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カンザキイオリ「あの夏が飽和する。」歌詞の意味を考察!少年少女の夏の逃避行が泣ける

カンザキイオリの代表曲の1つである『あの夏が飽和する。』は、ストーリー仕立ての歌詞と爽やかで切ないメロディに引き込まれる名曲です。ひと夏の出来事から命や人生について考えさせられる歌詞の意味を考察します。

小説化もされたカンザキイオリの名曲を読み解く

不安や葛藤、生と死などデリケートなモチーフを題材にした楽曲でリスナーを独自の世界観に引き込むボカロP・カンザキイオリ

2018年8月に公開された鏡音リン鏡音レン歌唱曲『あの夏が飽和する。』は、彼の学生時代の実体験から生まれた夏の眩しさとつらい現実のギャップが切ない楽曲です。

▲カンザキイオリ feat. 鏡音レン,鏡音リン-あの夏が飽和する。【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

公開の翌月にはVOCALOID殿堂入りを果たし、さらにこの楽曲を元に自身で書き下ろした同名小説は累計15万部突破のベストセラーに。

スマッシュヒットを記録し熱狂的なファンを獲得した『命に嫌われている』と並び、彼の代表曲に数えられています。

ストーリー仕立てになっている歌詞にはどんなメッセージが込められているのか、じっくり考察していきましょう。

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「昨日人を殺したんだ」
君はそう言っていた。
梅雨時ずぶ濡れのまんま、
部屋の前で泣いていた。
夏が始まったばかりというのに、
君はひどく震えていた。
そんな話で始まる、あの夏の日の記憶だ。
≪あの夏が飽和する。 歌詞より抜粋≫
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この楽曲は衝撃的な一言から始まります。

季節は夏。

梅雨真っ只中のある日、主人公は友人もしくは恋人の「君」から人を殺したと告白されます。

彼女は雨に濡れながら主人公の家を訪ねてきて、涙ながらに話したようです。

夏に入ったばかりの暑い日にひどく震えていたのが印象的で、そこから始まった一連の出来事が数年経った今でも主人公の心に深く焼きついていることを伝えてきます。

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「殺したのは隣の席の、いつも虐めてくるアイツ。
もう嫌になって、肩を突き飛ばして、
打ち所が悪かったんだ。
もうここには居られないと思うし、
どっか遠いとこで死んでくるよ」
そんな君に僕は言った。
「それじゃ僕も連れてって」
財布を持って、ナイフを持って、
携帯ゲームもカバンに詰めて、
いらないものは全部壊していこう。
あの写真も、あの日記も、
今となっちゃもういらないさ。
人殺しとダメ人間の君と僕の旅だ。
≪あの夏が飽和する。 歌詞より抜粋≫
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「君」が殺したのは自分をいじめていたクラスメイトでした。

彼女はその人から日常的に受けるいじめに耐えてきましたが、昨日遂に我慢の限界に達し肩を突き飛ばしてしまいます。

明確な殺意があったわけではありませんでしたが、相手は突き飛ばされた衝撃でどこかにぶつかり、打ち所が悪かったせいで亡くなってしまったというのが事の真相のようです。

それまでは自分が被害者だったものの相手を殺してしまえば一転、加害者になってしまいます。

もう今までと同じように生活することはできないから遠くまで行ってひっそりと死のうと考えて、主人公に最後の挨拶に来たようです。

それを聞いた主人公は「それじゃ僕も連れてって」とその旅に参加することを申し出ます。

出かけるための準備をするカバンの中には、財布と携帯ゲームという一般的な持ち物に加えて「ナイフ」も収められました。

ごく自然と加えられている様子に、主人公にとってナイフは持ち慣れたものであり、そうならないといけないような環境にあったことが想像できるでしょう。

自分自身のことを「ダメ人間」と表現していることからも、彼女だけでなく彼も問題を抱えていたことが分かります。

そして必要なもの以外の写真や日記といった過去を象徴するものは全部壊していくことにします。

「今となっちゃもういらないさ」という言葉から、それまでは思い出に縋り今ある問題が解決することを期待する気持ちがあったものの、この旅を実行するのならもう過去は見ないと覚悟したことが窺えます。

