ボカコレ2023夏ルーキー部門優勝作品を解説!
2022年5月にデビューしたばかりの新星ボカロP・海茶(うみちゃ)。2023年8月4日投稿の『おどロボ』がネット最大級のボカロイベント「ボカコレ2023夏」ルーキー部門の優勝作品に輝き、大きな注目を集めています。
今作は琴葉茜・琴葉葵の琴葉姉妹とずんだもんが歌唱しており、ノリの良いテクノポップの明るい曲調と愛らしい声がマッチ。
またイラストレーターのnekomo制作のドット絵で構成されたMVでは、3人が踊るキュートな姿が描かれています。
この楽曲の特徴は、歌詞とMVの随所にかつてニコニコ動画を賑わせた様々な楽曲へのオマージュが織り込まれている点です。
小ネタが満載の作品なので、今回は歌詞に重点を置いて小ネタを解説しつつ意味を考察していきましょう。
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町を よるが包むとき 出店並ぶこの道で
夜空の住み人たちの 宴が始まる
光の三原色の ネオンが眩しくて
星のあかりより強く グルーヴを響かせて
≪おどロボ 歌詞より抜粋≫
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この作品の動画説明欄には「その昔、太陽という星がこのまちを照らしていたんだって。」という一文があります。
このことから、太陽が照らさなくなった町で行われる夏祭りの様子を切り取っていることが分かるでしょう。
時刻が夜になると町では出店が並び、きらびやかで楽しい宴が始まります。
「光の三原色」はネオンの派手さを表すと共に、赤・青・緑という琴葉姉妹とずんだもんのイメージカラーを表現しているのではないでしょうか。
「夜空の住み人たちの宴」とあるため、彼女らは天使のような人間とは違う存在のように感じます。
そして星よりも明るく輝くように、この時間を思い切り楽しもうとしていることが伝わってきます。
ここで「あかり」がひらがななのは、紲星あかりを表しているからだと解釈できそうです。
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おどロボたちの夏祭り 今宵の供物を捧げて
フレデリックの歌詞みたいに 踊れ夜が明けるまで
おどロボたちの夏祭り 23時を彩る
ラムネ瓶に ずんだ かき氷 このよるは終わらない
≪おどロボ 歌詞より抜粋≫
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「フレデリック」とは4人組ロックバンドのフレデリックのことでしょう。
フレデリックは2014年リリースの『オドループ』の中毒性が人気となり、2019年頃からニコニコ動画で音MADに使用されるようになりました。
そんな『オドループ』は夜には踊っていたいと願う主人公の想いを歌っているため、その歌詞のように夢中で踊ろうと気分を盛り上げているようです。
MVでは冒頭から海茶自身の過去作『クモヒトデのうまる砂の上で』をはじめとする人気曲のダンスが取り入れられており、ダンスをテーマにしていることが分かるでしょう。
夜が更けていく23時、現代の夏祭りは終わりを迎える頃ですが、この町の夏祭りはまだ終わりません。
「ラムネ瓶にずんだ かき氷」も青・緑・赤を連想させ、祭の賑わいと3人の姿がリンクしています。
“界隈曲”で盛り上がる夜は終わらない
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ダンスフロアから見下ろした 今宵の町は祭舞台
電池式の神様も 今日は無礼講
四つ打ちのビート刻む 提灯のゆらめきに
愉快な言葉をつむぎ 歯車をうならせろ
≪おどロボ 歌詞より抜粋≫
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空に浮かぶダンスフロアから町を見下ろせば、祭の華やかな雰囲気が伝わってきます。
「電池式の神様」は古代ギリシア演劇の技法で機械仕掛けの神様の意味を持つ、デウス・エクス・マキナのことかもしれません。
これは話の収拾がつかなくなった時に機械仕掛けの舞台装置で神を登場させ、強引に大団円に持っていくことを意味します。
ここでは「電池式の神様も今日は無礼講」とあるので、今日ばかりは誰もが物語の収束を気にせず楽しんでいる様子が見えてくるでしょう。
続く「四つ打ちのビート」はいわゆる界隈曲を指していると思われます。
界隈曲とはある引退したボカロPの曲調をリスペクトし模倣した作品群の総称です。
オリジナル曲は自主削除され、現在視聴できるのは転載が許可された4曲のみとなっています。
作者が名前を出さないなら転載が可能と言ったためか、転載された曲やそれらをモチーフにした曲は界隈曲と呼ばれています。
そんな界隈曲の特徴の1つが四つ打ちのリズムで、そのサウンドに乗せてさらに祭が盛り上がっているようです。
「つむぎ」の部分は春日部つむぎのことを指していると思われます。
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おどロボたちの夏祭り サイリウムの波に乗って
歌声吃っても 笑顔で 踊れ 余(夜)は舞(待)っている
おどロボたちの夏祭り 午前3時半を過ぎて
眠りの来ない僕たちの このよるは終わらない
≪おどロボ 歌詞より抜粋≫
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サイリウムの波に乗り、失敗しても笑顔で踊り続ける3人。
「余は舞っている」と「夜は待っている」が合わせて表記されているため、彼女らが舞うように踊っていることと夜がその宴の時を待っていることとの2つの意味がかけ合わされていると解釈できます。
夏の午前3時半はそろそろ夜明けが来る頃ですが、「眠りの来ない僕たちのこのよるは終わらない」とあるようにまだ楽しい時間は続いていきます。
そろそろ飽きてきた?言葉をつつしめよ!
