「ポンキッキーズ」を語らずして90年代を語るべからず
1993年から放映がスタートした「ポンキッキーズ」。朝の8時8分に流れる“はちじ、はちじ、はちじ、はちじ、はっぷん!”という時報と共に学校へ急いだ…という思い出がある方も多いはずです。
その後、2018年まで放映された「ポンキッキーズ」が、人気、内容共に最も充実していた時期は、1994年から1999年までのズバリ90年代でした。
「ポンキッキーズ」がスタートした1993年と言えば、J-Pop、小室ファミリー、渋谷系と、'90sカルチャーがちょうど開花した時期。
前身番組だった「ひらけ!ポンキッキ」よりも年齢層を高めに設定された「ポンキッキーズ」は、番組を構成するアニメ、音楽などに、これらのトレンドを取り入れました。
出演者にスチャダラパーのBOSEとアイドルの鈴木蘭々、そしてブレイク直前の安室奈美恵を迎え、米米クラブ、斉藤和義らのアーティストが楽曲を提供。
“パーッパラ、パッパッパラ〜”と、スチャダラパーの「GET UP AND DANCE」のイントロでカッコよく始まる「ポンキッキーズ」は、単なる子供番組の域を超え、番組自体が一つのトレンドとなります。
90年代の魅力がギュッと詰まった「ポンキッキーズ」。'90sカルチャーの縮図とも言えるこの番組は、1990年代を語る上で外すことの出来ない存在となったのです。
「さあ冒険だ」を生んだ豪華アーティストたち
90年代を代表する才能が集結した「ポンキッキーズ」からは、自ずと数々の名曲が誕生しました。
その中でも、「さあ冒険だ」は、そうそうたるアーティストたちが顔を揃えた、「ポンキッキーズ」史上最も贅沢な一曲です。
作詞はコピーライターの糸井重里と森高千里、作曲は米米クラブのカールスモーキー石井。そしてボーカルを務めるのは、あの誰もが知ってる芸能界のドン、和田アキ子。
大ベテランの和田アキ子が歌うことによって、この曲は、若いアーティストたちによる楽曲に深みを与え、子供だけでなく大人の心にも響く名曲となりました。
「さあ冒険だ」を聴けば大人になっても冒険できる!
「さあ冒険だ」を初めて聴いた時、耳に入ってくる優しい歌声の主が、芸能界で若手芸人を震え上がらせている和田アキ子だと気がつく人は、当時どれくらいいたでしょうか。
きっと、後に「唄:和田アキ子」というクレジットを見て衝撃を受け、さすがは日本を代表するソウルシンガーだと誰もが恐れ入ったに違いありません。
そんなアッコさんの歌声を聴けば、一気に子供時代にタイムスリップ出来るという人も多いことでしょう。ところで「冒険」って、大人になった今となっては、もう出来ないものなのでしょうか。
いやいや、そうではありません。この曲の歌詞は、きっとあなたに子供の頃のような冒険心を取り戻させてくれるはずです。
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晴れた日は 出かけよう
どこか遠くへ
知らないとこ 目指して
歩いて行こう
さあ冒険だ
≪さあ冒険だ 歌詞より抜粋≫
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「冒険」とは「これまでに経験のない未知の世界に足を踏み入れてみる」ということです。
子供の頃、世界は知らないことだらけ。子供にとっては、初めて飲むコーラのシュワシュワ感や、お母さんの口紅をこっそり塗ってみるドキドキ感、初体験のすべては冒険です。
でも、大人になるに連れ、初体験は減って行きます。だから冒険しようと思ったら、海外旅行に行ったり、とにかくお金をかけないとムリ、と思っていませんか?
もちろん、経済的に余裕あれば、そんな冒険をすることは素晴らしいことです。でも、もしそうでなかったら、晴れた休日にフラリと散歩に出てみるのはいかがでしょう。
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迷い道 裏道
信号 ガードレール
風にたずねながら
お気楽に行こう
≪さあ冒険だ 歌詞より抜粋≫
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知らない場所へ行くこと、それはすでに冒険です。自分の住む街の中にすら、まだ知らない場所がたくさんあるはず。
散歩に出たら、普段、通勤や通学で使わない道を通ってみましょう。そうすれば、新しくオープンした美味しいラーメン屋さんを発見したり、軒先きで昼寝している可愛い猫ちゃんに出会えるかもしれません。
そんな小さな冒険では物足らない、と感じる方は、お住まいの都道府県で、まだ行ったことのない所へ行って見るのはいかがでしょう。
“一人で外出なんて寂し過ぎて耐えられない”と感じる寂しがり屋の方には、現代社会の便利なアイテム、SNSの活用をおすすめします。
発見した素敵な情報をSNSに投稿すれば、もう一人ではありません。大人の冒険で最も大事なのは、「お気楽に」行くことなのです。
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晴れた日は 出かけよう
口笛ふいて
≪さあ冒険だ 歌詞より抜粋≫
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「口笛」も、冒険心を思い出す重要なポイントです。
口笛を吹く時、そのメロディは、ほとんど吹く人のオリジナル楽曲のはず。それって、作曲しているってことですよね。
子供の頃は想像力にまかせて自由に絵を描いたり歌を歌ったりできたのに、成長するに連れ「こう描かなければいけない」といったルールに囚われ、次第に失われて行く想像力。
まして大人になってから口笛を吹いてる人は、滅多に見かけません。
大人にとって、なかなかハードルの高い口笛にトライする、それはもはや冒険です。休みの日、口笛を吹いて想像力を復活させてみるのも良いのではないでしょうか。
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イソイソする
この気持ち
なんだろう さあ冒険だ
≪さあ冒険だ 歌詞より抜粋≫
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「イソイソする この気持ち」って、どんな気持ちでしょう。「いそいそする」とは、嬉しいことがあって心や動作が弾む、浮き足立つ、といった様子を表す言葉。
未知の世界への「冒険」に出かける時、人はこれから出かける先に何があるのだろうかという期待感と、誰にも内緒で知らない場所に出かけるちょっとした背徳感が入り混じった気持ちになるはずです。
そんな冒険に出かける前の、ソワソワとドキドキが合体したような気持ちに「イソイソ」ほどピッタリな表現はありません。もし休日にそんな気持ちになったなら、あなたは立派な冒険者です。
糸井重里と森高千里によって最小限の言葉で綴られたこの歌詞は、子供向けのように見えて、実はこの曲を聴いている子供たちが大人になった時のためのメッセージだったのではないでしょうか。
子供たちが大人になって少し心が疲れた時、もう一度、冒険に出かける気持ちを取り戻せるようにと、アッコさんの優しい歌声に想いを込めて。
TEXT 岡倉綾子