ドラマ主題歌となった珠玉の片思いソングの歌詞とMVに注目
ラテン調のメロディーと多彩な比喩表現を用いた歌詞で、独自の音楽を生み出し続ける人気バンド・ポルノグラフィティ。
なかでも2005年リリースの通算19枚目のCDシングル『ジョバイロ』は、ポルノグラフィティらしいラテン系のリズムと艶っぽく巧みな歌詞の魅力が輝くヒットナンバーです。
ドラマ『今夜ひとりのベッドで』の主題歌に起用されていて、舞台役者とその恋愛模様を描いたMVも相まって深みのある大人の切ないラブソングとして長年愛されています。
新藤晴一が綴り、岡野昭仁が力強く歌い上げる難解な歌詞の意味を詳しく考察してみましょう。
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人は誰も哀れな星 瞬いては流れてゆく
燃え尽きると 知りながらも誰かに気付いて 欲しかった
≪ジョバイロ 歌詞より抜粋≫
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冒頭から主人公は人を「哀れな星」に例えています。
一瞬はぱっと美しく輝いてもすぐに「流れてゆく」ことや「燃え尽きる」という表現に、人がいかに儚い存在であるかが示されていますね。
しかしその一方で、そんな苦い結末になることを理解しながらも「誰かに気付いて欲しかった」。
それは自分を必要とされたいという人として当たり前の感情であり、儚いからこそ余計に求めてしまうものなのではないでしょうか。
誰もがそうだと語るのは、彼自身が人に求められることを強く願っているからだと思われます。
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胸に挿した 一輪の薔薇が赤い蜥蜴に変わる夜
冷たく濡れた 舌に探りあてられた孤独に慣れた心
舞台の真ん中に躍り出るほどの
役どころじゃないと自分がわかっている
≪ジョバイロ 歌詞より抜粋≫
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「胸に指した一輪の薔薇が赤い蜥蜴に変わる夜」のフレーズは、この楽曲で最も理解が難しい部分と言えそうです。
「赤い蜥蜴に変わる」ということは、その薔薇は赤色だったということ。
赤い薔薇は花言葉から愛情の象徴として用いられるので、彼がある女性に想いを寄せている心を具現化したものなのでしょう。
蜥蜴といえば危険が及ぶと尻尾を切って逃げていきますが、体の大切な一部のはずなのに簡単に切り捨てることができ、時間が経てばまた再生する不思議な生態をしています。
そのことを歌詞に当てはめるとしたら、彼の愛情が彼女の前では切り捨てなくてはならないものになることを示しているのかもしれません。
「舞台の真ん中に躍り出るほどの役どころじゃない」という言葉も、自分は彼女にふさわしくないと感じて想いを心に秘めていることを匂わせます。
MVでの主人公は女性ですが歌詞の主人公と同じ境遇にあり、舞台の中央で自身の愛する人と踊る主役の女性を羨ましげに見つめる姿から、歌詞に込められたもどかしい気持ちがより感じられます。
歌詞に戻ると、蜥蜴の「冷たく濡れた舌」のように、同じ熱い想いを返してくれるわけもないのに無自覚に心に触れてくる彼女の存在が見えてくるでしょう。
彼女を愛してしまったから、自分がずっと孤独だったことやそのことから目を逸らそうとしていたことを思い知らされてしまった彼の複雑な気持ちが伝わってきますね。
タイトル「ジョバイロ」の意味が深い
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あなたが 気付かせた恋が あなたなしで育っていく
悲しい花つける前に 小さな芽を摘んでほしい
闇に浮かんだ篝火に 照らされたらジョバイロ ジョバイロ
それでも夜が優しいのは見て見ぬ振りしてくれるから
≪ジョバイロ 歌詞より抜粋≫
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サビの「あなたが気づかせた恋があなたなしで育っていく」のフレーズは、彼の恋心が決して叶わないものだとはっきり示しています。
彼女に出会ったことで恋心が生まれたのに、その気持ちは届かないまま心の奥で膨らむばかり。
育つ恋心を花が咲く様子に例える表現はラブソング定番の比喩で、本来なら温かく明るいイメージを伝えるものです。
しかし、ここでは失恋する結末が分かっているため、その花の存在自体を「悲しい花」としているところが余計に切ないですね。
だからこの想いが心に根を張って咲ききってしまう前に、彼女自身に「小さな芽を摘んでほしい」と願います。
これは一見気弱に聞こえる言葉ですが、薔薇の芽を摘む行為は棘の危険と隣り合わせです。
