この討うち入いりの夜よる 父ちち 上野介こうずけのすけ襲撃しゅうげきさるるの報ほうに接せっし
直ただちに軍勢ぐんぜいを率ひきいて出馬しゅつばしようとした人ひとがいた、その身みは従じゅう四し位いの下げ、上杉うえすぎ弾正だんじょう大たい弼ひつ綱憲つなのり。
出羽でわ米沢よねざわ十五万じゅうごまん石ごくの名家めいかの為ために泣ないて止とどめた千坂ちさか兵部ひょうぶ、断たち難がたき親子おやこの絆きずな。
彼かれも亦また運命うんめいの糸いとが操あやつる人間にんげん相克そうこくの劇ドラマの中なかの人ひとであった。
赤穂あこう浪士ろうしの討入うちいりは
敵てきも味方みかたも雪ゆきの中なか
此処ここが命いのちの 捨すてどころ
月つきが照てらした 人間にんげん模様もよう
十じゅうと四よっ日かの 夜よが更ふける
弾正だんじょう大たい弼ひつ綱憲つなのりは
父ちちを案あんじて床とこの中なか
何故なぜか今宵こよいは 胸騒むなさわぎ
閉とじる瞼まぶたが 眠ねむりに落おちぬ
十じゅうと四よっ日かの 夜よが更ふける
「夜中やちゅう恐おそれ乍ながら御ご大守たいしゅ様さまに申もうし上あげまする。
只今ただいま御尊父ごそんぷ上野介こうずけのすけ様さまお屋敷やしきへ浅野あさのの浪人ろうにんが斬きり込こみましてござりまする。
人数にんずうの程ほどは、しかと分わかりませぬが百ひゃく人にん以上いじょうとの注進ちゅうしんにござりまする!」
「何なに!真まことか!!うむ己おのれ!すぐさま 家来けらい共どもに戦いくさじゃと申もうせ!
ええ!直ただちに本所ほんじょへ繰くり出だし浅野あさののやせ浪人ろうにんひとり残のこらず討うち取とるのだ!!」
吉き良家らけの嫡男ちゃくなんと生うまれたが
わずか二に才さいで養子ようしとなって
名将めいしょう上杉うえすぎ謙信けんしんの
家名かめいを継ついだ綱憲つなのりが
怒いかり狂くるうも無理むりじゃない
父ちちの命いのちの瀬戸せと際ぎわを
何なんでこの侭まま見逃みのがそう
鎖くさりかたびら身みにまとい
黒くろの小袖こそでに錦にしきの袴はかま
たすき十字じゅうじに綾あやなして
槍やりを小脇こわきにツッ、ツッ、ツツ……
走はしり出いでゆく玄関げんかん先さき
早はやくも雪ゆきの庭前ていぜんに
居並いならぶ勇士ゆうしの面々めんめんは
家老かろう色部いろべの又四郎またしろう 深沢ふかざわ重政しげまさ
森もり監物けんもつ 更さらに柿崎かきざき弥三郎やさぶろう
その数実かずじつに三百人さんびゃくにん
「おう!馬うまを引ひけ」
我われにつづけとまたがれば
大門おおもん開ひらく八文字はちもんじ 駒こまはいななき白雪しらゆきを
けたててパッパッパパ……
日比谷ひびやの屋形やかた正まさに出いでんとした時ときに
「殿との!しばらくしばらく!!」
馬うまのくつわをしっかりと 押おさえた人ひとは誰だれあろう
上杉うえすぎ随一ずいいち、智恵ちえの袋ふくろとうたわれた
家老かろう上席じょうせき千坂ちさか兵部ひょうぶその人ひとなり
「兵部ひょうぶ何故なぜ止とめるのだ、現在いま父ちちと吾子わがこの義周よしちかが浅野あさのの
家来けらいに襲おそわれているのだぞ!そこを退どけ!兵部ひょうぶええ!!退どかねば突殺つきころすぞ!!」
槍やりをかざして馬上ばじょうに立たてば
ぐっと見上みあげた千坂ちさか兵部ひょうぶ
此処ここが我慢がまんの仕しどころじゃ
貴方あなたは貴方あなたの務つとめがござる
若もしも広島ひろしま浅野あさのの御ご宗家そうけ
四十万よんじゅうまん石ごく力ちからにかけても仇あだ討うたせると
軍勢ぐんぜいまとめて繰くり出だしたなら
最早もはやひくにもひけませぬ
正まさに天下てんかの一大事いちだいじ
後あとの咎とがめは何なんとする
歴史れきしに残のこる上杉うえすぎの
