MVは「日向坂46 VS 巨大モンスター」
2021年10月27日、日向坂46が6枚目のシングル『ってか』をリリースしました。
日向坂と言えば、思春期の甘酸っぱさを可愛らしく歌ってきました。
打って変わって『ってか』では「見かけじゃなく内面を愛してほしい」という想いがエモーショナルに表現されています。
作詞は、総合プロデューサーの秋元康。作曲は、浦島健太と加藤優希です。作曲チームはANFiNYの『SAKURA』や、遊介の『マジ歌』でもタッグを組んでいます。
特に浦島は、坂道グループやAKBグループに数多く楽曲提供しており、日向坂46の1stアルバムに収録された『アザトカワイイ』やAKB48の『根も葉もRumor』など話題作を手掛けてきました。
『ってか』では、ストーリー仕立てのMVが注目を集めています。
監督を務めた新宮良平は、MVやCMを中心に手掛ける映像ディレクター。安室奈美恵『Hero』ONE OK ROCK『Cry out』、SEKAI NO OWARI『LOVE SONG』など、様々な人気アーティストのMVを手掛けてきました。
また、欅坂46の楽曲では『不協和音』や『黒い羊』をはじめとした7作のMVを制作。
2020年には、平手友梨奈の1stシングル『ダンスの理由』のMVも手掛け、大反響を呼びました。
『ってか』のMVは、日向坂メンバーが巨大な竜巻のソフトクリームと闘うという斬新な内容となっています。
ポップな世界観とどこか影も感じさせる映像美が融合し、日向坂の友情と決意の深さが見事に表現されています。
2021年11月25日に東京都内で行われたイベント「MTV VMAJ 2021 -THE LIVE-」では、本作が「最優秀アートディレクションビデオ賞(Best Art Direction Video)」を受賞しています。
では、歌詞の内容を辿りながら『ってか』の魅力に迫っていきましょう。
アイドル界に一石を投じた「ってか」
----------------冒頭のサビには、この楽曲の全てが凝縮されています。この2フレーズだけで、気圧される勢いを感じさせます。
可愛いから好きになったなんて
全然 ピンと来ないのよ
もっと内面を見て欲しい
ってか 嬉しくない
≪ってか 歌詞より抜粋≫
----------------
アイドルにとって「外見の可愛さ」は、人気を得る上でとても重要なポイントですよね。しかし、その大前提を「ってか嬉しくない」とバッサリ切ってしまうことで、楽曲に凄まじいインパクトを与えています。
----------------今作で初センターを務めたのは、二期生の金村美玖です。
ちやほやされることに
喜んでいられるほど
もう若くはないのかなあ
バカにされてるみたいで・・・
≪ってか 歌詞より抜粋≫
----------------
彼女の落ち着いた佇まいと歌声は、歌詞にさらなる説得力を持たせています。
そして、日向坂の最強シンメ、齋藤京子と加藤史帆が持ち前の低音ボイスで金村に続きます。上辺だけの「可愛い」に辟易した、主人公の「芯の強さ」を感じさせる部分です。
MVの冒頭を飾るフロントメンバーの圧巻のダンスは、「可愛い」よりも「美しい」という形容詞が似合います。
そして次々に登場するメンバーが、華麗なフォーメーションダンスを披露しながら大きなソフトクリームの竜巻に向かっていきます。
大きく移動しながらも一糸乱れぬ美しいダンスを繰り広げ、日向坂全体のレベルの高さを見せつけました。
日向坂が問う「私らしさ」
----------------MVでは、メンバーが竜巻に立ち向かうも跳ね返されてしまい、金村の意識だけが異世界へと飛ばされてしまいます。
心にもない言葉で
声を掛けて来るけど(オーオーオーオー)
恋をゲームのように競っても
トロフィーにはなれない(オーオーオーオー)
少しずつ わかり合って
お互いのこと信じ合えたら
本当の愛の意味だって
何となくわかるでしょ?
≪ってか 歌詞より抜粋≫
----------------
その先で彼女が見つけたのは「Tír na nÓg(ティル・ナ・ノーグ)」と「Tír Tairngire(ティル・ターンゲリ)」の文字が刻まれた立て看板でした。
この2つの言葉はアイルランドの神話に由来しています。
「ティル・ナ・ノーグ」とはアイルランドの神話に登場する土地で、戦いに敗れたダーナの神々が作った楽園とされています。そこでは一切歳を取らず、争いも不安もありません。
尽きることのない食料や酒があり、人々が幸せに暮らすことのできる、まさに”楽園”です。
一方の「ティル・ターンゲリ」は「約束の地」とも言われおり、このMVでは日向坂が闘っている現実世界を指すのでしょう。
これらの看板を見た金村は「ティル・ナ・ノーグ」の方へ足を踏み入れてしまいます。
----------------2番のサビからは、相反する2つの感情が見て取れます。
可愛いから好きになったなんて
喜ぶとでも思ってるの?