狭い世界から抜け出して得た自由


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そして僕らは逃げ出した。
この狭い狭いこの世界から。
家族もクラスの奴らも何もかも全部捨てて君と二人で。
遠い遠い誰もいない場所で二人で死のうよ。
もうこの世界に価値などないよ。
人殺しなんてそこら中湧いてるじゃんか。
君は何も悪くないよ。君は何も悪くないよ。
≪あの夏が飽和する。 歌詞より抜粋≫
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サビの歌詞を見ると、彼らは家族やクラスメイトから逃げたいとずっと思っていたと解釈できそうです。

自分たちを苦しめている価値のない「この狭い狭いこの世界」から逃げ出せば、苦しまなくていい広い世界に行けると信じて進み続けます。

「遠い遠い誰もいない場所で二人で死のうよ」という悲しい約束すら交わされていて、彼らが自分たちの置かれている環境にすっかり絶望しきっている様子が見て取れます。

そしてその中で彼女にとって彼が、彼にとって彼女が唯一信頼できる相手だったことも感じられますね。

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結局僕ら誰にも愛されたことなどなかったんだ。
そんな嫌な共通点で僕らは簡単に信じあってきた。
君の手を握った時、微かな震えも既に無くなっていて
誰にも縛られないで二人線路の上を歩いた。
≪あの夏が飽和する。 歌詞より抜粋≫
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彼らは「誰にも愛されたことなどなかった」という共通点で引き合わされ、愛されたいという願いのもとで絆を深めてきました。

2人でいれば大丈夫だと思えたから、冒頭で震えていた彼女は今や少しも震えていません。

手を繋いで線路の上を歩く彼らは、やっと誰にも縛られない自由を得ることができました。

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金を盗んで、二人で逃げて、
どこにも行ける気がしたんだ。
今更怖いものは僕らにはなかったんだ。
額の汗も、落ちたメガネも
「今となっちゃどうでもいいさ。
あぶれ者の小さな逃避行の旅だ」
≪あの夏が飽和する。 歌詞より抜粋≫
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元々この旅は人殺しの罪から遠ざかり死へ向かうための逃避行。

だから金を盗むことも平気でできて、それまで苦しみ続けていたのが嘘のように晴れ晴れとした気持ちになっています。

そして後ろを振り返ることなく進み続けます。

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いつか夢見た優しくて、誰にも好かれる主人公なら、
汚くなった僕たちも見捨てずにちゃんと救ってくれるのかな?
「そんな夢なら捨てたよ、だって現実を見ろよ。
シアワセの四文字なんてなかった、
今までの人生で思い知ったじゃないか。
自分は何も悪くねえと誰もがきっと思ってる」
≪あの夏が飽和する。 歌詞より抜粋≫
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自分たちはもう自由だと思っても、彼はまだこの世界への希望を捨てきれていないようです。

物語の中の「優しくて、誰にも好かれる主人公」なら罪を犯して「汚くなった僕たちも見捨てずにちゃんと救ってくれるのかな?」とふと零します。

しかし心が疲れ切って夢見る気持ちを失った彼女はその考えをばっさりと切り捨てました

今までの人生で、現実にはどんなに願っても「シアワセの四文字なんてなかった」と思い知ったじゃないかと言います。

「自分は何も悪くねえと誰もがきっと思って」いて自分たちはその被害を受けたのだから、もう夢を見るなんて無駄なことはしないと決めていることがひしひしと伝わってきますね。

「あの夏が飽和する」の意味とは?


