アニメ「東京リベンジャーズ」ED曲のテーマは愛?
K-POPやブラックミュージックをベースに、多彩な音楽を融合させる感性と儚くも芯の強さを感じさせる歌声で、注目を集めているシンガーソングライターの『eill(エイル)』。メジャーデビュー曲となる『ここで息をして』は、TVアニメ『東京リベンジャーズ』のエンディングテーマに起用されています。
『東京リベンジャーズ』とは、ダメフリーターの主人公・花垣武道が中学時代に付き合っていた人生唯一の恋人・橘日向が犯罪組織「東京卍會」の抗争に巻き込まれて死亡したことを知り、偶然身に着けたタイムリープの力を使って日向を救おうとする不良漫画です。
そのエンディングを締めくくる『ここで息をして』の作曲には、宮田“レフティ”リョウが参加しムードあるジャズテイストのアッパーチューンとなっています。
eillは作詞するにあたって原作漫画を読み、ヒロインの日向の気持ちと自分自身の思いを込めて歌詞を書いたそうです。
今回はアニメの登場人物とeill目線の両方から、歌詞の意味を考察していきます。
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君の少し汗臭いシャツの
隣を歩くだけでいいの
突然の雨に打たれて
拗ねた夜にキスを落とした
≪ここで息をして 歌詞より抜粋≫
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橘日向はどう過去を変えても、何度も亡くなってしまう悲劇のキャラクターです。
その中で描かれる彼女の一途な想いは「隣を歩くだけでいいの」という言葉から伝わってくるでしょう。
「君の少し汗臭いシャツ」という表現が、青春時代のピュアな恋模様をリアルに切り取っていますね。
「突然の雨」で拗ねてしまった、まだ子どもっぽい恋人に「キスを落とした」情景から、彼女の少し大人びた性格が垣間見えます。
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振り返ればいつも笑った私でいるよ
「お願い」ねぇ叶わない未来なんてさ…
≪ここで息をして 歌詞より抜粋≫
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いつも笑顔のイメージが強い日向ですが、この歌詞を見ると恋人のために努めて明るく振る舞っていたことが想像できます。
それはきっと、武道がくじけそうになった時や挫折を味わった時に安心できるように。
深い愛がなければ決してできないことであり、彼女の優しさが伝わってきますね。
しかし彼女がこんなにも想っているのに、現代で二人は別れてしまっています。
「叶わない未来なんてさ…」という歌詞は、もしかしたら「隣を歩くだけでいい」という願いさえ叶わなかった現実の悲しさを表しているのかもしれません。
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今すぐに拐って
真っ新な世界で
君に名を付けるなら「私のヒーロー」
真っ直ぐな願いが
止まった時を越えて
君以外はもう何もいらないと
いつもここで息をして
≪ここで息をして 歌詞より抜粋≫
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日向にとって武道は「私のヒーロー」。
彼女は自分が死ぬことやタイムリープのことを知らないので、別れてからもずっと彼を想い続けていたことを示しているのではないでしょうか。
「君以外はもう何もいらない」とさえ歌っているのも、その解釈を裏付けます。
命を落とした彼女の時間は止まってしまいますが、武道のタイムリープによってまた新たな世界が生まれ、彼女の時間が繋がっていきます。
タイトルにもなっている「いつもここで息をして」というフレーズからは、“武道といれば生きていける”という想いと“武道にそばにいてほしい”という2つの気持ち表しているように感じられます。
愛する存在がいれば息ができる
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上手く息もできない世界で
君がくれた強さ抱けば
見えたバッドエンドさえも
甘い夢に変えてしまうよ
≪ここで息をして 歌詞より抜粋≫
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日向が武道に恋をしたのは、彼が負けることを恐れず自身を助けようとしてくれたからでした。
彼女にも持ち前の正義感がありましたが、か弱い女の子ではどうしても太刀打ちできない場面がたくさんあります。
そうした思い通りにならない現実を「上手く息もできない世界」と表現しているのかもしれません。
普段何気なくできているはずの呼吸の仕方が分からなくなるのは、あまりに大きなプレッシャーが心に重くのしかかっているからでしょう。
しかしそんな時、彼が教えてくれた勇気を思い出すだけで、ふと心が軽くなります。
