ゾッとするMVも話題!異色のバレンタインソング
“マイヘア” の愛称で知られる、新潟県出身のスリーピースバンド・My Hair is Bad。『元彼氏として』や『ドラマみたいだ』など、若者の赤裸々な恋愛観をロックに落とし込んだ楽曲でファンを魅了する大人気アーティストです。
今回考察するのは、そんなマイヘアが2024年2月14日にリリースした『悲劇のヒロイン』。
恋人たちが寄り添うバレンタインデーに公開された曲ですが、そのタイトルやMVには物々しくブルーな雰囲気が漂っています。
とりわけMVでは「ある男性に怪しげなクッキーを作る女性」にフォーカスが当てられ、そのおぞましくも切ないストーリー展開や情景描写に多くの考察が飛び交っているようです。
「バレンタイン」と「悲劇」が掛け合わさった異色のラブソング『悲劇のヒロイン』。
その歌詞にはいったいどのような意味があるのか、MVにも触れながらじっくり考察していきましょう。
「私のものだけ取りに行くよ」
まずは1番の歌詞から見ていきます。
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わざと電話したんだよ
きっと君は気まずいと思ってね
心配しなくてもすぐに帰るよ
私のものだけ取りに行くよ
≪悲劇のヒロイン 歌詞より抜粋≫
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対面で話すのは気まずいと思い「わざと電話したんだよ」と語る主人公。
「心配しなくてもすぐに帰るよ」というフレーズからは、すでに関係が冷めきっていて相手からは歓迎されていないことがわかります。
続く「私のものだけ取りに行くよ」の「私のもの」という言葉はラスサビにも登場するので、頭の片隅に残しつつ次の歌詞に入っていきましょう。
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出会ってからもうずっとこのマンション
エレベーターでキスしたの懐かしいね
あぁでもこうやってここにくるのも
これで最後なんだね
≪悲劇のヒロイン 歌詞より抜粋≫
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「私のもの」を取りに、主人公はお馴染みのマンションへとやって来ます。
エレベーターでキスした思い出を懐かしみながら「ここにくるのもこれで最後なんだね」と感慨深く思っている様子です。
これまでは別れを割り切っているように見えた主人公ですが、思い入れの強いマンションに来たせいか、続くサビの歌詞では未練があふれています。
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笑顔でいようって決めてたのに
なぜか涙が出てきて
かっこわるいってわかってるよ
でもインターホンが鳴らせないよ
≪悲劇のヒロイン 歌詞より抜粋≫
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笑顔でいようと決めていたのに、抑えきれず涙が出てしまいました。
「かっこわるい」とわかっていながら、インターホンも鳴らせません。
主人公にとってインターホンを鳴らすことは、彼との最後の時間の始まりを意味します。
いざドアを目の前にしてためらい、立ち尽くす主人公の孤影はまさしく「悲劇のヒロイン」ですね。
さらに続く歌詞はこちらです。
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まだ好きだって言ったら馬鹿にするよね
笑っちゃうよね
まだ好きだって言ったら頷かないよね
笑ってくれないよね
≪悲劇のヒロイン 歌詞より抜粋≫
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「まだ好きだって言ったら」と頭の中でパターン想定をする主人公。
そう伝えることが馬鹿みたいな行為で、決して受け入れられるものではないということも彼女は承知しています。
どう転んでも自分が欲しい笑顔はもらえない。
そんなことを悟る可哀想な主人公ですが、MVを参照してみると、二人が別れた大きな原因は彼女の重たすぎる愛だったと解釈できそうです。
間奏部分では徐々に彼が構ってくれなくなる様子が描かれており、2番冒頭のクッキーの描写からは主人公が結婚を急いで彼を引かせたことがうかがえます。
赤い文字で描かれた「I SUPPORT YOU FOREVER(=一生あなたを支える)」も、どこか重たく、かつ毒々しく感じられますね。
青のクッキーから読み取れる「悲劇」
