1990年代以降、日本国内におけるロックミュージックは、さまざまなジャンルの音楽と融合し細分化が進みました。
JUDY AND MARYのように誰もが馴染みのあるポップロック、ハイスタことHi-STANDARDをはじめとして根強い人気を誇るメロコア、ゆらゆら帝国を代表としたサイケデリックロックなどが代表的なところです。
そして2000年代初頭、青春パンクロックと呼ばれる新たなジャンルのロックが中高生を中心に大きなブームを巻き起こすことになります。
青春パンクロックとは
2001年から2003年頃に流行した日本のバンドシーンにおける音楽ジャンルであり、文字通り「青春」をテーマにしたパンクロックと定義されます。
視聴覚的なカッコ良さから英語の歌詞を歌うロックバンドも多い中で、日本語で青春のありのままを歌った分かりやすさとストレートなメッセージで、若者から大きな支持を集めました。青春パンクロックは邦楽ロック・日本語ロックともいえるでしょう。
有名グループのコピーバンドも溢れかえったバンドブームの影響も受け、中高生を中心に大きな盛り上がりを見せました。
現在でも、当時の人気バンドの楽曲をコピーする若者バンドは絶えることなく、各地でイベントが行われています。
例えば、青春パンクロック会を名乗る若者グループが開催している2017年のイベント「青イ春vol9」。
不定期とはいえ、すでに9回も続いているのは根強い人気の証といえます。
最初のブームからすでに15年以上経っていますが、若者たちはその熱き音楽に心を揺さぶられ続けているのです。
青春パンクの特徴
誰もが通ってきたであろう青春時代の恋愛、友情、そして夢。
そういったものにまつわるさまざまな感情を恋愛ソングや友情ソングとして歌うのが最大の特徴であり、青春パンクと呼ばれるようになったいわれでもあります。
また、ロックミュージックの見せ場のひとつでもある速弾きなどの技巧を競うスタイルではなく、シンプルなコード進行を基本とした簡素で分かりやすい曲が多いため、サウンド面でもストレートに人々の心に届くのです。
世代を超えて愛される青春パンクロックの名曲
大ブームともいえる時期はわずか数年で沈静化した青春パンクロックですが、その名曲たちは今も色褪せることなく人々の共感を呼び続けていて、根強い人気があります。
また、全盛期の影響を受けた新進気鋭のバンドも次々と現れ、日本の音楽シーンに新たな風を起こしています。
青春時代の感情をさらけ出した音楽は、かつて自分たちが若者であったときの1シーンを鮮明に思い起こさせてくれるでしょう。
ここでは、変わらずに絶大な支持を誇る全盛期の名曲から、その流れを汲む新しいスタイルの青春パンクロックの人気曲まで必聴の8曲を紹介します。
銀杏BOYZ「夢で逢えたら」
過激なライブパフォーマンスで世間の注目を集めたことも記憶に新しい銀杏BOYZ。
最近ではカセットテープで音源をリリースするなど、常に時代の最先端を走り続けるバンドとして支持され続けています。
2005年にリリースされたアルバム『DOOR』の収録曲「夢で逢えたら」は、これまでパンクロックをあまり聴いたことがないという人にも入口としてオススメできる一曲です。
比較的キャッチ―でありながら、片思いの女の子に恋焦がれる不器用で真っ直ぐな気持ちを描いた世界は、まさに青春パンクロックそのものといえます。
モンゴル800「小さな恋のうた」
インディーズアルバムでは史上初のオリコン1位を獲得したアルバム「MESSAGE」からの一曲。
沖縄に拠点を置くバンドであり、大ブームのさなかにもあまりメディアには登場しない姿勢を貫いていたにも関わらず、たくさんのアーティストにカバーされています。
2019年5月にはこの曲をモチーフとした映画も公開されました。
TVCMにも起用されているため認知度も高く、今もなお若い世代のカラオケランキングでは常に上位に入っています。
大切な人がそばにいることのありがたみを忘れずに、変わらずに愛し続ける美しい気持ちを歌った心温まる曲です。ウェディングソングとしても人気ですね。
ちなみに『小さな恋のうた』は青春パンクブームの火付け役ともいわれていますが、GOING STEADYの『童貞ソー・ヤング』もその一端とされています。
ガガガSP「卒業」
歌のような叫びのような語りのような独特のボーカルが魅力のガガガSP。
『卒業』は2002年1月17日に発売されたメジャーデビューシングル。
好きな人から卒業すると宣言しながらも、内心は複雑で切ない気持ちを抱えている心情が伝わってきます。
後半には思いを寄せる「あなた」へ訴えかけるように歌う、エモーショナルな叫びが印象的です。
