TBS系ドラマ「持続可能な恋ですか?」主題歌
小説を音楽にする人気ユニット・YOASOBIのボーカルとしても活躍中のシンガーソングライター・幾田りら。
2022年6月14日に配信リリースされた楽曲『レンズ』は、TBS系火曜ドラマ『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』の主題歌です。
また、有名アーティストが一発撮りで歌を届ける『THE FIRST TAKE』でも歌唱され、iTunesソングランキングでは1位を獲得しました。
作詞作曲を手がけた幾田りらは、「大切な人が写った写真に投影されている想いを一枚一枚拾い集めるように曲を書き上げた」という旨のコメントを残しています。
今回は、そんな想いの詰まったバラード『レンズ』の歌詞考察です。
写真の中の「貴方」
まずは1番の歌詞から見ていきましょう。
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一人歩く
帰り道の途中
イヤホンから伝うこの歌は
二人だけの
夕映えに貴方が
教えてくれた小さな幸せ
見返す写真には少し見切れた
後ろ姿の貴方が写っている
≪レンズ 歌詞より抜粋≫
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一人、音楽を聴きながら帰宅途中の主人公。
聴いている曲を教えてくれた「貴方」というのは、主人公が想いを寄せている相手だと思われます。
何かのきっかけで好きな人と二人きりになり、夕映えの中その曲の話をした思い出が主人公にとって「小さな幸せ」だったようです。
ただ、「見返す写真には少し見切れた 後ろ姿の貴方」というフレーズから、一緒に写真を撮るほど親密な関係ではないことが推測できます。
あるいは近くにいるのに「一緒に写真撮ろうよ」と言えないシャイな一面が主人公にはあるのかもしれません。
どちらにしても、主人公は「貴方」に片想いしているようですね。
「一人」で歩く帰り道と「二人」で過ごした時間との対比が、切ない片想いを強調しているようにも思えます。
続いてサビの歌詞です。
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かざしたレンズのその先に
ただ貴方がそこにいれば
華やいでいく心がここにあって
未だに私を離さない
≪レンズ 歌詞より抜粋≫
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ここでの「かざしたレンズ」は、普通のカメラではなくスマホのカメラを表していると考えられます。
スマホで見返す写真の中に「貴方」がいるだけで気持ちが明るくなる主人公は、すっかり恋心にとらわれてしまっているみたいです。
ピントが合うのは恋の始まり
次は2番の歌詞を見ていきます。
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一人きりの
まだ少し冷えるベッドで
何度も寝返りを打つ
二人はいつ
同じだけの想い
一つの写真に重ねれるの?
隣にいれば温かい心も
夜が来る度 また冷めていくの
≪レンズ 歌詞より抜粋≫
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一人「ベッドで 何度も寝返りを打つ」主人公。
「まだ少し冷えるベッド」という言葉からは、寝る前のベッドで寂しくスマホをいじっている情景がイメージできます。
おそらく大好きな「貴方」が写り込んだ写真を見返しているのでしょう。
ただ、たくさんある写真の中に「貴方」と二人きりで撮れた写真はないようです。
主人公の思いは「二人はいつ 同じだけの想い 一つの写真に重ねれるの?」。
好きな人ともっと親密になって同じ写真の中で笑いたいというピュアな思いが伝わってきますね。
大好きな「貴方」と一緒にいたら温まり、離れて夜になると冷めていく心。
ベッドが「少し冷える」のは、寝る前というタイミングのせいだけではないようです。
1番と同様、「一人」きりのベッドと「二人」きりになれない現状とが対比され、切なさが際立って見えますね。
続いてサビの歌詞です。
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私の瞳もいつからか
ただ一人貴方だけに
どんなに遠く小さく片隅でも
ピントを合わせてしまう
≪レンズ 歌詞より抜粋≫
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これまではスマホカメラの「レンズ」を歌っているようでしたが、ここに来て「私の瞳」へと表現が変わりました。
写真に写り込む「貴方」と現実の視界をよぎる「貴方」。
カメラとは異なり、自身の「瞳」であれば視界の片隅の「貴方」にすぐピントを合わせることができます。
いつからか自然に、無意識に「ピントを合わせてしまう」ようになったことが、主人公の恋の始まりだったのでしょう。
記憶と記録に残したい「貴方」
ここからは終盤の歌詞を見ていきます。
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だらしなく揺れる背中さえも
振り向いてみせる笑顔も
一つも溢さずに焼き付けていたいよ
≪レンズ 歌詞より抜粋≫
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「だらしなく“揺れる”背中」や「“振り向いて”みせる笑顔」。
写真では捉えられない「動き」が描写されています。
おそらく写真の中ではなく現実で見ている「貴方」の仕草を表しているのでしょう。
主人公は、そんな愛おしい映像の1つ1つを目に焼き付けていたいのですね。
切なさが極まってきたところで、最後のサビに入ります。
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かざしたレンズの真ん中に
ただ貴方を映していたい
おぼつかない手つきでも精一杯
その姿を捉えて
貴方が瞳の真ん中に
映すのは誰なのかな?
いつか二人寄り添い笑う日々が
アルバムを彩れるように
≪レンズ 歌詞より抜粋≫
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2行目は「写す」でなく「映す」という表記です。
よってここでの「レンズ」は、動く彼を遠くから見ている主人公の「瞳の奥のレンズ」を表していると考えられます。
「おぼつかない手つきで」カメラのレンズを向けるように、内気な自分の「瞳」で彼の姿を捉えていたいという気持ちのようです。
主人公は、ただ遠くから好きな人を見ているだけでも幸せな気持ちになれるのかもしれません。
とはいえ、やはり心のどこかで「もっと近くにいたい」と思うのが好きな人に対する本音なのでしょう。
続く「貴方が瞳の真ん中に 映すのは誰なのかな?」は、「今の貴方が誰を想っているのか」や「私のことをどう思っているのか」など、恋愛に付き物の疑問や不安を表しているのではないでしょうか。
そして締めは「いつか二人寄り添い笑う日々が アルバムを彩れるように」。
この「アルバム」という言葉には「写真を保存するアルバム」という文字通りの意味のほか、「思い出を残しておく記憶」という比喩的な意味も込められていそうです。
きっと主人公は好きな人の「瞳の真ん中」で、二人だけの思い出を重ねていきたいのでしょうね。
瞳の奥の「レンズ」で、お互いがお互いにピントを合わせている(=見つめ合っている)状態こそ主人公にとっての大きな幸せなのかもしれません。
いつかこの恋が成就し、大好きな「貴方」とのツーショットも増え、幸せいっぱいな思い出が記憶にも記録にも積み重なっていくといいですね。
互いの「レンズ」の真ん中へ
今回は、幾田りら『レンズ』の歌詞の意味を考察しました。なかなか距離を縮められない相手と「いつか一緒になりたい」と願う、淡く切ないラブソングでしたね。
なかでも写真をスクロールしながら恋に悩む描写は、今どきの片想いを的確に切り取ったような情景だったと思います。
今まさに好きな人がいる人や誰かに片想いしている人にとっては非常に染みる歌詞だったのではないでしょうか。
物語の結末は定かではないですが、互いの「レンズ」の真ん中に互いを映し合える未来が待っていたら素敵ですね。