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あてもなく彷徨う蝉の群れに、
水も無くなり揺れ出す視界に、
迫り狂う鬼たちの怒号に、
バカみたいにはしゃぎあい
ふと君はナイフを取った。
「君が今まで傍にいたからここまでこれたんだ。
だからもういいよ。もういいよ」
「死ぬのは私一人でいいよ」
そして君は首を切った。
まるで何かの映画のワンシーンだ。
白昼夢を見ている気がした。
気づけば僕は捕まって。
君がどこにも見つからなくって。
君だけがどこにもいなくって。
≪あの夏が飽和する。 歌詞より抜粋≫
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彼らの夏の逃避行は唐突に終わりを迎えます。

脱水症状で視界が揺れ始め、彼らの罪を追う人たちの怒号が聞こえてきた頃、彼女は主人公への感謝を述べた後でナイフで自分の首を切ってしまいます。

本当なら1人で旅立つつもりだったのに最後に楽しい時間を過ごすことができ、これ以上主人公を巻き込みたくないと思ったのかもしれません。

主人公はそのショッキングな光景に心が追いつかず、ぼんやりしているうちに追ってきた人たちに捕まってしまいました。

直前まで一緒に笑い合っていた人がいなくなったという現実を受け入れられないまま、主人公だけが元の世界に戻ることになります。

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そして時は過ぎていった。
ただ暑い暑い日が過ぎてった。
家族もクラスの奴らもいるのに
なぜか君だけはどこにもいない。
あの夏の日を思い出す。
僕は今も今でも歌ってる。
君をずっと探しているんだ。
君に言いたいことがあるんだ。
≪あの夏が飽和する。 歌詞より抜粋≫
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夏が終わり、家族もクラスメイトも何もなかったかのように目の前にいるのに「なぜか君だけはどこにもいない」状況に心が凍りついているのが分かります。

そしてどれほど時間が経ってもまだどこかにいることを信じて、ずっと探しているようです。

何の言葉もかけられないうちに行動した彼女にある言葉を伝えるために、諦めずに探し続けています。

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九月の終わりにくしゃみして
六月の匂いを繰り返す。
君の笑顔は
君の無邪気さは
頭の中を飽和している。
誰も何も悪くないよ。
君は何も悪くはないから
もういいよ。
投げ出してしまおう。
そう言って欲しかったのだろう? なあ?
≪あの夏が飽和する。 歌詞より抜粋≫
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ひと夏が過ぎまた次の夏を迎えて、2人で逃避行した夏からもう何年も経っていることが読み取れるでしょう。

ここでタイトルにも用いられている「飽和」という言葉が出てきます。

「飽和」とは最大限に満たされた状態であることを示す言葉です。

つまり「君の笑顔」や「無邪気さ」といった美しい姿が主人公の頭の中を満たしているということ。

タイトルの「あの夏が飽和する」というフレーズは、今も変わらずあの夏の出来事が心を占めていることを表していると解釈できます。

それほどまでに心が囚われているのは、きっと主人公が後悔しているからです。

彼女は本当に死んでしまいたかったわけではなく、「君は何も悪くない」「投げ出してしまおう」と言ってただ自由に生きることを認めてほしかったのではないだろうか。

そしてそれは自分にしか与えられない救いだったのではないだろうかと繰り返し考えているのでしょう。

1番のサビで出てきた「君は何も悪くないよ」という慰めの言葉も、後から考えて見つけたあの時言ってあげられたはずの言葉なのかもしれません。

とはいえ過ぎた時間はもう取り戻せないから、彼女のその存在と生き様を忘れないことで自分の罪を償おうとしているような気がします。

あの夏の逃避行からあなたは何を思う?

カンザキイオリの『あの夏が飽和する。』の歌詞を読み解くと、生きづらさを抱える少年少女のひと夏の出来事から死生観や人間関係について考えさせられました。

この楽曲の後日譚である『死ぬとき死ねばいい』、逃避行中の「君」側の視点を描いた『人生はコメディ』も合わせた“「あの夏」三部作”を通して考察すると、さらに深いメッセージを感じることができます。

聴く人の境遇や考え方によって様々な見方ができる楽曲なので、ぜひ思い思いに考察して彼らの物語で心をいっぱいにしてください。

この特集へのレビュー

そのほか

あお

2024/04/24 18:38

初めてボカロ曲で感動泣きしたのがこれ

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