愛する人が自分を助けようと必死になってくれる姿を見たら、たとえすぐそこに「バッドエンド」が迫っていても温かい気持ちになるのではないでしょうか。
もし日向が苦痛ばかりでなく「甘い夢」のような心地良さの中で亡くなったとすれば、それだけでも武道が彼女のために奔走したことは無駄でなかったと言えるでしょう。
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振り返ればいつも笑った君がいたから
思い出の中で「またね」それでもいい…
ただ
≪ここで息をして 歌詞より抜粋≫
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彼女の記憶の中で彼はよく笑っていたようです。
たくさんの楽しい思い出があるのでしょう。
たとえ今一緒に生きられなくても、共に過ごした思い出があれば「それでもいい」。
簡単な選択ではありませんが、彼と別々に生きる覚悟を彼女は持っています。
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今すぐに愛して
真っ新な世界で
もう一度出逢っても「私のヒーロー」
真っ直ぐな願いが
巡った時を越えて
君をまた 見つけ出せるように
いつもここで息をして
≪ここで息をして 歌詞より抜粋≫
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ところが本音は「今すぐに愛して」と願っています。
強い覚悟があるとはいえ、彼女も普通の女性なのです。
もし世界が変わり「真っ新」になって「もう一度出会っても」、彼女の想いは変わりません。
どこにいても見つけ出したいと思います。
その「真っ直ぐな願い」があれば、彼が目の前にいない「上手く息もできない世界」でも逃げることなく生きていけるのです。
eill目線で見る歌詞の解釈とは
ここからはeillの目線で歌詞を見ていきましょう。----------------
Darling
会えない旅路でも
時空さえ飛び抜けて
「お願い」ねぇ叶わない未来なんてさ…
≪ここで息をして 歌詞より抜粋≫
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コロナ禍の影響もあり、eillだけではく世界中の人々が息苦しさを感じていた2020年。
身近な人とさえ気軽に会えない日常に、現実逃避したくなることもあったはずです。
多くのことを諦め、願っても願っても叶わないことの連続の毎日を送る悲しい気持ちを代弁してくれています。
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Darling
会えない旅路でも
時空さえ飛び抜けて
「お願い」ねぇ叶わない未来なんてさ…
≪ここで息をして 歌詞より抜粋≫
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eillはこの楽曲制作を通して「バンドメンバーやスタッフのみなさんとの絆の強さを感じ」たと語っています。
彼女にとって本当に息ができる場所とは音楽の世界であり、音楽を通して繋がる仲間の中なのでしょう。
気持ちが落ち込みそうな時にも、音楽と一緒に楽しむ仲間がいれば現実とは違う世界へ行けます。
心が救われるという意味で、それは確かに「ヒーロー」となり得るでしょう。
コロナ禍で様々なものが奪われても、自分の居場所だと信じられるものが1つでもあれば、強く生きていけることを教えてくれます。
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曲がった針を破って
キマった声でが鳴って
運命を蹴っ飛ばして
≪ここで息をして 歌詞より抜粋≫
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最後に歌われるのは、思い通りにならない現実に立ち向かおうとする姿勢です。
世界の時間が止まってしまったような現実を“壊れた時計”に例えていると考えられますが、それを「破って」と表現しているところが印象的ですね。
どうすればいいか分からない現状のせいで錯乱状態に陥りながらも、大声で歌い続けている様子を想像できます。
誰かが決めた「運命を蹴っ飛ばして」、自分の人生を自分の思うように生きようという強い意思が感じられますね。
いつも思い通りにはならない人生だからこそ、本当に大切なものを見失わないことの重要性に気づかされる歌詞です。
「ここで息をして」の歌詞は輝く女性の強さを感じる
eillの『ここで息をして』の歌詞には、『東京リベンジャーズ』のヒロイン・日向とeillという確かな志を持つ二人の女性の感情が描かれていました。人でも音楽でも、何かをとことん愛する気持ちがあるなら、人はどんな境遇でも精一杯生きられます。
きっと彼女たちが人として輝いているのは、愛し信じられる大切なものを持っているからなのでしょう。
メジャーデビューで新たなステージを上ったeillの今後の音楽活動にも注目していきたいですね。