卒業式をイメージしたミュージックビデオ、圧倒されてしまうほどエネルギッシュなサウンド、心情を率直な言葉で語る歌詞。
ザ・青春パンクロックのタグを附するべき一曲といえるのではないでしょうか。
この曲はベストアルバム「ガガガSP オールタイムベスト ~勘違いで20年!~」にも収録されています。人気アニメ「NARUTO -ナルト-」のエンディングテーマ曲に起用された『はじめて君としゃべった』も聴けるのでぜひチェックしてみてください。
また、2019年3月~6月にかけて、ガガガSPツアー2019「日本最古の青春パンク街道一直線」と銘打って、2000年から2003年の楽曲にしぼった全国ツアーを行います。生歌も聴いてみたいですね。
ロードオブメジャー「大切なもの」
インディーズ歴代最高となる累計100万枚出荷を記録したロードオブメジャーの代表曲。1stアルバム「ROAD OF MAJOR」にも収録されています。
間違いなくこのジャンルを代表するバンドであり、青春時代の胸に秘めた情熱を包み隠さず言葉にした歌詞は正統派の青春パンクロックといえるでしょう。
175Rや3B LAB.☆(現 3B LAB.☆S)、太陽族といったバンドとともに全盛期を支えた、まさに青春パンクロックを語る上で欠かせないバンドです。
桜が咲く季節に何度も別れを経験して、その度に涙を流すような寂しい思いをする。
けれど、変わらず同じ空の下に生きているのだから、前を向いて歩いていこうと力強く背中を押してくれます。
神聖かまってちゃん「ロックンロールは鳴り止まないっ」
アルバムや楽曲タイトル、そしてバンド名に至るまで強烈なインパクトを与える神聖かまってちゃん。
Youtubeなどの動画投稿サイトがなかった青春パンクロックのブーム期とは違い、2008年の結成当初からメンバーが自ら楽曲のストリーミング配信を行っていた現代らしいバンドといえます。
サウンド面でもキーボードを担当するメンバーが在籍し、全盛期に多いギターロックとは一味違った趣向性のバンドです。
それでいて人間味たっぷりに「君」への恋心を叫ぶスタイルは、まさに新しい青春パンクロックの幕開けを担った唯一無二の存在といえます。
忘れらんねぇよ「ばかばっか」
上手くいかない自分の恋愛、それなのに世界中にいる幸せそうな恋人たちへの嫉妬を包み隠さずに歌っている一曲です。
理屈を抜きにして初期衝動のままロックをしているような姿勢は、綺麗ごとは一切言わない潔い歌詞と疾走感のあるバンドサウンドに表れています。
また、メンバーが社会人を経験したのちに「脱サラ」をしてバンド活動をはじめたというエピソードは、まるで青春パンクを体現しているかのようです。
青春の甘酸っぱさから卒業したと感じている大人こそ、この曲を聴いて刺激を受けてみてはいかがでしょうか。
THE BLUE HEARTS(ザ ブルーハーツ)「TRAIN TRAIN(トレイン トレイン)」
1985年結成のTHE BLUE HEARTSは、青春パンクロック全盛期の人気バンドに影響を与えたカリスマ的なバンドです。
数ある有名な曲のなかでも「TRAIN TRAIN」は、TBS系列のドラマ主題歌への起用にはじまり、テレビやゲーム音楽として何度も使用されている、まさに誰もが知る名曲です。
生きていることは決して楽で美しいことばかりではないけれど、それでも精一杯生きていこうと力強く歌う姿勢が心に響きます。
泥臭くて笑っちゃうほどまっすぐな歌詞が羨ましく思える…。そんな、いつの時代でも色褪せることのない名曲です。
フジファブリック「若者のすべて」
2000年から幾多のメンバーチェンジを経ながらも、現在に至るまで活動を続けるフジファブリック。
詩的な美しさと口語的なリアリティさを併せ持つ歌詞は、人を惹きつける力を持っています。
独特な言葉の選び方から、歌詞の意味を考察したインターネット記事も多数存在する唯一無二の世界観をもった人気バンドです。
「若者のすべて」は、誰しもが一度若者でありながら、必ずその時代は過ぎていくこと。
そしていつかの後悔や痛みは、薄れながらも記憶に残ることの切なさを心地よく歌っています。
フジファブリックの人気曲ランキングがあれば必ずランクインするであろう名曲です。
GOING STEADY「東京少年」
GOING STEADYの音楽性=青春パンクともいわれるほど、青春パンクを語る上でGOING STEADYの楽曲は欠かせません。
GOING STEADYは基本的にライヴ活動だけでロックサウンドを全国に広めていきましたが、特にこの『東京少年』は多くの若者の心に刺さりました。
