17歳の椎名林檎が綴った名バラードの意味に迫る
椎名林檎作詞作曲で2000年1月26日にリリースされた5枚目のシングル曲『ギブス』。
2ndアルバム『勝訴ストリップ』からの先行シングル表題曲であり、初のバラード曲として話題となりました。
この楽曲は椎名林檎自身のことを歌ったもので、デビュー前の17歳当時の交際相手に宛てたラブソングとして綴られています。
ファンの間でも評価の高い人気曲の歌詞の意味を解説していきましょう。
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あなたはすぐに
写真を撮りたがる
あたしは何時も
其れを厭がるの
だって
写真になっちゃえば
あたしが
古くなるじゃない
≪ギブス 歌詞より抜粋≫
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「あなた」と呼ばれる恋人は「すぐに写真を撮りたがる」人物のようです。
大好きな彼女の様々な表情や2人での思い出を多く切り取りたいという気持ちが強い人なのかもしれません。
しかし、反対に「何時も其れを厭がる」主人公。
その理由を「写真になっちゃえばあたしが古くなるじゃない」と語っています。
現像された写真は思い出が手元に残る一方で、時間が経てば写真自体が古くなり色褪せていってしまうものです。
写真が古くなると同時に、そこに映る自分自身も古くなってしまうように感じるのでしょう。
その考えの裏には、愛する人には色褪せてしまう過去の自分ではなく、常に今目の前にいる自分自身を見てほしいという想いが込められているように思えます。
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あなたはすぐに
絶対などと云う
あたしは何時も
其れを厭がるの
だって
冷めてしまっちゃえば
其れすら
嘘になるじゃない
≪ギブス 歌詞より抜粋≫
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主人公の次の不満は、彼がすぐに「絶対」という言葉を使うことです。
たとえば“君への想いは絶対に変わらない”というような発言を気軽に口にしているのでしょう。
それほど愛情が大きいとも解釈できますが、主人公の見方は違うようです。
「絶対」と言い切った瞬間は本気で思っているとしても、やがて気持ちが冷めればその発言も嘘になってしまうから、軽々しく言ってほしくないと思っています。
女性側の冷静で大人びた考えと、今の熱がいつか冷めてしまうかもしれない不安が垣間見えますね。
「i 罠 B wiθ U」の解釈とは?
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don't U θink?
i 罠 B wi θ U
此処に居て
ずっとずっとずっと
明日のことは判らない
だからぎゅっと
していてね
ぎゅっとしていてね
ダーリン
≪ギブス 歌詞より抜粋≫
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静かなAメロとは打って変わってノイズ混じりのギターが激しく鳴るサビ冒頭では、英語が文字化けしたフレーズが印象的です。
「don't U θink?」は「Don’t you think?」のことで、意味は「そう思わない?」となります。
また「i 罠 B wiθ U」は「I wanna be with you」となるので「一緒にいたい」と告げていることが分かります。
ここまでの歌詞で、主人公は彼の言動を嫌がっている理由を挙げました。
そのうちの「写真」は過去を、「絶対」という口癖は未来を表していると考察できます。
色褪せる過去ばかり大切にしていても意味がないし、不確かな未来に期待していても仕方ない。
「そう思わない?」とどこか夢見がちな彼に問いかけている様子と捉えられます。
それから自分はただ、今「一緒にいたい」と思っていることを告白していると思われます。
「明日のことは判らない」けれど今この瞬間の気持ちは紛れもなく本物だから、過去でも未来でもなく現在の想いを告げているのではないでしょうか。
「wanna」が「罠」と表記されているところが、抗えない恋の力を示しているようで秀逸ですよね。
繰り返される「ずっと」という言葉は先の未来を見ているイメージがありますが、ここでは彼と一緒にいられる“現在”が積み重なって続いていく様子を思い描いていると解釈できそうです。
決して彼ほど愛がないわけではなく、主人公なりの示し方で彼を深く愛していることが伝わってきます。
そして甘えるように「ぎゅっとしていてねダーリン」と伝えるところは、17歳の女の子らしい一面と言えるでしょう。
歌詞の中にはタイトルの「ギブス」というフレーズは出てきませんが、恋人との密接な関係や束縛をギブスの拘束感に例えたと思われます。
さらにギブスが傷を負った弱い部分を保護していることを考えると、この恋の終わりを想像して不安になる自分を強く抱きしめて安心させてほしいという願いも込められているのかもしれません。
昨日のことは忘れてぎゅっとしていてね
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あなたはすぐに
いじけて見せたがる
あたしは何時も
其れを喜ぶの
だって
カートみたいだから
あたしが
コートニーじゃない
≪ギブス 歌詞より抜粋≫
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主人公はすぐにいじけて見せる彼を見て喜んでいます。
「いじけて見せたがる」とあるので、彼はそう振る舞うことで彼女の気を引こうとしているとも考えられますね。
そのように自分のペースで生きる彼が弱い部分を見せていることや、自分の気を引くためにいじらしく行動していることを喜んでいるようです。
後半に出てくる「カート」と「コートニー」とは、アメリカのバンド「ニルヴァーナ」のボーカルであるカート・コバーンと妻のコートニー・ラヴのこと。
当時の交際相手がニルヴァーナファンであったことから登場した表現だそうで、彼にとって身近な恋人関係に自分たちを重ねたのでしょう。
恋人の好きなアーティストを引き合いに出すことで、彼への想いの強さを示しているようにも取れます。
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don't U θink?
i 罠 B wi θ U
傍に来て
もっともっともっと
昨日のことは
忘れちゃおう
そして
ぎゅっとしていてね
ぎゅっとしていてね
ダーリン
また四月が来たよ
同じ日のことを
思い出して
≪ギブス 歌詞より抜粋≫
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2番のサビでは「昨日のことは忘れちゃおう」と告げています。
昨日自分たちがした喧嘩のことかもしれませんし、何かトラブルに巻き込まれたのかもしれません。
正しい意味は不明ですが、問題が起きても恋人との関係を前向きな気持ちで見ていることは伝わってきますね。
そして「また四月が来たよ 同じ日のことを思い出して」とも歌われています。
これはおそらく交際記念日のように、2人にとっての大切な記念日のことだと考えられます。
「同じ日」を更新していく記念日は、まさに現在を心に刻む日と言えるでしょう。
今年の4月も一緒にいられたのだから、過去の嫌なことは忘れてまた同じ日を迎えられるように、今抱きしめ合ってお互いの存在を確かめ合おうと言っているように感じます。
椎名林檎の魅力が詰まったラブソング!
『ギブス』はいつまでも色褪せないメロディと椎名林檎らしい歌詞表現で少女の強い感情をストレートに伝えています。好きだからこそ募る切なさや不安は、どの時代の恋人たちも共感できるでしょう。
人気歌手・椎名林檎の原点が垣間見える、令和の若者にもぜひ聴いてほしいおすすめの作品です。