浮遊感が強く、クセの強い響きを演出できる「イキスギコード」。
作曲やアレンジに使ってみたいけど、サウンドや構造が分からないので使えないという人も多いのではないでしょうか?
この記事のもくじ
イキスギコードとは
イキスギコードとは、特定の構造を持つコードを指す造語です。
既存の音楽理論を基に作られたものなので、完全に新しいコードというわけではありません。
そのため、機能や構造を理解し、基本理論と組み合わせれば作曲初心者でも簡単に使えますよ。
はじめに、イキスギコードの名前の由来や構造、海外での呼び名を紹介します。
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命名したのは有名配信者のゆゆうた
この独特な響きのコードに「イキスギコード」と名付けたのは、音楽系動画やゲーム実況が人気の配信者・ゆゆうたです。
YouTubeのチャンネル登録者は150万人以上と多くの人から親しまれる配信者で、今でも勢力的に活動を続けています。
彼がイキスギコードという言葉を使ったのは、2018年ごろのニコニコ動画での配信。
既に過去の音楽でも使われていたコードであったものの、配信内容と独特な名前が話題となり、斬新な和音として注目されるようになりました。
ドミナントセブンスの派生コード
イキスギコードは不安定で、トニックに戻りたがるサウンドを持つドミナントセブンスの仲間です。
どちらも根音(ルート)と♭7thの音を含んでいるため、同じような使い方ができます。
もちろん違いもあり、イキスギコードはサブドミナントを感じさせる、あいまいで浮遊感の強いサウンドになっているのが特徴。
シンプルな響きは不得意ですが、解決感を弱めて浮遊感を演出したいときには便利なコードです。
テンションや転回などの理論を使ったもの
装飾音を加えるテンション、構成音の順番を入れ替える転回など、ポピュラー音楽の定番理論を応用したものが「イキスギコードの正体」です。
テンションを中心に考えるなら、ドミナントセブンスの3rdと5thを省略し、9thと#11(#4)を加えたもの。
転回をベースに考えると、aug7を転回し7thをベースにした和音と解釈できます。
他にも、9thが使えるメロディックマイナーのⅥm7(♭5)、#4をベースにした裏コードの派生和音(田中aug)などの解釈がありますよ。
どれも同じ音を使った和音なので、好きな解釈を取り入れてみてくださいね。
海外ではBlackadder Chordと呼ばれている
イキスギコードは、海外のアニソン・J-POPファンの間では「Blackadder Chord」と呼ばれています。
この名前は、YouTubeチャンネル・Ongaku Conceptを運営する配信者・Joshua Taipaleが付けたものです。
きっかけは、彼がアニソンコードを分析している途中に聴き慣れないコードを見つけたこと。
その後、チャットツールで名前を募集し、候補にあった「Blackadder Chord」をかっこいいからという理由で採用して発表しました。
イキスギコードの使い方
イキスギコードの基本的な使い方は、ダイアトニックコードや定番和音と同じシンプルです。
厳密には、上方変位や下方変位、倚和音などのクラシックの理論も関係しますが、機能だけに注目して使うだけでもとても個性的なコード進行を作れます。
次は、イキスギコードの定番の使い方やアレンジに使う際の注意点を紹介するので、ぜひ参考にして曲作りに役立ててみてくださいね。
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半音下のコードに解決させる
半音下のコードに解決させるのが、イキスギコードの定番の使い方です。
転回形や裏コードの派生と考えているなら、解決先のルートより半音上にベース音が来ると覚えても良いでしょう。
基本的な使い方は「♭Ⅱ7→Ⅰ」と進行できるⅤ7の裏コードと同じで「♭Ⅱblk(イキスギコードの省略記号)→Ⅰ」と配置できます。
裏コードの♭Ⅱ7より浮遊感の強いサウンドになるので、フワッとした雰囲気を出したいときに使うのがおすすめです。
5度下のコードに解決させる
イキスギコードをaug7の転回形や、#4をベースにした裏コードの派生形で覚えたい人には、5度下のコードに解決させる考え方がおすすめです。
5度下というのは、ベース音の動きではなく、変形前のコードから見た5度下を意味しますよ。
Caug7の転回を使う場合には「Caug/B♭→Fmaj7」、裏コードの派生形を基準とするなら「Caug/F#→Fmaj7」となります。
