昔むかしならした 千葉ちば道場どうじょう
出世しゅっせ夢見ゆめみた 日ひもあるが
小舟こぶね浮うかべた 大だい利根川とねがわに
こぼす涙なみだを 誰だれが知しろ
よしきり笑わらって 月つきが哭なく
母ははも故郷こきょうも 忘わすれたが
なぜか涙なみだが 止とまりゃせぬ
嫁よめにいったか 妹いもうと二十歳はたち
どうか幸しあわせ 祈いのりつつ
人斬ひときり平手ひらてが 男おとこ哭なき
「テンツクテンテン、テンツクテンテン……あれは
佐原囃子さわらばやしか、ふふ、ひとりぼっちの夏なつも終おわり、
もうすぐ秋祭あきまつりだなぁ。魚さかなも釣つれず、やけに酸すっぱいぜぇ、
今夜こんやの酒さけは……よしきりよ、そんなにおかしいか。
じゃあ一緒いっしょに笑わらおうか、ふっはっはっははははは」
思おもい出だすのはお玉たまが池いけの三本さんぼん勝負しょうぶ、相手あいては旗本はたもと若様わかさま腕自慢うでじまん、
一本いっぽんゆずるが武士ぶしの商法しょうほうか。気きがつきゃ若様わかさま、
白目しろめをむいて倒たおれてやがった……破門はもんだと。
なにをぬかしやがる。強つよくてなにが悪わるい。こんな算盤そろばん道場どうじょう、
追おい出だされる前まえにこっちから出でていってやらぁ……
門弟もんてい三千人さんぜんにんの中なかでも一いち、二にを競きそい、剣豪けんごうだ、剣聖けんせいだ
ともてはやされた平手ひらて造酒みきが、
今いまじゃ酒代さかだいほしさにやくざの用心棒ようじんぼうか。
ふふ、よくぞ よくぞここまで落おちぶれ果はてたもんだぜ。
父ちちの形見かたみの 刀豆煙管なたまめぎせる
ぷかり吹ふかして 飲のむ酒さけは
剣つるぎを呑のむよな 味あじがする
膝ひざを抱かかえて うたたねすれば
月つきのしずくが 月つきのしずくが 頬ほお濡ぬらす
時ときは天保てんぽう十じゅう五年ごねん八月はちがつ六日むいか。
秋風あきかぜさわやか稲穂いなほを揺ゆさぶり渡わたる。
ところは下総しもうさ、利根川とねがわ沿ぞいで、竜虎りゅうこ相打あいうつ侠客おとこの喧嘩けんか。
責せめてくるのは飯岡いいおか助五郎すけごろう、
迎むかえ撃うつのは笹川ささがわ繁蔵しげぞう。
笹川ささがわ食客しょっかく平手ひらて造酒みき、歳としは三十さんじゅう、白皙はくせき美男びなん。
「お世話せわになりもうした良庵りょうあん殿との。これは
無聊ぶりょうの手慰てなぐさみに彫ほった御仏みほとけでござる。
薬代くすりだいがわりに置おいていきもうす。目障めざわりだったら捨すててくだされ……いや、
止とめてくださるな、この花はな咲さかすには今いましかないのでござる。
これは一世一代いっせいちだい男おとこの祭まつりなのじゃ。さあ、そこをどいてくだされ。
どかぬならば神かみも仏ほとけも斬きるつもりじゃ。どけ!どいてくだされ!」
なんの因果いんがか 笹川ささがわに
草鞋わらじ脱ぬいだら 義理ぎりからむ
一宿一飯いっしゅくいっぱん 預あずけた命いのち
咲さかぬ花はななら 斬きり開ひらき
大利根おおとね真まっ赤かに 染そめようぞ
昔mukashiならしたnarashita 千葉chiba道場doujou
出世syusse夢見yumemiたta 日hiもあるがmoaruga
小舟kobune浮uかべたkabeta 大dai利根川tonegawaにni
こぼすkobosu涙namidaをwo 誰dareがga知shiろro
よしきりyoshikiri笑waraってtte 月tsukiがga哭naくku
母hahaもmo故郷kokyouもmo 忘wasuれたがretaga
なぜかnazeka涙namidaがga 止toまりゃせぬmaryasenu
嫁yomeにいったかniittaka 妹imouto二十歳hatachi
どうかdouka幸shiawaせse 祈inoりつつritsutsu
人斬hitokiりri平手hirateがga 男otoko哭naきki
「テンツクテンテンtentsukutenten、テンツクテンテンtentsukutenten……あれはareha
佐原囃子sawarabayashiかka、ふふfufu、ひとりぼっちのhitoribotchino夏natsuもmo終oわりwari、
もうすぐmousugu秋祭akimatsuりだなぁridanaa。魚sakanaもmo釣tsuれずrezu、やけにyakeni酸suっぱいぜぇppaizee、
今夜konyaのno酒sakeはha……よしきりよyoshikiriyo、そんなにおかしいかsonnaniokashiika。