他の誰かには絶対にない
そんな魅力とか見つけて
目移りできない私らしさ
それが何なのか知りたい
いつも不安げな自分が嫌い
ってか どこが好きなの?
≪ってか 歌詞より抜粋≫
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ルックスだけで好意を寄せられることには、毅然とした態度を取る主人公。しかし、その裏には自分に対する自身の無さや不安が付きまとっていました。
「私らしさ」とは何なのか、即答できない自分自身にイラついているようにも捉えられます。
2019年に「日向坂46」として新しく生まれ変わり、今や快進撃を続ける彼女たち。
しかし、元々は長濱ねるをデビューさせるために結成された「けやき坂46」として活動していました。
その後、長濱が「欅坂46」の専任になったことでグループの存続が危ぶまれた時期もありましたが、なんとか自分達だけの魅力を見出そうと必死に個性を追い求めてきました。
『ってか』に込められているのは、けやき坂時代に彼女たちが反芻してきた想いではないでしょうか。
アイドルとして自分に自信が持てず苦悩した日々が、堂々と輝く今の日向坂46へと繋がっています。
この歌詞は、自分に近寄ってくる男性への問いかけというスタンスですが、実は「アイドルとしての存在意義」に対する自身への問いかけなのかもしれません。
日向坂とおひさまの信頼関係
----------------ここまでの歌詞を経て見ると、こちらの歌詞はファンに向けた言葉でしょう。
広い世界で私を選んだ理由
どうしてなのか不思議に思う
自信ない私を叱ってよ・・・
≪ってか 歌詞より抜粋≫
----------------
芸能界という広い世界の中で、自分達を選び応援してくれている人がいる。
その事実は、常に日向坂の支えとなっていたに違いありません。
「自信ない私を 叱ってよ」という歌詞が物語るのは、メンバーとファンの信頼関係や、応援に応えたいという熱い想いではないでしょうか。
MVでは、あまりにも巨大な敵に対し長引く闘いに疲弊するメンバーが映し出されます。
対照的に、もう一方の世界では楽園に足を踏み入れた金村が美しく舞い踊ります。
しかし、そこは偽りの世界で、彼女はいつの間にか得体の知れない敵に囲まれてしまいます。
そこへ手を差し伸べる齋藤と加藤が現れ、金村は再び元の世界へと戻ってくることができたのでした。
グループを引っ張ってきた一期生が、二期生のセンターを支えることで「日向坂46」がさらに大きく飛躍しようとしていることが伝わってきます。
----------------大サビでは転調し、再び1番のサビと同じ歌詞が歌われます。
可愛いさを求めてるだけなら
私じゃなくてもいいんじゃない?
同じものを見て感動できる同じ価値観が欲しい
ルックスから好きになるタイプは
他の誰かでもいいってこと
もっと私を知ってくれなきゃ
ってか 付き合えない
≪ってか 歌詞より抜粋≫
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全体を通して聞いてみると、同じ歌詞でも不思議と異なるメッセージも浮かび上がってきます。
特に「同じものを見て感動できる 同じ価値観が欲しい」というフレーズを読み解くと、同じ価値観を共有できる”日向坂”や”おひさま”となら、どんなことでも乗り越えられるとも捉えられます。
『ってか』は、それぞれのキャラクターやパフォーマンスも含めて愛されるようなアイドルになりたいという、一種の”決意表明”を描いた楽曲なのかもしれません。
グループの強固な絆を表現
MVの最後には、現在休養中の小坂菜緒を彷彿とさせる「トリケラトプス」の人形が登場します。そして手を取り合い、次なる敵「キャロットモンスター」に立ち向かう日向坂の背中を映し出したカットで締めくくられます。
日向坂46は1人も欠けることなく、これからも挑戦し続けるという強い意志が伝わってきました。
『ってか』を通して、まったく新しい日向坂を知ることができました。
知れば知るほど応援したくなるグループですね。
昨年に引き続き、2年連続となる紅白歌合戦への出場も発表されました。
彼女たちのさらなる活躍に期待しましょう。