共感できる別れ話の歌詞
▲wacci----------------
別の人の彼女になったよ
今度はあなたみたいに 一緒にフェスで大はしゃぎとかはしないタイプだけど
余裕があって大人で 本当に優しくしてくれるの
≪別の人の彼女になったよ 歌詞より抜粋≫
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歌い出しから楽曲名が登場する『別の人の彼女になったよ』は、まるで別れた彼女の独り言のような雰囲気が漂っている。独り言なのか、別れた彼氏への言い訳なのか、一人語りのような歌詞に冒頭から引き込まれる。
どうやら彼女は彼氏を振り、新しい人と恋を楽しんでいるようだ。フェスの話は、音楽好きなカップルを想像でき、登場人物の設定が手に取るように分かる。
大人な彼氏の自慢話と思いきや…
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別の人の彼女になったよ
今度はあなたみたいに 映画見てても私より泣いてることなんてないし
どんなことにも詳しくて 本当に尊敬できる人なの
≪別の人の彼女になったよ 歌詞より抜粋≫
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新しい彼氏は大人な人で、フェスで彼女以上にはしゃぐ無邪気さや、映画で彼女より泣いてしまう純情さは持ち合わせていない。彼女の言葉から分かるのは、とても大人で素敵な男性である、ということだ。
こんな話を聞かされたら、未練たらたらの元彼は涙を堪えきれないだろう。大きな敗北感を味わう、なかなか男性目線では辛い歌詞が続く。
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キスや態度だけで 終わらせたりせずに
ちゃんと「好きだ」という 言葉でくれるの
怒鳴りあいはおろか 口喧嘩もなくて
むしろ怒るとこが どこにもないの
≪別の人の彼女になったよ 歌詞より抜粋≫
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元彼は口下手だったのか、言わなくても伝わると思ったのか、愛を言葉にすることは少なかったのだろう。それが原因で別れたのかは不明だが、「愛している」と言葉で言ってもらえることに、彼女は幸せを感じているのだ。この点でも、元彼に勝ち目はない。
もしもこんなことを元彼が聞いたら、過去の過ちを後悔すると共に、今の彼氏に激しい嫉妬心を抱くことだろう。
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だからもう会えないや ごめんね
だからもう会えないや ごめんね
あなたも早くなってね
別の人の彼氏に
≪別の人の彼女になったよ 歌詞より抜粋≫
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しかし、ただの彼氏自慢かというと、そうではないらしい。別れてもなんだかんだ理由を付けては会っているカップルもいるだろう中、彼氏ができたからもう会えないと、わざわざ伝えている。
元彼がしつこく迫っている可能性もゼロではないが、彼女自身、元彼に想いが残っているから謝っているのだろう。そして、もう悲しい思いをしないよう、早く新しい人を見つけて欲しいと切に願っている。優しい心の持ち主なのだ。元彼はここでも、惜しい人を手放したと後悔するに違いない。
新しい彼氏は厳しい人?
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別の人の彼女になったよ
あなたの時みたいに すっぴんだって笑っていられる私ではなくて
一生懸命お洒落して なるべくちゃんとしてるの
別の人の彼女になったよ
あなたの時みたいに 大きな声で愚痴を言うような私ではなくて
それをすると少しだけ 叱られてしまうから
夢や希望とかを 語ることを嫌って
ちゃんと現実をね 見つめていて
正しいことだけしか 言わないから
ずっとさらけ出せず おとなしくしてるの
≪別の人の彼女になったよ 歌詞より抜粋≫
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彼氏自慢をしていた彼女だが、2番になると様子が違っている。大人で優しく、しっかりと愛をくれる彼氏は、きちんとした人で、愚痴を許さない人。
人間としてとても完成されているからこそ、彼女は気を抜くことなくお洒落をして、ちゃんとした彼女を演じているのだ。そして、彼氏の前では昔のように、愚痴をこぼすこともできない。元彼の前ではメイクもせず、文句も自由に吐き出していた彼女。それはそれで、とても居心地のよい空間だったはずだ。
しかし、「別の人の彼女」になれば、キャラクターを変えなくてはならないこともある。ぐっと堪えておとなしく、叱られないように、嫌われないようにしている姿は、萎縮しているようにも見えて痛々しい。
ふとした瞬間にこぼれる彼氏への不満に、元彼への愛情がにじみ出していて切ない場面だ。
本当は会いたくて堪らない
彼氏ができるまでの間、元彼と何となく会ってしまうことはあるだろう。互いに足りないものを補い合う関係は、居心地はよくてもいつかは終わるもの。彼女は新しい彼氏を見つけて、幸せに向かって前向きに進んでいると思いきや、そうでもないようだ。別れたことを後悔しているのかもしれない。
愛情を注ぎ、大人の魅力を放つ新しい彼氏は、人間性という点で彼女とは合っていないようにみえる。彼女自身、自分が背伸びしていることを感じているからこそ、独り言のようにして元彼に想いを馳せてしまうのだ。
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だからもう会えないや ごめんね
だからもう会えないや ごめんね
あなたも早くなってね だけど私はズルいから
だからもう会いたいや ごめんね
だからもう会いたいな ずるいね
あなたも早くなってね 別の人の彼氏に
私が電話をしちゃう前に
≪別の人の彼女になったよ 歌詞より抜粋≫
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散々「もう会えない」と言いながら、ここへきて「もう会いたい」と言う彼女。そんな自分のずるさを自覚しながらも、気持ちは止められないから、何とか歯止めをかけようとして、早く彼女を作って欲しいと懇願している。
本当は、復縁したいのに。本当は、まだ好きなのに。「私が電話をしちゃう前に」という言葉が強烈だ。この楽曲を聴いた人は皆、最後のパワーワードに撃ち抜かれることだろう。
たった一言の本音がとてつもない吸引力を持った、wacciの名曲といえる。男性でありながら女心に寄り添った歌詞を放つ橋口のセンスに脱帽だ。
リアルすぎて泣ける
配信から1年近くが経ってもなお、人気を保ち続ける『別の人の彼女になったよ』。その秘密は、あまりにもリアルすぎるカップル像や、失恋した人なら誰しも胸に抱いたことのある想いを描いた汎用性にある。
誰でも共感できる歌詞は、結局のところ、多くの人間に刺さるのだ。ワガママといってしまえばそれまでだが、彼女が元彼に抱く感情は、女性ならば痛いほど分かるもの。
シンプルかつ聴いた人みんなが共感できるテーマだからこそ、ここまで高い人気を誇るのだ。今の彼氏の前で背伸びをして、「私、幸せだよね?」と言い聞かせる彼女の痛々しさと、ずるいと認めながら、元彼に会いたいと言ってしまう素直。女性は共感、男性は胸キュンが止まらない、至高のラブソングといえる。
TEXT 岡野ケイ