
辛抱shinbouしわshiwa虫mushi 塵chiriまでmade貯taめたmeta
あんたanta泣naけるわkeruwa ふたりのfutarino貯金yumeをwo
いつのitsuno間maにやらniyara 根neこそぎkosogi使dukaiこてkote
もとのmotono貧乏binbouにni もとのmotono貧乏binbouにni 逆gyakuもどりmodori
柳吉ryuukichi「蝶子chouko、おo前mae気kiにしたらあかんでnishitaraakande。
これはkoreha芝居shibaiやya、別wakaれましたremashita、女onnaもmo別wakaれるreru言iうてますとutemasuto、
巧umaくku親父oyajiをwo欺damaしてshite、貰moraうだけのものはudakenomonoha、貰moroたらtara、
そのsono金kaneでde気楽kirakuなna商売syoubaiでもやってdemoyatte暮kuらそうやないかrasouyanaika。
明日asu、家ieのno使tsukaいのino者monoがga来koよったらyottara、
別wakaれまっさときっぱりremassatokippari言iうてute欲hoしいんやshiinya。芝居shibaiやでyade」
蝶子chouko「…うちはいややuchihaiyaya。
たとえtatoe嘘usoにしろnishiro別wakaれるいうてreruiute手切金tegirekin貰moraiたらtara、
それきりでsorekiride縁enがga切kiれそうなresouna気kiするんやsurunya」
柳吉ryuukichi「どdo阿呆aho。芝居shibaiやya言iうてるやないかuteruyanaika。
ちょっとはchottoha欲yokuをwo出daさんかいやsankaiya」
蝶子chouko「いややiyaya、いややiyaya、おo金kaneはいらんhairan。
雇女yatonaしててもshitetemo蝶子chouko・柳吉ryuukichiはha天下晴tenkahaれてのreteno夫婦fuufuやya。
うちのuchino力chikaraであんたをdeantawo一人前ichininmaeのno男otokoにしてみせますさかいnishitemisemasusakai。」
柳吉ryuukichi「阿呆ahoんだらndara。おo前maeはほんまにhahonmani阿呆ahouやya!」
蝶子chouko「阿呆ahoやya阿呆ahoやya、うちはuchiha浪花naniwaのno大dai阿呆ahouやya!」
店miseをwo持moってもttemo 日持himoちがせずにchigasezuni
頼tayoりにならないrininaranai 極楽gokurakuとんぼtonbo
あんたええがなantaeegana 自由jiyuuにni生iきてkite
そんなsonna男otokoにni ほのhono字jiやさかいyasakai
ついてゆきますtsuiteyukimasu ついてゆきますtsuiteyukimasu どこまでもdokomademo
蝶子chouko「あんたanta、なんぞうまいもんnanzoumaimon食taべにいきまひょかbeniikimahyoka」
柳吉ryuukichi「法善寺houzenjiのno"めおとぜんざいmeotozenzai"いこかikoka」
蝶子chouko「"花月kagetsu"のno春団治harudanjiのno落語rakugoもmo聴kiきたいわkitaiwa」
柳吉ryuukichi「おばさんobasan、あんじょうanjou頼tayoりにしてまっさrinishitemassa」