家名かめいを潰つぶす綱憲つなのり様さまは
愚おろか者ものよと笑わらわれましょう
儂わしの言葉ことばが無理むりならば
斬きって出陣しゅつじん遊あそばせと
血ちを吐はく想おもいで諫いさめる千坂ちさか
その一言ひとことが 磐石ばんじゃくの
重おもみとなって胸むねを打うつ
「兵部ひょうぶ解わかった。皆みなの者ものそれぞれ持場もちばに帰かえり指示しじを待まて。
千坂ちさかよ、仏間ぶつまに御法燈みあかしを灯ともせ。天下てんかに恥はじをさらしたとて
父ちちは父ちち。余よは独ひとり静しずかに、あの世よへ旅立たびだちなさる父上ちちうえの
御冥福ごめいふくを祈いのろう。千坂ちさかのじいよ。大名だいみょうの子こは辛つらいのう」
槍やりを大地だいちに突つき立たてて
泣ないて堪こらえた綱憲つなのりの
顔かおを照てらして 陽ひが昇のぼる
仇あだも恨うらみも 降ふり積つむ雪ゆきも
解とけて流ながれる 朝あさが来くる
このkono討uちchi入iりのrino夜yoru 父chichi 上野介kouzukenosuke襲撃syuugekiさるるのsaruruno報houにni接sextuしshi
直tadaちにchini軍勢gunzeiをwo率hikiいてite出馬syutsubaしようとしたshiyoutoshita人hitoがいたgaita、そのsono身miはha従juu四shi位ino下ge、上杉uesugi弾正danjou大tai弼hitsu綱憲tsunanori。
出羽dewa米沢yonezawa十五万juugoman石gokuのno名家meikaのno為tameにni泣naいてite止todoめたmeta千坂chisaka兵部hyoubu、断taちchi難gataきki親子oyakoのno絆kizuna。
彼kareもmo亦mata運命unmeiのno糸itoがga操ayatsuるru人間ningen相克soukokuのno劇doramaのno中nakaのno人hitoであったdeatta。
赤穂akou浪士roushiのno討入uchiiりはriha
敵tekiもmo味方mikataもmo雪yukiのno中naka
此処kokoがga命inochiのno 捨suてどころtedokoro
月tsukiがga照teらしたrashita 人間ningen模様moyou
十juuとto四yoxtu日kaのno 夜yoがga更fuけるkeru
弾正danjou大tai弼hitsu綱憲tsunanoriはha
父chichiをwo案anじてjite床tokoのno中naka
何故nazeかka今宵koyoiはha 胸騒munasawaぎgi
閉toじるjiru瞼mabutaがga 眠nemuりにrini落oちぬchinu
十juuとto四yoxtu日kaのno 夜yoがga更fuけるkeru
「夜中yachuu恐osoれre乍nagaらra御go大守taisyu様samaにni申mouしshi上aげまするgemasuru。
只今tadaima御尊父gosonpu上野介kouzukenosuke様samaおo屋敷yashikiへhe浅野asanoのno浪人rouninがga斬kiりri込koみましてござりまするmimashitegozarimasuru。
人数ninzuuのno程hodoはha、しかとshikato分waかりませぬがkarimasenuga百hyaku人nin以上ijouとのtono注進chuushinにござりまするnigozarimasuru!」
「何nani!真makotoかka!!うむumu己onoれre!すぐさまsugusama 家来kerai共domoにni戦ikusaじゃとjato申mouせse!
