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宇多田ヒカル『道』で描かれる母親への想い

『道』は宇多田ヒカルが2016年にリリースしたアルバム『Fantome』の冒頭に収録された曲。 本人が出演するミネラルウォーターのCMにも使われていたので、それで聞いたことのある人も多いだろう。 2010年の「人間活動」宣言とともに長い活動休止期間に入った宇多田ヒカルが8年半ぶりに発表したアルバムが『Fantome』だった。本作にはその間に彼女が経験した様々な出来事が反映されている。 そして『道』はその中でも特に重要な曲なのだ。その理由を、歌詞と共に読み解いてみたいと思う。
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「あなた」とは誰か?

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黒い波の向こうに朝の気配がする
消えない星が私の胸に輝き出す
悲しい歌もいつか懐かしい歌になる
見えない傷が私の魂彩る

転んでも起き上がる
迷ったら立ち止まる
そして問う あなたなら
こんな時どうする
≪道 歌詞より抜粋≫
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『道』の歌詞はどこか抽象的で美しい心象風景から始まる。

それは間違いなく宇多田ヒカル本人の心の中を描いている。

「悲しい歌」「見えない傷」など、彼女の心は傷ついていることがわかる。

そして「あなた」に問いかけるのだ。
「こんな時どうする?」と。

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私の心の中にあなたがいる
いつ如何なる時も
一人で歩いたつもりの道でも
始まりはあなただった
It's a lonely road
But I'm not alone
そんな気分
≪道 歌詞より抜粋≫
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この曲は徹頭徹尾「あなた」に向けて歌われている。
重要なのはこの「あなた」は誰なのか?ということだ。

結論から言うと、この曲は宇多田ヒカルの母親である藤圭子に歌いかけているものなのだ。

母親への想い

藤圭子は1960年代から70年代にかけて活躍した歌手だ。

『圭子の夢は夜ひらく』、『女のブルース』など、当時まだ10代でありながら夜の女の情念を見事に歌い上げ、ヒットさせた人気歌手だった。

結婚や離婚、引退宣言などを経て、音楽プロデューサー・宇多田照實との間に長女・光を出産する。

宇多田照實とは何度か離婚と結婚を繰り返すなど、宇多田ヒカルにとっては特殊で複雑な家庭環境であったことと推測する。

母親である藤圭子にも様々な想いがあったことだろう。

しかしこの『道』で歌われるのは、「あなた=藤圭子」に対するストレートな感謝である。

自分の心の中にあなたがいる。

一人で生きてきたつもりでもそうではなかった。

寂しいけれども孤独ではない(心の中にあなたがいるから)。

そうした言葉が歌われている。

しかしこれは果たして活動休止前の宇多田ヒカルに歌えた曲だっただろうか?

「母親」として

宇多田ヒカルが活動休止中の2013年に藤圭子は亡くなった。
自殺と考えられている。

詳細はここでは述べないので、興味ある人は調べてみてほしい。

宇多田ヒカルと藤圭子の関係がどうであったにせよ、ショックな出来事であったのには違いないだろう。

そしてその後、2015年に宇多田ヒカルは第一子を出産した。

そう、「母親」になったのである。

あくまでも推測でしかないが…。
自らも母親になったことで、宇多田ヒカルは初めて母親である藤圭子と向かい合い「道」という曲を生み出せたのではないだろうか。

宇多田ヒカルが子供に対して抱く感情、それは間違いなく、藤圭子が自分に対して持っていたものだったはずなのだ。

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私の心の中にあなたがいる
いつ如何なる時も
どこへ続くかまだ分からぬ道でも
きっとそこにあなたがいる
It's a lonely road
But I'm not alone
そんな気分
≪道 歌詞より抜粋≫
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自分の人生は自分の力だけで切り開いて歩いてきたものではない。

自分の親から、あるいはその前の世代から、一本の線でつながってきているものなのだ。

そのことに対する想いを宇多田ヒカルは歌っている。

『道』は母親になった宇多田ヒカルからの、母親・藤圭子への愛の手紙なのだ。

アルバム『Fantome』には他にも、母親に向けて書いたと思われる曲が収録されている。
ぜひ歌詞カードと共に聞いてみてほしい。


TEXT まぐろ

シンガー・ソングライター 1983年1月19日生まれ 1998年12月9日にリリースされたデビューシングル『Automatic/time will tell』はダブルミリオンセールスを記録、15歳にして一躍トップアーティストの仲間入りを果たす。そのわずか数か月後にリリースされたファーストアルバム『First Love』はCD···

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