ノリの良いテンポが特徴で、今なお支持され続けている楽曲です。
アルバム「ストリートロックファイル ザ・ベスト」の1曲目にも収録されています。
これから注目!?青春パンクバンド
ここで、これから注目度がどんどん上がっていくであろう青春パンクバンドも紹介しておきましょう。
それは、現役高校生バンド「南無阿部陀仏」です。
2020年1月1日に配信リリースされる『若者よ、耳を貸せ』。
まずはMV動画を観てみてください!青春真っ只中の悩みと吹っ切れが詰まってます。
思わず共感してしまう歌詞
青春パンクロック最大の特徴は、その歌詞にあるという点を述べました。
等身大の若者の気持ちを歌った歌詞は、現在の中高生にはもちろんのこと、かつて中高生であった万人の心に響くに違いありません。
ここでは、そのなかでも秀逸な表現をしている選りすぐりのバンド曲をご紹介します。
歌詞を検索して、その世界観に浸りながら聴いてみてはいかがでしょうか。
「スーパースターになったら迎えに行くよ、ぼくを待ってなんていなくたって」-back number「スーパースターになったら」
2015年フジテレビ系列のドラマに起用された主題歌が大ヒットしたことで、一躍有名バンドたちの仲間入りをしたback number。
「スーパースターになったら」は、メジャー初期のアルバムからの一曲です。
一途な恋愛観の中に、自信のなさや未練、そして葛藤なども含め、ありのままの感情を歌詞にしてしまうあたりは見事としかいいようがありません。
決してスーパースターになれないことを分かっていながら、「もし」のことを考えて終わった恋を忘れられずにいるカッコつけない歌詞が、失恋の切なさを鮮明に描いています。
「昨日のあなたが偽だと言うなら、昨日の景色を捨てちまうだけだ」-サンボマスター「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」
『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』は彼らの知名度を高めることとなった、2005年フジテレビ系列のドラマ主題歌に抜擢された人気曲です。
恋というのは、いつも不思議なパワーを持っています。
愛する人といれば、なんでもできてしまうかのような感覚。
世界中のどんなことも“君といることの嬉しさには叶わない”と信じて疑わない真っ直ぐな恋心を歌っています。
これを聴けば、恋することの素晴らしさに気付かされること間違いありません。
「あの娘を愛するためだけに僕は生まれてきたのあの娘を幸せにするためだけに僕は生まれてきたの」-銀杏BOYZ「援助交際」
青春パンクロックのブーム期に時を同じくして、携帯電話やポケットベルが若い世代にも普及をはじめ、10代の援助交際問題が表面化するようになりました。
思いを寄せる彼女も援助交際に手を付け、こんなにも好きでいる自分ではなく、どこの誰かも分からないお客といることを想像した、切ない心の叫びを歌っています。
タイトルのインパクトがとても強いですが、百聞は一見に如かずです。
ノリの良いバンドサウンドとボーカルのシャウトで気分が盛り上がること間違いなしの一曲でもあります。
ほかにも、知る人ぞ知る青春パンクの名曲には「ピンクリボン軍」の『セチガラバラッド』があります。ぜひ聴いてみてくださいね。
青春の熱い気持ちはどの時代も一緒!
時代がどれだけ進み、世界がどれほど変化を遂げても、青春時代に感じた気持ちは変わりません。
恋愛への欲求、将来への不安、社会への憤り。
いつの時代の若者もきっと同じように感じる熱い気持ちこそが青春パンクロックなのです。
青春パンクロックブームが去っても決して廃れることはなく、かつて中高生であった万人の心を揺さぶります。
それは何年経っても懐かしく、そして甘酸っぱく響き、若かりし頃の感情を思い出させてくれることでしょう。
青春時代の気持ちを忘れてしまった方は、久しぶりにあの頃の思い出に浸ってみてはいかがでしょうか。
あの力強い歌声を聴きたいと思ったら、路線変更をすることなく青春パンクを守り続けているバンドの公演日やライブ情報、チケット情報を確認してみましょう。
友達を誘ったり、メンバー募集をしたりしてバンドを組んで、大人になった今こそ青春パンクに挑戦してみると、もう一度青春を味わえるかもしれませんよ。
この記事のまとめ!
- 青春時代は色褪せない!大人になってより理解できる歌詞もある
- 全盛期はもちろん、その流れを汲んだ新世代のバンドにも要注目
- 若き日の1ページを描いた楽曲で、自分自身の「あの頃」を思い出してみよう