揺れる恋愛思考と夜の逃避行
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行き詰まって、時が経った
ここがどこかさえ、どうも分からないけれど
ありふれた夜の真ん中で逃避行
行き止まって、最後 繰り返した夢の方を
≪フライデー・ナイト 歌詞より抜粋≫
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『フライデー・ナイト』は、現実から逃れようと金曜の夜に街へ繰り出すシーンから始まります。
お酒も入っているのか、緩やかな雰囲気の中で物思いにふけっています。
あてもなく彷徨い歩く主人公は、もはや自分の現在地も分からなくなってしまいました。
ここで登場する「夢」とは、パートナーと過ごした時間を指すのではないでしょうか。
また「行き止まって 最後 繰り返した」に掛かっているので、2人の関係性が行き詰まっていることを示唆しているのかもしれません。
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どうしようもない どうせ、変わりはしない
何が起きたって関係ない
飽きたら、捨てるだけ
≪フライデー・ナイト 歌詞より抜粋≫
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パートナーとの関係がさらに深まる可能性に全く期待を持てない様子の主人公。
「飽きたら 捨てるだけ」というフレーズから、これまでも同じような恋愛の仕方しかしてこなかったことがうかがえます。
対照的な歌詞から導きだす本音
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安っぽいラブソングはいらない
てんで、つまらない 明日には、忘れたい
不恰好な愛で夜を明かしたい
全部、君次第なんだ それで、よかった
≪フライデー・ナイト 歌詞より抜粋≫
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「安っぽいラブソング」から感じ取れるのは、間接的かつありきたりな愛情表現であるということです。
また、下手をすると相手に対する好意よりも、素敵に見られたいという自意識を強く感じさせかねません。
主人公は、不格好でもいいから飾らない素直な愛情を欲しているのでしょう。
最後のフレーズからは「君」と過ごす時間ならば、どんなことでも楽しめるのにという想いも感じられます。
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過剰も不足もないはずなのに
なんか、要らないし なんか、足りない
忘れてしまおうぜ
≪フライデー・ナイト 歌詞より抜粋≫
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この歌詞には、対照的な意味合いの言葉が並びます。
「過剰も不足もない」ということは、可もなく不可もなくとも読み取れます。
それなのに「なんか 要らないし なんか 足りない」と続き、欲求不満な様子が見て取れます。
不満は特に無いのに、どこか満たされないという矛盾。
この引っかかりこそ、実は無意識に大事にしていた価値基準なのではないでしょうか。
そのことに気づいているのか、あえて目を背けているのかは本人にしかわかりません。
とろけるサビの味わい深さ
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馬鹿みたいに、愛し合って
さよなら、フライデー・ナイト
取るに足らないものに
いつまでも、縋り付いている
≪フライデー・ナイト 歌詞より抜粋≫
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サビには、時間が溶けていくような味わい深さがあります。
「さよなら、フライデー・ナイト」と口にしつつも、また似通った夜が訪れることを心のどこかで分かっているのでしょう。
そして、その思いは「君」に対しての感情とも重なります。
これっきりと思う反面、またどこかで巡り合うことを期待しているようにも思えるのです。
どうでも良いと自分に言い聞かせながら、結局「君」を手放せない主人公。
自由奔放なキャラクターであるが故、1人の人に心底惚れてしまったことを認めたくないのかもしれません。
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それが何だ、早く注いでよ
グラスにブランデー、なぁ
取るに足らないものは
いつまでも、すぐそばにある
≪フライデー・ナイト 歌詞より抜粋≫
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この部分では、楽曲の情景がメロウな雰囲気で描写されています。
あくまで憶測ですが、ここで登場する「グラス」はブランデーグラスのような特別な仕様よりも、何の変哲もないただのグラスが相応しいように感じました。
お酒を飲むためだけの用途で登場するこの「グラス」が、主人公の言う”取るに足らないもの”として実に具体的に表されているからです。
また「それがなんだ」という歌詞は、その前の「取るに足らないものに」を打ち消していると同時に、なんでもいいからお酒を早く注いでくれという意味にも捉えられます。
投げやりな雰囲気に混じって零れる僅かな本音が、『フライデー・ナイト』の根底に隠されたメッセージなのかもしれません。
「特別な夜」とリアルな心理描写
今回は『フライデー・ナイト』の歌詞を辿りながら、楽曲に描かれている情景を考察しました。一筋縄ではいかないけれど、何故か惹きまれてしまう主人公がとても印象的なこの楽曲。
一見、他者への関心がないように見えますが、実は一番大切な物を理解して手放せずにいるというギャップを抱えていました。
一週間から解放される「金曜日の夜」だからこそ、いつもと違った表情が出てくるのかもしれません。
ぜひ『フライデー・ナイト』を聴きながら、特別な夜を過ごしてみてはいかがでしょうか。