恋の芽を摘むことで彼女の指が傷付けば、彼女の心にも少しは自分の存在が残るのではないかという打算的な面も垣間見えるのではないでしょうか。
そしてこの楽曲のタイトルであり、歌詞の中でも特に象徴的なフレーズの「ジョバイロ」はスペイン語の「Yo Bailo」のことで、日本語では「私は踊る」を意味する言葉です。
彼を踊らせる「篝火(かがりび)」は、ぼんやりと闇に浮かぶような光を思わせます。
主役を煌々と照らすスポットライトとは対照的な光ではありますが、舞台では脇役の自分が篝火の下では主役になれます。
この篝火は歌詞冒頭に出てくる星と同じようにやがては燃え尽きてしまうもので、彼の恋心も同じです。
だからこそ、気持ちを高めるように「ジョバイロジョバイロ」と繰り返されるのでしょう。
そうして独り踊ることを「あなた」は知らず、唯一知っている夜も「見て見ぬ振りをしてくれる」ので、その瞬間だけは自分の気持ちに忠実に行動できるのです。
たとえそれが彼女の手の内で踊らされているだけだとしても、恋に一喜一憂する時間は確かに命を強く燃やしている瞬間と言えるのかもしれませんね。
進み始めた悲劇の結末は変えられない
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銀の髪飾り 落としていったのは
この胸貫く 刃の代わりか
折れかけのペンで 物語を少し
変えようとしたら 歪な喜劇になった
≪ジョバイロ 歌詞より抜粋≫
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「銀の髪飾り 落としていった」の表現には、彼女の故意の行動が読み取れます。
それが「この胸貫く刃の代わり」になるということは、この髪飾りは彼からの贈り物だったとも考えられます。
彼からもらった髪飾りを一度は身に着けたものの、わざと落として去っていく。
蜥蜴が尻尾を切って去るように、彼女にとって彼からの贈り物は未練なく手放してしまえるくらいに大して大事なものではなかったということでしょう。
それはきっと彼女の中での彼自身の存在価値と同じです。
彼女ははっきりと言葉にはしないまでも、髪飾りを落としていくことで彼の想いに返答したと解釈できます。
この恋は、舞台作品で言えば悲劇の物語。
台本に手を加えようとしても「折れかけのペン」では文字が歪んでしまうばかりで結末は変えられないでしょう。
舞台の上ですでに進み始めた悲劇も、動揺した心のまま演じれば滑稽さばかりが目立って「歪な喜劇」にしかなりません。
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宇宙の広さを記すとき人は何で測るのだろう?
この想いを伝えるとき僕はどんな 言葉にしよう?
あなたの 隣にいる自分をうまく思い描けない
はぐれないよう 絡めていたのは指じゃなく不安だった
≪ジョバイロ 歌詞より抜粋≫
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「宇宙の広さ」はあまりに広大で、人間の尺度では計り知れないものです。
それと同じく、心の中で大きく育っていく想いもどんな言葉でも言い表しきれないと考えているようです。
届かないと分かっていても自分の気持ちに嘘はつけず、この想いが届いてほしいと密かに願います。
それでも「あなたの隣にいる自分をうまく思い描けない」と現実的な見方を示しているのは、好きなだけでは先が見えない大人の恋愛ならではと言えるでしょう。
また、「はぐれないよう絡めていたのは指じゃなく不安だった」という詩的な歌詞も秀逸です。
温かさの象徴ともなる「指」を「不安」と対にしていることで、理想と現実のギャップがより引き立てられているように感じます。
暗い悲劇の中で、本当の自分と「はぐれないよう」に絡み合わせた不安感。
どうやっても彼女と手を取り合うことができないことを示すかのようで、叶わない恋の苦しさが表現されています。
MVの主人公は舞台から下りた後、最後に別の女性が薔薇の花を持っているのを目にします。
かつては自分がもらっていた薔薇が他の人の手に渡っている様子は、愛する人の愛情を受けるのが自分ではなくなったということなのでしょう。
現実に直面した時の衝撃と切なさが混ざったような表情に、何とも言えない気持ちにさせられます。
「ジョバイロ」は大人にこそ染みるラブソング
ポルノグラフィティの『ジョバイロ』は、深く愛しているのに想いが届かないことを歌った切ないラブソングです。
愛情や失恋を示す直接的なフレーズは一切使わず、繊細な比喩表現で心に訴えかけてくる歌詞が複雑な感情に悩む大人の恋愛の形を見せてくれます。
ポルノグラフィティならではの歌詞と音楽の魅力を改めて感じてみませんか?