普通のドミナントセブンスと同じ感覚で使えるので、作曲やアレンジに取り入れやすい使い方です。
アレンジに使う場合はメロディと構成音の関係に注意
手軽に響きを変えられるイキスギコードですが、アレンジに使う場合は歌や他の楽器のメロディと構成音の関係に注意しましょう。
テンションで見ると3rdと5thを含まないので、メロディに3rdや5thを使うと不協和音的な響きになります。
4thや♭9thなど、構成音と半音でぶつかる音も同様です。
メロディを変えるか、鳴らすタイミングを後ろにズラせば簡単に解決できるので、気持ち悪いと感じたときにはぜひ試して見てくださいね。
イキスギコード上で使えるスケール
イキスギコードの構造や使い方は分かったけど、メロディはどんなスケールを付ければいいか分からないという人も多いでしょう。
構成音が特徴的なのでメロディを付けるのが難しいですが、おしゃれポップスやジャズで使われるスケールを使えば、簡単にアプローチできますよ。
次は、イキスギコード上で使えるスケールを紹介します。
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コードトーン
イキスギコードでアドリブ演奏やメロディを付けるときにおすすめなのが、コードトーンです。
構成音を単音で鳴らすだけなので、コードの雰囲気にマッチしたメロディが作れるのが特徴。
テンション系で考える場合は「R・9th・#11・♭7」、aug7系なら「R・3・#5・♭7」がコードトーンになります。
スケールを基準にしたいなら、テンションと構成音を全て含むリディアン♭7ロクリアン♮2の省略形と覚えるのもおすすめです。
ホールトーンスケール
ホールトーンスケールとは、全ての音が全音(半音2個分)間隔で並んでいるスケールです。
aug7によく使われるスケールであるため、aug7の転回とも考えられるイキスギコードにも使えます。
使い方は、ルートにテンションを積む考え方ならルートから始まるパターン、aug7の場合はaug7のルートから始まるホールトーンを弾くだけとシンプル。
どちらも使うスケールが違うように感じますが、実際はスタート地点が違うだけの同じスケールなので、イメージしやすいほうを使いましょう。
ギターでイキスギコードを弾く方法
鍵盤を使って紹介されることが多いイキスギコードですが、もちろんギターでも演奏できます。
押さえ方も比較的シンプルなので、基本コードはバッチリという人や、自由にボイシングを作れるという人なら簡単です。
スケールの次は、ギターでイキスギコードを弾く方法をコードフォームと共に紹介するので、ぜひマスターして演奏に取り入れてみてくださいね。
6弦ルートの押さえ方
6弦ルート・6弦にベースを配置したイキスギコードのフォームです。
考え方ごとに土台のコードが違うため、テンションやコードトーンの場所が違っていますが、全て同じポジションと音を使っています。
少し複雑なフォームですが6弦を中指、4弦を薬指、3弦と2弦を人指し指で押さえれば簡単に押さえられますよ。
余裕がある場合には、1弦を小指で押さえるのもおすすめ。
音域が広く、弾き語りにも対応できるイキスギコードの押さえ方です。
5弦ルートの押さえ方
弾き語りにも使いやすいサウンドを持つ、シンプルな押さえ方のフォームが5弦ルートのパターンです。
5弦と3弦、2弦を人差し指でセーハし、4弦を中指で押さえれば完成と、ギター初心者でも押さえやすくなっています。
セーハが苦手で上手く音が鳴らない場合は、5弦を人指し指、4弦を小指、3弦を中指、2弦を薬指で押さえる方法もおすすめです。
4弦ルートの押さえ方
4弦ルートのイキスギコードの押さえ方はこの通り。
こちらも5弦ルートと同じくシンプルで、人差し指のセーハと、中指・薬指を使えば簡単に押さえられます。
4弦でルートやベースを弾くフォームなので、弾き語りには向いていません。
しかし、鍵盤楽器やベースのアンサンブルなら効果的に使えるので、バンドやDAWを中心に活動している人は覚えてみてくださいね。
ベースがいる編成なら省略フォームもおすすめ
ベースがいる編成で演奏することが多いなら、省略フォームもおすすめです。
ルート・ベース音をベーシストが鳴らしてくれるので、テンションやコードトーンだけを弾いてもイキスギコードらしさを演出できます。
各弦をルートにしたフォームであれば、一番低い音を省略し高音部分だけを弾く方法がおすすめ。
