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「フェス映え」がバンドの全てじゃない! “力強いメランコリー”で胸を揺さぶるIvy to fraudulent gameの『水泡』

派手でノリのいい曲はウケやすい。 若手バンドの登竜門は今やフェス。有名になるにはどんなバンドにだってフェス映えする曲が必要になる。それはやっぱりノリが良くて、そのバンドを知らない人でも思わず気軽に腕を振り上げちゃうような勢いのある曲になるだろう。
ヒットチャートを賑わせるのも明るい曲か真逆のいわゆる「泣き曲」ばかりだし、明るい曲は目も覚めるし。寝不足でお疲れの現代人にはもってこいである。

でもね、それだけじゃ結局他のバンドに埋もれるだけなんだよ。そろそろ反旗を翻す存在がいてもよいのではないか。そんなバンドシーンの流れを変える鍵を握るのが「Ivy to fraudulent game」なんじゃないかと思う。

Ivy to fraudulent game。やたら長いバンド名だが、「アイヴィ・トゥ・フロウジュレントゲーム」と読むらしい。2010年の結成後、様々なイベントへの出演を果たし、2013年にはあの閃光ライオットのファイナルに出場。まだインディーズだが2016年には全国デビューも果たした、今注目のバンドだ。 今回は、彼ら初の全国流通盤ミニアルバム『行間にて』に収録されている、代表曲『水泡』を通して彼らの良さを紹介したい。



『水にもならない
泡にもならないなら
水の泡になる事ぐらい恐れるな』


高音のノイズを効果的に使用したシンプルでありながらエッジの効いたイントロ。シューゲイザーの影響が透けて見える浮遊感のある音が印象的だが、それに続く歌詞は相反して一見力強いメッセージのように思える。
しかし、この歌は「諦めている自分」「諦めきれない自分」のもどかしいせめぎあいの歌だ。

この曲の主人公は、自分の感情を人に伝える事を諦めている。それは恋人への想いかもしれないし、友人や家族、触れ合う他人全てに対する感情なのかもしれない。誰しも、どんなに親しい人が相手であっても「私の気持ちなんてどうせわかってもらえないだろう」なんて思った事があるはずだ。それがたとえ一時の気の迷いのようなものであったとしても、どうせ私たちは他人同士である。心の底からわかり合う事なんか出来ないし、本当の気持ちなんて、文章化出来るような当たり障りのない言葉の陰に――「行間に」挟んで、いつか気づいてもらえるんじゃないか、なんて「一任に愛を仰ぎ続ける」事しか出来ない。 
そうして募った想いが水にも泡にもならずに消えてゆくことを、主人公はわかり切っている。「痛くもないし痒くもない筈だろう」と言うフレーズからは、そんな諦めが滲み出しているが、その一方でまだ諦めきれない気持ちがある事も感じ取れる。

『下らないことが
不安の種子になってく
自ら発芽を促す様』


悩んでいるなら諦めた方がいい事は明白なのに、何故か迷いから抜け出せない主人公は、まるで自ら苦悩の堂々巡りに身を投じるように迷い続けている。冒頭のぶっきらぼうな程の言葉に彩られた歌詞は、そんな自分を叱咤する言葉だったのだ。

Ivyの楽曲の歌詞はドラムの福島由也が作詞している。彼の手による詞は憂鬱なモノローグでありながら、抽象的で力強い言い回しが選ばれているため鬱屈とした息苦しさがあまり無い。シンプルでありながらメリハリの効いた爽快感すら感じるサウンドも相まって、炭酸水のようにスルスルと身体に沁み入ってくるような感覚がある。

近代詩のような印象の強い歌詞の中で、異彩を放っているのが2番のこの部分。

『ビタミンが足りないとか
テレビがつまらないとか
それくらいのことだけで
悩んでいられたらいいのにな』


「ビタミン」とか「テレビがつまらない」とか、突然生活感溢れるワードが飛び出してくるが、ここにこの歌の主人公の胸の奥に巣食う、憂鬱の核心が表れている。

彼は自ら不安の種子に水を与えて「口渇する」ような性格だ。人とわかり合えない切なさを割り切って、日常的などうでもいいことで悩んだり笑ったりしていられたらどんなに楽だろうか、と胸のうちでは思いながらも、まるで幸せを恐れるように迷いの渦へと身を投じてしまう。あなたの周りにも、もしかしたらそんな「不幸慣れ」した人がいるかもしれない。或いはもしかして、この曲に興味を持ってくれたあなた自身が、正にその人なのかも。

迷いの森の道半ばで死んでしまうような人も決して少なくはないだろう。でも、この曲の主人公はそれを選ばない。

『この命も君との日々も
匙を投げるにはまだ早いよ
行間で君と笑いたいんだ
全てよ杞憂に終わってくれ』


彼はまるで祈るように「匙を投げるにはまだ早いよ」と希望を持とうとする。たとえその選択が更なる迷いを生み出す事になったとしても、彼の言葉は力強い。本当の気持ちを隠した「行間」で、いつか誰かと一緒に笑い合える、わかりあえると信じようとしているのだ。
ボーカル寺口宣明の嘆きのようでありながら朗々と響き渡る歌声が、希望と絶望の狭間で彷徨いながらも幸福な生を求める切実さを表しているようだ。

悩める現代人の皆さん、明るく元気なロックで脳味噌を麻痺させるのも勿論有意義なライフハックのひとつだけれど、たまには迷いを受け入れて生きるための力をチャージしてみては。Ivyの力強いメランコリックさは、そんな時あなたの心強い味方になってくれるかもしれない。


TEXT:五十嵐文章

2010年10月に群馬県にて結成された、4人組ロックバンド。楽曲の世界観をリアルに表現する寺口(Vo/Gt)の唄を軸としたライブパフォーマンスの圧倒的な求心力は多くのファンを魅了する。昨年四月の記念すべき全国デビュー作品はオリコン週間インディーズチャート三位を記録。そして”渋谷CLUB QUATTRO“···

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