東京スカパラダイスオーケストラとSaucy Dog・石原慎也のコラボ楽曲
ジャマイカ生まれの「スカ」をベースに、あらゆる音楽を独自に消化し「トーキョースカ」という新しいスタイルを築き上げた東京スカパラダイスオーケストラ。スカパラの愛称で知られるインストゥルメンタルバンドでありながら、ゲストボーカルを迎えた「歌モノ」でも話題が尽きない大人気バンドです。
稀代のシンガー・宮本浩次や [Alexandros] の川上洋平など、スカパラはこれまで多くのアーティストとコラボして数々の名曲を生み出してきました。
今回考察する『紋白蝶』は、『シンデレラボーイ』などで有名な Saucy Dog の石原慎也をゲストボーカルに迎えた1曲。
2022年11月7日に配信リリースされた、“サウシー” ファンの間でも非常に人気の高い楽曲です。
作詞を手がけたのはスカパラのサックス・谷中敦。
石原慎也はボーカルに加え、学生時代に鍛え上げたチューバも担当しました。
おしゃれな歌詞でまっすぐな片想いが表現された『紋白蝶』。
果たしてその歌詞には、どのようなドラマが見出せるのでしょうか。
恋に生きる主人公の恋愛観
まずは冒頭の歌詞から見ていきましょう。
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差し伸べられて
宙に浮いた手
無疵じゃないね
ぼくとおなじだ
≪紋白蝶 feat. 石原慎也 (Saucy Dog) 歌詞より抜粋≫
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「差し伸べられて 宙(そら)に浮いた手」は、主人公「ぼく」が今まさに告白されている瞬間を表していると推察できます。
差し出された手を見て、相手が自分と同じで「無疵(むきず)じゃない」と悟った様子の主人公。
後の歌詞からは、主人公「ぼく」には今追いかけている別の好きな人がいることが読み取れます。
片想いが実らないことのつらさを分かっているからこそ、目の前で告白してくれた人を振るのも心苦しい。
そんな優しくも芯のある主人公ですが、『紋白蝶』の物語は、どうやら好きな人のために誰かを振ることから始まったようです。
それでは1番の歌詞に入っていきましょう。
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渋谷の交差点が 青色になってわかった
みんな真っ直ぐ歩いたら ぶつかってしまうみたいだ
ときめき、ゆらゆらと探す 蝶々たちには
あわただしい世界は見えていない
起きてるようで 本当はみんな寝てるのさ
こっそり起きだしていいことしよう
誰も見てない
≪紋白蝶 feat. 石原慎也 (Saucy Dog) 歌詞より抜粋≫
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「渋谷の交差点を練り歩く人々」と「ゆらゆら宙を舞う蝶々」が対比されていますね。
作詞を手がけた谷中敦は、成虫としての2週間の命を恋愛に費やす(=メスを追いかける)モンシロチョウのオスを尊く思い、恋愛にまっすぐな男の子に重ねたのだとか。
ぶつかることを避けて忙しく歩き去る人々は、ピュアな気持ちを忘れて眠っているようなもの。
一方の主人公は、ときめきを求めて飛び回る蝶のように恋に正直に生きるつもりのようです。
誰もが眠るあわただしい世界では、自分たちを気にする目もありません。
続くサビでも、恋にまっすぐな主人公の思いが綴られます。
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渋谷の交差点が 青色になってわかった
みんな真っ直ぐ歩いたら ぶつかってしまうみたいだ
ときめき、ゆらゆらと探す 蝶々たちには
あわただしい世界は見えていない
起きてるようで 本当はみんな寝てるのさ
こっそり起きだしていいことしよう
誰も見てない
≪紋白蝶 feat. 石原慎也 (Saucy Dog) 歌詞より抜粋≫
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「何だったん?」や「良くあんなこと出来たよね」と思い出せる恋。
後々ネタにして笑えるような、勢いに任せたまっすぐな恋。
そして何より、そんな恋を後々「2人」で笑い合える相手を主人公は望んでいるようですね。
「2人自転車でどこへ帰るの?」には、歩み寄ったスピードより速く自分の居場所へ戻ってしまう、そんな告白後の距離感への不安も読み取れます。
後になって笑える「今しかできないこと」に集中し、不安をかき消すように好きな人にぶつかっていく。
それがきっと主人公の恋愛スタイルなのでしょう。
「信じていいよ シャツ引っ張って」は「いつでも自分を頼ってほしい」という好きな人への願いでしょうか。
続く「怖くもないよ ただの未来だ」は「告白に失敗したって人生は続くのさ」という自分自身への励ましのようにも聴こえますね。
等身大の未来へ、まっすぐに
続いて、2番以降の歌詞を見ていきましょう。
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ある臨界点を超えたら 僕らはギャンブラー
囚われた人たちより一歩先を行く
傷つけられても まだ捕まってるんだね
こっそり抜け出していいことしよう
連れ出すから
≪紋白蝶 feat. 石原慎也 (Saucy Dog) 歌詞より抜粋≫
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「ある臨界点を超えたら僕らはギャンブラー」は、「好きな気持ちがあふれたら誰でも勝負に出る(=アプローチや告白に踏み切る)必要がある」という意味に解釈できそうです。