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アマテラスは閉じ込めて
天岩戸にステイ
ホームステイしテイてね
バッテリーの切れる日まで
自動人形のようにダンス
ロボットダンス踊り明かせ!
≪おどロボ 歌詞より抜粋≫
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「アマテラスは閉じ込めて天岩戸にステイ」というフレーズは、日本神話で有名な天岩戸神話を指していると考察できます。
天岩戸神話は太陽の神であるアマテラスが弟のスサノオの乱暴な振る舞いに耐えられなくなり、岩戸にこもってしまったために世間が暗闇になったというエピソードです。
皆既日食が元になっていると言われていて、太陽に照らされないこの楽曲の舞台との関わりが見えてきますね。
「自動人形のようにダンス ロボットダンス」の元ネタは、2016年投稿のナユタン星人の『ダンスロボットダンス』でしょう。
力尽きるまで踊り続けようとしていることが分かります。
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おどロボたちの夏祭り
おどロボたちの夏祭り
おどロボたちの夏祭り
「そろそろ飽きてきた」だって?
言葉をつつしめよ!
≪おどロボ 歌詞より抜粋≫
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楽曲の後半に入り、「そろそろ飽きてきた」と気持ちが離れそうになるリスナーに向けてメタ的なツッコミが歌詞に登場します。
その「言葉をつつしめよ!」という言葉は、FF10(ファイナルファンタジーX)のワンシーンで用いられたものです。
ティーダが軽口を叩いたことに対するワッカの叱責の言葉で、その後MAD素材として使われるようになり広まりました。
この部分ではメロディも不穏な雰囲気に変化していて、ラストのサビに向けてさらにリスナーを惹きつける仕掛けとなっています。
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おどロボたちの夏祭り 今宵の供物はおあずけ
フレデリックの歌詞みたいに 踊ろう 夜は明けねども
おどロボたちの夏祭り 午前6時も鮮やかに
ラムネ瓶に ずんだ かき氷 このよるはまだ続く
月は満ちも欠けもせず
≪おどロボ 歌詞より抜粋≫
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ラストの「月は満ちも欠けもせず」のフレーズは、界隈曲の基礎となっている1曲『イワシがつちからはえてくるんだ』からの引用です。
そして同時に太陽が失われていることを示すフレーズでもあるのでしょう。
太陽がないので「午前6時」を回っても夜は明けず、ネオンの光が鮮やかに輝き続けています。
その中でいつまでも踊り明かす様子が楽しく描かれています。
界隈曲は一見意味不明な内容となっている場合が多く、『おどロボ』もひたすら踊ることにスポットを当てた作品なのかもしれません。
しかしその中にたくさんの過去曲やキャラクターの要素が含まれていることから、状況がどんなに変化しても良いものをいつまでも楽しみたいという気持ちが垣間見えた気がします。
曲や文化は時間の経過と共に新しいものの陰に隠れて忘れられがちですが、こうして新しく変化を遂げながら残り続けてほしいですね。
MVの元ネタも探してみよう
海茶の『おどロボ』はかつてのボカロ曲及び界隈曲へのリスペクトを感じる要素が満載の楽曲でした。ボカコレとプロセカこと「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク」のコラボ企画「ボカセカ」採用作品に選ばれたことで、今後さらに多くの人に広まっていくことでしょう。
細部にまで詰め込まれた小ネタを拾い上げながら、過去のボカロ作品と海茶のボカロ曲の魅力が融合する『おどロボ』の世界に浸ってください。