「葬送のフリーレン」OP主題歌は勇者への想いを歌う
2023年9月29日に配信リリースされたYOASOBIの『勇者』は、同日に放送を開始したTVアニメ『葬送のフリーレン』のオープニング主題歌です。『葬送のフリーレン』は勇者とそのパーティーにより魔王が倒された後の世界を舞台に、勇者ヒンメルの死を目の当たりにしたエルフの魔法使い・フリーレンが人の心を知るための旅に出る“後日譚”ファンタジー。
主題歌のために原作者の山田鐘人が書き下ろした楽曲用原作小説『奏送』は、ヒンメルの死後5年後にフリーレンが訪れた音楽があふれる小都市“音楽都市”での一幕を描いた物語となっています。
『勇者』では作品をどのように音楽で演出しているのか、『葬送のフリーレン』のストーリーに触れながら考察していきましょう。
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まるで御伽の話
終わり迎えた証
長過ぎる旅路から
切り出した一節
それはかつてこの地に
影を落とした悪を
討ち取りし勇者との
短い旅の記憶
物語は終わり
勇者は眠りにつく
穏やかな日常を
この地に残して
時の流れは無情に
人を忘れさせる
そこに生きた軌跡も
錆び付いていく
それでも君の
言葉も願いも勇気も
今も確かに私の中で
生きている
≪勇者 歌詞より抜粋≫
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1番では魔王を倒してからフリーレンの新たな旅が始まるまでの様子と彼女の気持ちの変化が綴られています。
御伽話は子どもに語って聞かせるための昔話や伝説のことで、空想的で現実離れした話のことを比喩して使われることが多い表現です。
自分の所属するパーティーが魔王を倒すという驚くべきことを成し遂げたものの、その出来事のあまりの大きさに「まるで御伽の話」と他人事のように感じたようです。
そしてそれは同時に魔王討伐の旅が「終わり迎えた証」でもありました。
エルフの千年を超える人生という「長過ぎる旅路」のほんの一節にすぎない「勇者との短い旅の記憶」が思い起こされます。
時が経ち、魔王を討ち取るほどの力を持った勇者ヒンメルも死の眠りにつきます。
世界に平和が訪れ人々が穏やかな日常を送れているのは彼の功績ですが、時が過ぎればその記憶も薄れていきます。
人々の間では平和であることが当たり前に見なされていて、フリーレンは彼の「生きた軌跡」が朽ちていくのを感じているようです。
しかし世界がどうあれ、彼女の心には彼の「言葉も願いも勇気も」確かに生きています。
新たな旅を通して知りたい人と己の心
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同じ途を選んだ
それだけだったはずなのに
いつの間にかどうして
頬を伝う涙の理由をもっと
知りたいんだ
今更だって
共に歩んだ旅路を辿れば
そこに君は居なくとも
きっと見つけられる
≪勇者 歌詞より抜粋≫
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ヒンメルが亡くなった時、フリーレンは悲しみを感じましたがその理由は分かりませんでした。
魔王討伐という同じ道を選んだだけの人であったはずなのに、いつの間にか彼の死に感情を揺さぶられて涙している自分に気がつきます。
現実ではもう彼はいないため今更遅いかもしれないと思いつつも、これまで「共に歩んだ旅路を辿れば」彼の死を悲しいと思った理由が「きっと見つけられる」と信じて旅に出ることにします。
「頬を伝う涙の理由をもっと知りたいんだ」という真っ直ぐな言葉にフリーレンの想いの強さが表れていますね。
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物語は続く
一人の旅へと発つ
立ち寄る街で出会う
人の記憶の中に残る君は
相も変わらずお人好しで
格好つけてばかりだね
あちらこちらに作ったシンボルは
勝ち取った平和の証
それすら
未来でいつか
私が一人にならないように
あの旅を思い出せるように
残された目印
≪勇者 歌詞より抜粋≫
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人の心を知るための旅を始めたことでフリーレンの「物語」は続いていきます。
その道中で出会う人々はヒンメルとの思い出を語り、フリーレンは彼が「相も変わらずお人好しで格好つけてばかり」だったことを知ります。
そして彼は生前、自分の姿を模した銅像を「シンボル」として世界中に建てていました。
おそらくその銅像は未来で1人生きることになるフリーレンがいつでも仲間との旅と絆を思い出し、孤独を感じなくて済むようにという想いで造られたのでしょう。
フリーレンはこの旅を通して彼の優しさを一層感じることになります。
彼の勇気を私が未来に連れて行く
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まるで御伽の話
終わり迎えた証
私を変えた出会い
百分の一の旅路
君の勇気をいつか
風がさらって
誰の記憶から消えてしまっても
私が未来に連れて行くから
≪勇者 歌詞より抜粋≫
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あの旅は終わってしまいましたが、それは確実にフリーレンを変える出会いとなりました。
彼女の長い生涯のうち、仲間と共にした時間はたったの「百分の一」に過ぎません。
しかしその中で知った人の優しさや仲間と結んだ絆の温かさが、短い旅を濃密なものにし成長するきっかけをくれました。
やがて時が過ぎて、勇者ヒンメルが示した勇気が生きる人々の記憶から完全に消えてしまう日が来るでしょう。
フリーレンは彼の勇気に救われた1人として、長い時間を生き続ける自分だけは彼のことを決して忘れないでいようと心に決めています。
姿形はなくても記憶としてその存在を残し続けることを「未来に連れて行く」と表現しているのが素敵ですね。
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君の手を取った
あの日全て始まった
くだらなくて
思わずふっと笑ってしまうような
ありふれた時間が今も眩しい
知りたいんだ
今更だって
振り返るとそこにはいつでも
優しく微笑みかける
君がいるから
新たな旅の始まりは
君が守り抜いたこの地に
芽吹いた命と共に
≪勇者 歌詞より抜粋≫
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彼の手を取った時、魔王討伐の旅が始まると共に彼女の人生における転機の時も始まりました。
感情の機微に疎いフリーレンでさえ、あの旅を「くだらなくて思わずふっと笑ってしまう」と思い返します。
どれほど時が経っても振り返った記憶の中には「いつでも優しく微笑みかける」彼がいる。
彼が身を挺して守り抜き平和が訪れたからこそ、この世界には新たな命が生まれ健やかに育っています。
そんな尊い命を見守りながら、彼の生き様を胸に新たな旅を始めようとするフリーレンの穏やかな想いが伝わってきます。
物語を繊細に描き出す歌詞に注目!
YOASOBIの『勇者』はフリーレンが勇者ヒンメルの心に触れることで自身の心も成長させていく姿と気持ちが垣間見える楽曲です。Ayaseが生み出す作品のストーリーに寄り添った歌詞とアップテンポながら優しいメロディ、ikuraの透明感のある歌声がフリーレンの人柄と人生そのものを見事に表現しているように感じます。
きっとアニメはもちろん、原作漫画のひとつひとつのストーリーに対する気分を盛り上げてくれますよ。