ほかにも、オーギュメントトライアドだけを狙って弾く、積み方を変えてみるなど、幅広いボイシングが可能になるので、色々と試してみましょう。
イキスギコードが使われている曲
基本的な使い方や弾き方を覚えたら、実際にイキスギコードが使われている曲を聴いて響きを感じてみるのがおすすめです。
意識しながら聴くだけでも響きを覚えることができ、サウンドや使い方のイメージもしやすくなりますよ。
最後に、イキスギコードが効果的に使われている曲を紹介するので、気になる曲はぜひ聴いてみてくださいね。
灼熱スイッチ / 雀が原中学卓球部
雀が原中学卓球部の「灼熱スイッチ」は、アニメ「灼熱の卓球娘」のオープニング曲です。
数多くのアニソンを制作する作曲家・田中秀和が手掛けた楽曲で、イキスギコードと同じ構造の「田中aug」が随所に登場します。
最初の登場はイントロの歌い出し直後の間奏部分で、♭Ⅶ7のF7の代理としてBaug/Fを使用。
Baug/Fはサビの冒頭でも使われており、こちらはEm7に解決するためのコードとして使われています。
ポップな雰囲気ながらも、音楽的な工夫が光る素敵な楽曲です。
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灼熱スイッチ 歌詞 雀が原中学卓球部 TVアニメ「灼熱の卓球娘」オープニングテーマ ふりがな付 - うたてん
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Guilty Eyes Fever / Guilty Kiss
「Blackadder Chord」という名前が生まれるきっかけとなった曲が、アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の関連曲「Guilty Eyes Fever」です。
イキスギコードの登場は2コーラス目のサビ直前で、「Caug/F#→B♭aug/E→A♭aug/D」と全音で動かすユニークな使われ方をしています。
ホールトーンスケールの全ての音が全音間隔で並んでいるという特性と、イキスギコードのサウンドを組み合わせた、浮遊感の強いサウンドが印象的な楽曲です。
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Guilty Eyes Fever 歌詞 Guilty Kiss ふりがな付 - うたてん
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全力少年 / スキマスイッチ
スキマスイッチの「全力少年」は、サビの開放感を演出するためにイキスギコードを使っている曲です。
登場はサビの直前で、サビ冒頭のⅣメジャー(Gメジャー)に向かうためにDaug/A♭、もしくはB♭aug/A♭が使われています。
鳴らされるのは1拍だけと短いですが、爽やかなサウンドに絶妙なアクセントを加えていますよ。
イキスギコードをポップな曲に使ってみたい人は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
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全力少年 歌詞 スキマスイッチ ふりがな付 - うたてん
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イキスギコードを覚えれば作曲やアレンジの幅が広がる!まずは簡単な進行を作って響きを感じてみよう
イキスギコードは、オーギュメントやテンションを多く乗せたドミナントセブンスに似たサウンドを持つ、個性的なコードです。
浮遊感が強いコードの1つにすぎないため絶大な効果はありませんが、上手く使えばサウンドの幅を広げられますよ。
まずは簡単な進行を作って、演奏しながら響きを覚えて、使い方のコツを掴んでいきましょう。
慣れてきたら既存曲のアレンジやメロディラインの作成などに挑戦するのがおすすめ。
だんだん使いこなせるようになるので、焦らずに練習を続けてみてくださいね。
この記事のまとめ!
- イキスギコードは、浮遊感のあるサウンドが魅了のコード
- イキスギコードの基本的な使い方はドミナントセブンスと同じ
- コードトーンやホールトーンスケールを使えば、イキスギコードの雰囲気を活かしたメロディが作れる
- イキスギコードはピアノだけでなく、ギターでも弾くことができる
- J-POPやアニソンには、イキスギコードを効果的に使った曲が沢山ある