「幸福論」それはリスナーにとっても幸福な時間の始まりだった
1998年に発売された椎名林檎のデビュー曲『幸福論』。
若々しいサウンドながらも既に今の椎名林檎の原型がうかがえる楽曲となっています。
椎名林檎の音楽の特徴であるアカデミックで美しいオシャレな和声(コード)。
また、メロディーが独特でありながらも美しい旋律が聴くリスナーの心を掴みます。
恋愛ベースの歌詞内容に、知的で文学的匂いが漂い、聴く人の気持ちを少しだけ大人にしてくれる感覚を醸し出してくれます。
それは椎名林檎の大きな魅力であり、また大きな特徴の1つといえるでしょう。
こういった美しさや知的さ、そして聴く人の気持ちを少しだけ大人にしてくれるような感覚。
椎名林檎の音楽を聴いている時間、またはその曲を聴いている日常は、リスナーにとって快感に包まれた幸福な時間ではないのでしょうか。
『幸福論』は、リスナーにとっても幸福な時間の始まりともいえるでしょう。
アレンジを担当しているのは亀田誠治。
椎名林檎が「師匠」と呼ぶ亀田誠治は、この後もアレンジャーとして椎名林檎の多くの楽曲に携わっており、椎名林檎のサウンドを決定付ける大きな存在となっていきます。
そして、椎名林檎の才能は次に発売される2ndシングルで大きく華開きます。
個性と才能が華開いた「歌舞伎町の女王」
1998年に発売された椎名林檎の道すじを追う上で外せない名曲『歌舞伎町の女王』。
作詞・作曲は椎名林檎自身であるにも関わらず、前作の『幸福論』と比べてサウンドや歌い方が大きく変化しています。
昭和歌謡を思わせるような独特な響きが折り混ぜられたメロディーやサウンド「ら行」を巻き舌にする歌い方などは、現在の椎名林檎のスタイルに通じている部分があります。
こういった強い個性はリスナーに敬遠されてしまう場合もありますが、強い個性が溶け込むように作られたサウンドや椎名林檎の作詞・作曲のセンスなど彼女自身の世界観がバランス良く調和した曲であることに受け入れられる理由があるのでしょう。
この曲の歌詞は椎名林檎が上京後アルバイトをしていた時代に「君なら女王様になれる」と水商売のスカウトマンに声をかけられたのがきっかけで作られたとのこと。
歌詞の内容は全てフィクションです。
楽曲の中では歌舞伎町を舞台に生きていく1人の女性の人生をストーリー的に描写しているものの、歌舞伎町の街の風景などを具体的に描いている部分は最後の部分だけです。
しかし、聴いた人が歌舞伎町をリアリティを持って強く連想させてしまうのは椎名林檎のセンスの素晴らしさや世界観のたまものであることは間違いないでしょう。
20年分の才能~椎名林檎初オールタイム・ベストアルバム「ニュートンの林檎」~
ピックアップした2だけでも椎名林檎の才能の素晴らしさを十分に理解して頂けたのではないでしょうか。
椎名林檎の才能や世界観は多角的です。
そして椎名林檎の作品の変遷やアレンジャーを始めとする関わっていくミュージシャンが変わるごとに椎名林檎の音楽の幅や色も変化していきます。
椎名林檎のデビューから今に至るまでの20年間のベストアルバムが2019年11月13日に発売。
今回の記事で紹介した『幸福論』や『歌舞伎町の女王』はもちろんのこと、女性の恋愛をストレートに歌った『ここでキスして。』、名曲として名高い『丸ノ内サディスティック』、ラテン調のリズムが心地よい『りんごのうた』といった歴代の名曲たちもしっかり収録されています。
また、トータス松本のパワフルかつ華やかな魅力を存分に活かした『目抜き通り』、宮本浩次の荒ぶる音楽性と歌唱力が見事にマッチした『獣ゆく細道』などの実力あるミュージシャンたちとコラボレーションで生まれた素晴らしい名曲たちも収録されています。
このベストアルバムを買って聴くだけでも椎名林檎の才能はもちろんのこと、椎名林檎の20年間の変化がしっかりと聴けるベストアルバムになっています。
椎名林檎を聴いたことが無かった人にもオススメできる価値あるベストアルバムとなっています。
愛され求められ続ける椎名林檎の今をリスナーがしっかりと捉えることができるベストアルバムです。
是非、お買い求めになられてみてはいかがでしょうか。
TEXT Kiminori Nozaka