1番の「あわただしい世界」で眠っている人々が「囚われた人たち」だとすると、「一歩先を行く」というのはキラキラな目をして感情のままに行動することだと考えられます。
そんなひた向きなギャンブラーであれば、一度の恋愛で傷つき「もう恋なんてしない」という思考にとらわれた人さえも解放できてしまいそうです。
もしかすると主人公が惚れたのは恋に臆病な女性なのかもしれません。
それでも「こっそり抜け出していいことしよう」と、主人公は好きな人を連れ出そうと動きます。
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ぼくのとこからじゃないと
この虹は見えないよ
もっとそばに来て 一緒に見ようよ yeah
バランス失ったまま
紋白蝶は離れずに
ずっと一緒に 飛び続けている
惚れたらきっと
片道切符
どこへ行こうか
ぼくらの自由だ
≪紋白蝶 feat. 石原慎也 (Saucy Dog) 歌詞より抜粋≫
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「ぼくのとこからじゃないと この虹は見えないよ」。
「自分と一緒になれば誰よりも幸せになれるのに」といった意味合いでしょうか。
そんな幼げながら強気な言葉を発する主人公ですが、どうやら片想いの現状は変わらない様子。
バランスを失ったまま一緒に飛び続ける「紋白蝶」は、片想いのまま相手を追いかける主人公と、追われている側の女性をたとえたものでしょう。
また「惚れたらきっと片道切符」というフレーズは、一度好きになってしまったらフラットな感情には戻れないという意味に読み取れます。
そしてそれを覚悟したうえでどこへ行くのかは「ぼくらの自由」。
ここでの「ぼくら」は、女に惚れた男全般を指しているとも考えられそうです。
感情の赴くままに惚れた相手にアプローチする「ぼく」。
そんな彼の恋物語も、いよいよ終盤です。
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たった一度の
キスで揺らいだ
きみのこころは
柔らかいね
寄りかかってよ
≪紋白蝶 feat. 石原慎也 (Saucy Dog) 歌詞より抜粋≫
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ここの歌詞からは、なんとびっくり主人公がキスで「きみ」を振り向かせたことがうかがえます。
「きみのこころは柔らかいね」には、男子特有のからかいのニュアンスも読み取れますね。
いずれにせよ、主人公はそれこそ後で「何だったん?」と思い出しそうな大胆なギャンブルに挑んだようです。
そして相手の心が揺らいだ瞬間を逃さず「寄りかかってよ」と誘いかけます。
続く最後のサビはこちらです。
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ぼくのとこからじゃないと
この虹は見えないよ
もっとそばに来て 一緒に見ようよ yeah
何だったん?って恋をしようよ
逃げるつもりもないくらい
迷いもなく 過ち冒して
惚れたらきっと
負けな気がして
分かってたって
きみに勝てない
信じていいよ
シャツ引っ張って
怖くもないよ
ただの未来だ
≪紋白蝶 feat. 石原慎也 (Saucy Dog) 歌詞より抜粋≫
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冒険するように恋をしてきた主人公。
捨て身でアタックする自分のように「一緒に馬鹿やって楽しもう」と呼びかけているように聴こえるサビですね。
理性でどうにかしようにも感情があふれてしまうのが恋愛というもの。
「惚れたら負け」と思いながらも主人公が「きみ」に完敗なのも無理はありません。
とはいえ「きみ」に勝てなくても、主人公は恋にまっすぐな男です。
最後の歌詞は1番と同様ですが、1番以上に自分に喝を入れているような「前に進むしかない!」という気迫が感じられます。
「きみ」との距離が近づいた今、ともに進む未来にはきっと新しい景色が待っていることでしょう。
その景色がどのようなものであれ、2人にとっては「ただの未来」。
低空飛行のモンシロチョウさながら、高く上がるわけでも地に落ちるわけでもない、等身大の未来を「ぼく」と「きみ」が歩んでいけるといいですね。
若者とオトナたちの化学反応
今回は、東京スカパラダイスオーケストラ『紋白蝶 feat. 石原慎也 (Saucy Dog) 』の歌詞の意味を考察しました。恋愛でちょっと冒険したくなるような、おしゃれでまっすぐな歌詞でしたね。
好きな人に一直線な主人公には、それこそ「紋白蝶」のような可愛げがあったように思えます。
一方で「後々こう思える恋がしたい」という未来志向や、「きみのこころは柔らかいね」などのからかうような物言いも印象的でした。
少年のようにピュアでありながら、不意にオトナの顔を見せる『紋白蝶』の主人公。
この魅力的なギャップは、若きボーカル・石原慎也と歴戦の音楽隊・スカパラとの化学反応によってこそ生まれた “味” なのかもしれませんね。
ジャマイカ生まれのスカという音楽を、自ら演奏する楽曲は"トーキョースカ"と称して独自のジャンルを築き上げ、アジア、ヨーロッパ、アメリカ、南米と世界を股にかけ活躍する大所帯スカバンド。 アメリカ最大のフェスティバル”Coachella Music Festival”では日本人バンド初となるメインステージ···