「期待されるわたし」を抜け出して
ジュディマリ時代は、作詞で制約を受けていた。
もっと等身大のいろいろなYUKIを表現したいのに、それじゃあジュディマリのYUKIじゃないよと言われていたのだ。
ソロになったら、自分の気持ちのいいように表現したい。ほんとうに書きたかった歌詞を書きたい、そんな思いが強くなっていた。
『揺れるスカート』は2011年の震災後に発売された、megaphonicというアルバムの収録曲。世の中の動きもあり、意識的に自分を明るいほうへもっていったアルバムのなかで、この曲の冒頭の歌詞は、少し突き放した感じを受ける。
揺れるスカート
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そうやって皆して不平不満ばっかり言って
つぶやいてりゃいいじゃない 私には関係ない
朝日に目覚め 夜になれば寝る 夢も見ない
≪揺れるスカート 歌詞より抜粋≫
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この歌詞の、「つぶやいてりゃいいじゃない」というのが少し引っかかる。「不平不満ばかり言ってりゃいいじゃない」ではなく、わざと「つぶやく」と書いたのは、インターネット上のつぶやき、Twitterを指しているのだろう。
タイムラインにあふれる、誰かの不平不満。それについてYUKIは、「私には関係ない」という。そういうものをYUKIは、見ないようにしている。「夜になれば寝る」のだ。ちなみにYUKIは、睡眠時間は最低でも10時間は欲しいと言っている。
YUKIがネットを見ないのには、理由がある。彼女は普段から悪い言葉を使わないようにし、悪いバイブレーションを出さないよう気を付けている。
批判的になったり、敵をつくったりする暇があったら、その分ご機嫌でいたい。自分が良いバイブレーションでいれば、物事はよい方向へ変わっていくからだ。まさに、君子危うきに近寄らず。
でも、この曲は「ツイッター見ないよ」だけでは終わらない。
ネガティブな言葉の置き場じゃない
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線路に咲く小さな花 遠くで猫を撫でている女
名前など付いていない 私もそうかもしれない
吹きさらしのミュージック かきわりワンダーランド
本当のところ踊れるんでしょ シナリオ以外に
身体で伝えなきゃ
「誰か」じゃなくって「君」が消えてしまう前に 今すぐ
≪揺れるスカート 歌詞より抜粋≫
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偶然みかけた、線路に咲く花。猫を撫でる女。通り過ぎていくものたちに、名前なんてない。
インターネットの匿名社会。流れていくタイムライン。ボタンひとつで消せるつぶやき、自分の存在。そういうものに、YUKIは「身体で伝えなきゃ」と投げかける。
ネットが悪いわけではない。あなたが「踊ら」なければ、そのうちあなたも消えてしまうよ、と、この歌詞は言っているのだ。
「踊る」とは、自分の身体から湧いてくるものを表現すること。マイナスの波動に囚われてしまうのではなく、自分の足でしっかり立って、シナリオなんて無視して自由にふるまおう。そういうメッセージだ。
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やけっぱちで踏ん張る足に 優しい春の甘い風が 吹いてくれたら
ハロー, マイ・フレンド 裸みたいな笑顔を見せておくれよ
揺れるスカート
≪揺れるスカート 歌詞より抜粋≫
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インターネットは本来、ネガティブなことを呟く場ではない。使い方を試行錯誤すれば、楽しく踊れる場所だ。
この歌詞のように、ネットの反応に「優しい春の甘い風」が感じられるような場所にすればいい。
「揺れるスカート」とは、踊ってスカートが揺れているときのこと。あなたもぜひ、スカートを揺らしてみてほしい。