太陽が沈んでも月がのぼる。たとえ、見えなくても。
ポルノグラフィティ27枚目のシングル『今宵、月が見えずとも』は、月の名曲である。2011年9月に発表されたレコチョク調べ「月にまつわる名曲ランキング」で6位にランクインするほどだ。
この楽曲は元はアニメ映画「劇場版BLEACH Fade to Black 君の名を呼ぶ」の主題歌。後に、同じアニメのゲームでオープニングテーマにも起用されている。ゲームでの起用は初となったが、映画主題歌としては3度目、アニメでは4度目の大ベテラン。今作で作曲を担当したボーカルの岡野はマンガ好きとしても有名で、制作にあたり「BLEACH」を読破してから作曲をしたそうだ。
ロックで激しく、どちらかと言うなら太陽のイメージが強い彼ら。しかし、「アポロ」「メリッサ」など総合してみるとこの楽曲を含め「月」をテーマにした楽曲が多い。歌詞を担当しているギターの新藤が言うには「詞を書くのが昼間よりも夜間のほうが多いから」だそうだ。しかし、それはつまり夜の美しさを知り尽くしているともとれる。
夜の良さを知っている新藤と、マンガ好きの岡野。この楽曲は、そんな2人の良さが上手く組み合わった結果、聴き惚れるような月の名曲になったのだ。
それが、見えない月だったとしても。
ポルノグラフィティ「今宵、月が見えずとも」
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今宵、月はどこを照らすの？厚い雲に覆われた空
今宵、君は誰に抱かれているのか 雨に一人 泣こうか
すべてを分かりあえると思い 期待などした自分を恥じれば
太宰を手に屋上に上がり この世などはと憂いてみせる
空にツバを吐いたら自分にかかった
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月でイメージするのは、優しさやひっそりと空に浮かぶあの感じ。女性の象徴に月が挙げられるのも暗い夜を温かく照らす様子に、女性と繋がる部分があるからだろう。この楽曲も、月を好きな女性に重ねているといえる。
“今宵、月はどこを照らすの？厚い雲に覆われた空”
“今宵、君は誰に抱かれているのか 雨に一人 泣こうか”
ただし、この楽曲における月は主人公を照らすことはない。仮に見えたとしても、その月は自分のものではないのだ。竹取物語のかぐや姫が良い例だが、理想の女性ほど遠い憧れのようなもので、決して自分のものにはならない。実は知らないだけで、すでに誰かの恋人という可能性だってある。言ってしまえば届かない月に手を伸ばすように、行き過ぎた執着を歌った楽曲ともいえるのだ。
しかし、そんな楽曲がどうして月の名曲に選ばれたのかといえば、誰しも内にそんな痛い自分を抱えて生きてきた時期があるからだ。見栄をはって、自分をカッコよく見せようとした自分、諦めきれず相手を求めてしまう自分。そんな今思い出すと恥ずかしいとしか言いようがないことを真面目にしていた自分が、この楽曲の主人公として生きている。
普通なら記憶にしっかり蓋をしてしまうところだが、この楽曲を聞いて過去の自分と向き合えるようになった人も多いのではないだろうか。何故ならこの楽曲の主人公は最後、目に見えるものを追うことを止めて自分を見つめ直すからだ。
“見えないものを見ようとすれば まぶた閉じるそれだけでいい”
“君がここにいないとしても 今宵、月が見えずとも”
自分と向き合った主人公は、心のうちに輝く月を見出す。
この楽曲を聴いていたあなたも、きっと。
TEXT：空屋まひろ