じゃあjaa一緒issyoにni笑waraおうかouka、ふっはっはっはははははfuhhahhahhahahahaha」
思omoいi出daすのはおsunohao玉tamaがga池ikeのno三本sanbon勝負syoubu、相手aiteはha旗本hatamoto若様wakasama腕自慢udejiman、
一本ipponゆずるがyuzuruga武士bushiのno商法syouhouかka。気kiがつきゃgatsukya若様wakasama、
白目shiromeをむいてwomuite倒taoれてやがったreteyagatta……破門hamonだとdato。
なにをぬかしやがるnaniwonukashiyagaru。強tsuyoくてなにがkutenaniga悪waruいi。こんなkonna算盤soroban道場doujou、
追oいi出daされるsareru前maeにこっちからnikotchikara出deていってやらteitteyaraぁ……
門弟montei三千人sanzenninのno中nakaでもdemo一ichi、二niをwo競kisoいi、剣豪kengouだda、剣聖kenseiだda
ともてはやされたtomotehayasareta平手hirate造酒mikiがga、
今imaじゃja酒代sakadaiほしさにやくざのhoshisaniyakuzano用心棒youjinbouかka。
ふふfufu、よくぞyokuzo よくぞここまでyokuzokokomade落oちぶれchibure果haてたもんだぜtetamondaze。
父chichiのno形見katamiのno 刀豆煙管natamamegiseru
ぷかりpukari吹fuかしてkashite 飲noむmu酒sakeはha
剣tsurugiをwo呑noむよなmuyona 味ajiがするgasuru
膝hizaをwo抱kakaえてete うたたねすればutatanesureba
月tsukiのしずくがnoshizukuga 月tsukiのしずくがnoshizukuga 頬hoo濡nuらすrasu
時tokiはha天保tenpou十juu五年gonen八月hachigatsu六日muika。
秋風akikazeさわやかsawayaka稲穂inahoをwo揺yuさぶりsaburi渡wataるru。
ところはtokoroha下総shimousa、利根川tonegawa沿zoいでide、竜虎ryuuko相打aiuつtsu侠客otokoのno喧嘩kenka。
責seめてくるのはmetekurunoha飯岡iioka助五郎sukegorou、
迎mukaえe撃uつのはtsunoha笹川sasagawa繁蔵shigezou。
笹川sasagawa食客syokkaku平手hirate造酒miki、歳toshiはha三十sanjuu、白皙hakuseki美男binan。
「おo世話sewaになりもうしたninarimoushita良庵ryouan殿tono。これはkoreha
無聊buryouのno手慰tenagusaみにmini彫hoったtta御仏mihotokeでござるdegozaru。
薬代kusuridaiがわりにgawarini置oいていきもうすiteikimousu。目障mezawaりだったらridattara捨suててくだされtetekudasare……いやiya、
止toめてくださるなmetekudasaruna、このkono花hana咲saかすにはkasuniha今imaしかないのでござるshikanainodegozaru。
これはkoreha一世一代isseichidai男otokoのno祭matsuriなのじゃnanoja。さあsaa、そこをどいてくだされsokowodoitekudasare。
どかぬならばdokanunaraba神kamiもmo仏hotokeもmo斬kiるつもりじゃrutsumorija。どけdoke!どいてくだされdoitekudasare!」
なんのnanno因果ingaかka 笹川sasagawaにni
草鞋waraji脱nuいだらidara 義理giriからむkaramu
一宿一飯issyukuippan 預azuけたketa命inochi
咲saかぬkanu花hanaならnara 斬kiりri開hiraきki
大利根ootone真maっxtu赤kaにni 染soめようぞmeyouzo