宮部みゆき×YOASOBIによる楽曲「セブンティーン」を徹底解釈!
日本を代表する4人の直木賞作家と“小説を音楽にするユニット”YOASOBIによるプロジェクト「はじめての」。第4弾として配信リリースされた楽曲『セブンティーン』の原作小説は、宮部みゆき著『色違いのトランプ』です。
「はじめて容疑者になったときに読む物語」をテーマに、平行世界で起きたテロ事件の関与を疑われて捕われた愛娘を救うため、父親が単身でもう一つの世界へ向かうというストーリーとなっています。
小説では父親の宗一が主人公ですが、『セブンティーン』の主人公は17歳の娘・夏穂です。
どのような想いを抱えているのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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鏡写しかのような
瓜二つの世界に
それぞれ生まれた二人の私
在るべき場所が違ったか
神様が間違ったか
同じ姿形中身は真反対
違和感はどうやら
ずっと前に育ってた
パパもママも大事に思ってる
だけど私はどうやら
此処じゃ私じゃないから
赤は赤に黒は黒に戻るの
≪セブンティーン 歌詞より抜粋≫
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平行世界は「鏡写しかのような瓜二つの世界」で、片方の世界に住んでいる人は「同じ姿形」をしてもう一方の世界にも存在します。
それぞれの世界にいる「二人の私」は、外見は同じでも「中身は真反対」です。
別の世界に生きているため性格が異なるだけなら問題はないはずですが、主人公は自分自身と世界とのミスマッチにずっと違和感を抱いていました。
なぜならこちらの日本はいたって平和で、どこにでもいるような平凡な両親の元に生まれたのに彼女は正義感が強く行動力にあふれていたからです。
一方であちらの日本はテロ事件の絶えない不安定な状況で、そこに住む両親は正義感の強い活動家。
このことを知ると「在るべき場所が違ったか 神様が間違ったか」と感じても仕方ないかもしれません。
こちらの両親のことを「大事に思ってる」という気持ちも本音ですが、「私はどうやら此処じゃ私じゃない」と感じています。
「赤は赤に黒は黒に戻るの」というフレーズで示されるのはトランプです。
赤と黒の“色違いのトランプ”が同じようでいて決して交わらないように、「二人の私」も本当に在るべき場所があると考えています。
これはバッドエンドなんかじゃない
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次元を隔てた向こう側の世界じゃ
今日だって残酷な悪魔が鳴いている
あっちの私は怖がりで泣き虫なの
見て見ぬ振りできないから
≪セブンティーン 歌詞より抜粋≫
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自分と真反対の「あっちの私は怖がりで泣き虫」です。
そのため、あちらの世界の争いの絶えない日々に苦悩している様子が見て取れます。
きっとこちらの世界で生きていたら、もっと心穏やかに楽しく生きられていたことでしょう。
それで正義感の強い主人公らしく「見て見ぬ振りできないから」行動を起こします。
自分の居心地の良さのためではなく「あっちの私」のために行動しようとしているところに、主人公の熱く優しい人柄が見えてきますね。
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これじゃハッピーエンドとはいかない
それじゃ救いに行くね世界
こんな乱暴な私を許して
きっとやり遂げるから
これはバッドエンドなんかじゃない
どこに居たとしても私は
そう世界で一人のオリジナル
誇らしく思ってくれたら嬉しいな
≪セブンティーン 歌詞より抜粋≫
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「それじゃ救いに行くね世界」と軽く発せられた一言には、きっと想像もつかないような葛藤や覚悟が詰まっているのでしょう。
両親からすれば自分の行動は「バッドエンド」だと分かってはいますが、彼女にとっては元に戻そうとしているだけなので「バッドエンドなんかじゃない」と主張します。
「どこに居たとしても私は そう世界で一人のオリジナル」のフレーズから、自分は世界で一人のかけがえのない存在だという想いが感じられます。
サビの最後にある「誇らしく思ってくれたら嬉しいな」は両親への言葉ですが、並行世界で苦しんで生きてきた「あっちの私」への言葉でもあると考察しました。
あなたも「世界でひとりのオリジナル」だから自分に自信を持って生きてほしいという応援の気持ちだと解釈できます。
現実でも自分の居場所がどこにもないと感じる人は少なくないのではないでしょうか。
しかし誰もがかけがえのない存在なのだから、自分自身を愛し大切にしようというメッセージがここに込められているように思えます。
あなたの娘として誇らしく生きるよ
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境界の線で切り分けたこちら側の世界じゃ
今日だって呑気な天使があくびする
気付いてしまった悪は見逃せないから
帰り道を交換しよう
私が希望になるの
お別れは少し寂しいけれど
いつか目尻に作った傷も
理不尽に立ち向かった証だから
≪セブンティーン 歌詞より抜粋≫
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こちらの世界は呑気なもので、あちらの世界の現状とのギャップに衝撃を受けます。
自分の生きる世界はこちらだからと見て見ぬふりをすることもできたはずですが、主人公は「気付いてしまった悪は見逃せない」性格です。
そして「帰り道を交換しよう」、つまり「二人の私」を入れ替えることを画策します。
「私が希望になるの」という言葉には、あちらの世界を救えるのは自分しかいないという確信が表れていますよね。
過去に負った傷は「理不尽に立ち向かった証だから」、悪と対峙することに恐れの気持ちはありません。
こちらの両親との別れは寂しいものの、在るべき場所に戻って世界を救うのだという堅い決意が彼女を突き動かしています。
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いつかハッピーエンドになるまで
世界を相手に戦うの
こんな乱暴な私をずっと
愛してくれてありがとう
これはバッドエンドなんかじゃない
どこに居たとしても私は
あなたの唯一無二のオリジナル
誇らしく生きるよ
さあ在るべき場所に帰ろう
さよならを告げたセブンティーン
≪セブンティーン 歌詞より抜粋≫
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いつかこの結末が誰の目にも「ハッピーエンド」に映るその時まで「世界を相手に戦う」と、強い意志を見せています。
平凡で穏やかな両親とは違う「こんな乱暴な私をずっと愛してくれてありがとう」という感謝の言葉に、両親への愛情が込められていますね。
あちらの世界に行っても自分は「あなたの唯一無二のオリジナル」。
この別れで親子の絆まで失われてしまうわけではないから、いつまでもあなたの娘として「誇らしく生きるよ」と伝えているのが感動的です。
これまで生きてきた世界と愛し育ててくれた両親に別れを告げ、並行世界の危機を救うために立ち上がる17歳の少女の勇ましい姿が目に浮かびます。
原作小説「色違いのトランプ」とMVを要チェック!
YOASOBIの『セブンティーン』は、自分自身の存在を肯定し思い描くハッピーエンドを目指して行動することの尊さを教えてくれる楽曲です。YouTubeで公開されているMVは、原作小説と歌詞のストーリーに基づいた見応えのあるアニメーション作品となっています。
ぜひ原作小説『色違いのトランプ』とMVも合わせてチェックして、宮部みゆきとYOASOBIが作り上げた奥深い世界に浸ってください。