ええee!直tadaちにchini本所honjoへhe繰kuりri出daしshi浅野asanoのやせnoyase浪人rouninひとりhitori残nokoらずrazu討uちchi取toるのだrunoda!!」
吉ki良家rakeのno嫡男chakunanとto生umaれたがretaga
わずかwazuka二ni才saiでde養子youshiとなってtonatte
名将meisyou上杉uesugi謙信kenshinのno
家名kameiをwo継tsuいだida綱憲tsunanoriがga
怒ikaりri狂kuruうもumo無理muriじゃないjanai
父chichiのno命inochiのno瀬戸seto際giwaをwo
何naんでこのndekono侭mama見逃minogaそうsou
鎖kusariかたびらkatabira身miにまといnimatoi
黒kuroのno小袖kosodeにni錦nishikiのno袴hakama
たすきtasuki十字juujiにni綾ayaなしてnashite
槍yariをwo小脇kowakiにniツッtsuxtu、ツッtsuxtu、ツツtsutsu……
走hashiりri出iでゆくdeyuku玄関genkan先saki
早hayaくもkumo雪yukiのno庭前teizenにni
居並inaraぶbu勇士yuushiのno面々menmenはha
家老karou色部irobeのno又四郎matashirou 深沢fukazawa重政shigemasa
森mori監物kenmotsu 更saraにni柿崎kakizaki弥三郎yasaburou
そのsono数実kazujitsuにni三百人sanbyakunin
「おうou!馬umaをwo引hiけke」
我wareにつづけとまたがればnitsuduketomatagareba
大門oomon開hiraくku八文字hachimonji 駒komaはいななきhainanaki白雪shirayukiをwo
けたててketateteパッパッパパpappappapa……
日比谷hibiyaのno屋形yakata正masaにni出iでんとしたdentoshita時tokiにni
「殿tono!しばらくしばらくshibarakushibaraku!!」
馬umaのくつわをしっかりとnokutsuwawoshikkarito 押osaえたeta人hitoはha誰dareあろうarou
上杉uesugi随一zuiichi、智恵chieのno袋fukuroとうたわれたtoutawareta
家老karou上席jouseki千坂chisaka兵部hyoubuそのsono人hitoなりnari
「兵部hyoubu何故naze止toめるのだmerunoda、現在ima父chichiとto吾子wagakoのno義周yoshichikaがga浅野asanoのno
家来keraiにni襲osoわれているのだぞwareteirunodazo!そこをsokowo退doけke!兵部hyoubuええee!!退doかねばkaneba突殺tsukikoroすぞsuzo!!」
槍yariをかざしてwokazashite馬上bajouにni立taてばteba
ぐっとgutto見上miaげたgeta千坂chisaka兵部hyoubu
此処kokoがga我慢gamanのno仕shiどころじゃdokoroja
貴方anataはha貴方anataのno務tsutoめがござるmegagozaru
若moしもshimo広島hiroshima浅野asanoのno御go宗家souke
四十万yonjuuman石goku力chikaraにかけてもnikaketemo仇ada討uたせるとtaseruto
軍勢gunzeiまとめてmatomete繰kuりri出daしたならshitanara
最早mohaやひくにもひけませぬyahikunimohikemasenu
正masaにni天下tenkaのno一大事ichidaiji
後atoのno咎togameはha何naんとするntosuru
歴史rekishiにni残nokoるru上杉uesugiのno
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血chiをwo吐haくku想omoいでide諫isaめるmeru千坂chisaka
そのsono一言hitokotoがga 磐石banjakuのno
重omoみとなってmitonatte胸muneをwo打uつtsu
「兵部hyoubu解wakaったtta。皆minaのno者monoそれぞれsorezore持場mochibaにni帰kaeりri指示shijiをwo待maてte。
千坂chisakaよyo、仏間butsumaにni御法燈miakashiをwo灯tomoせse。天下tenkaにni恥hajiをさらしたとてwosarashitatote
父chichiはha父chichi。余yoはha独hitoりri静shizuかにkani、あのano世yoへhe旅立tabidaちなさるchinasaru父上chichiueのno
御冥福gomeifukuをwo祈inoろうrou。千坂chisakaのじいよnojiiyo。大名daimyouのno子koはha辛tsuraいのうinou」
槍yariをwo大地daichiにni突tsuきki立taててtete
泣naいてite堪koraえたeta綱憲tsunanoriのno
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仇adaもmo恨uraみもmimo 降fuりri積tsuむmu雪yukiもmo
解toけてkete流nagaれるreru 朝asaがga来kuるru