ここからは、2番以降の歌詞を考察します。
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もう何回、何十回、何百回
開いたドア開けなくなった
いや、弱くない弱くない、私は弱くない
怖くない、焦らないで
≪悲劇のヒロイン 歌詞より抜粋≫
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かつて彼の恋人だった主人公は、きっとインターホンを鳴らすことより直接ドアを開けることのほうに慣れているのでしょう。
呼び出しボタンが押せず、慣れたドアノブに手をかけてみたものの、ドアを開けることさえ今の自分にはできなくなったと悟った様子です。
「私は弱くない」や「怖くない、焦らないで」と、必死で自分自身を落ち着かせる主人公。
同じタイミングでMVのクッキーには「you deserve better(=もっといい人がいる)」と内なる自分からの励ましのような言葉も出てきます。
彼なしでも大丈夫だと自分に言い聞かせ、彼女はどうにかして平常心を取り戻そうとしているようですね。
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冷静にみてたらヤバいね
そういえばいっつもごめんね
今日は月が綺麗だ
≪悲劇のヒロイン 歌詞より抜粋≫
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冷静になって「ヤバい」と思ったのは、ドアの前に一人でたたずむ現状に対してでしょうか。
続く「そういえばいっつもごめんね」は、これまで彼に与えてきたプレッシャーへの罪悪感の表れにも見えますが、具体性に欠ける適当な謝罪のようにも聴こえます。
自分の落ち度を軽く流して「今日は月が綺麗だ」と気を紛らわせる主人公。
いつもより月が綺麗に見えるのは、おそらく涙を流した直後だからでしょう。
そして曲は最後のサビに入ります。
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インターホンを鳴らした後
どんな顔してたらいいか
考えてもわからないから
かっこつけるね
笑顔でいようって決めてたから
最後まで笑顔でいるね
君は私のものじゃないよ
でも私は君のものだよ
≪悲劇のヒロイン 歌詞より抜粋≫
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ついにインターホンを鳴らし、彼と対面する瞬間が来ました。
すでにひと泣きした主人公は、かっこつけて余裕の笑顔を繕っている様子です。
「君は私のものじゃないよ でも私は君のものだよ」というフレーズからは、1番の「私のものだけ取りに行くよ」という歌詞が思い出されます。
笑顔を見せてかっこつけながらも、心の中には「私を取りに来てよ」という思いがあるのかもしれませんね。
しかしその思いも虚しく、続く歌詞からは二人の気持ちがもう通い合わなくなっていることが読み取れます。
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「ここにはなにもなかった。」
そんな顔しないでよ 馬鹿にしないでよ
「こんなはずじゃなかった。」
ここにきてわかったよ ここにきたのは
まだ好きだからだよ
「好きだからだよ。」
≪悲劇のヒロイン 歌詞より抜粋≫
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「ここにはなにもなかった。」と、思い出だらけの場所で強がる主人公。
それに対し、彼は変わらず淡白な反応を見せたようです。
一方、彼女は「こんなはずじゃなかった。」と、つい本音をにじませた言葉を吐いてしまいます。
そして馬鹿にされるとわかっていながら、頷いてはくれないとわかっていながら「ここにきたのはまだ好きだからだよ」と打ち明けてしまいました。
MVでは、男性に手作りクッキーを渡したあと、主人公は青い薬を練り込んだ別のクッキーを自ら食べてしまいます。
ちなみに、バレンタインにクッキーを渡す行為は「友達でいよう」という意味なのだそうです。
また「青い錠剤」は英語で「blue pill」と言い、自分が信じたいものだけを信じることの象徴とされています。
本心とは裏腹なセリフや行動、最後に出してしまった心の声。
王道のドラマチックな失恋ではありますが、おそらく「悲劇のヒロイン」を決め込む主人公の目には自分自身の過ちは映っていないのでしょう。
MVと楽しむ「悲劇のヒロイン」
今回は、My Hair is Bad『悲劇のヒロイン』の歌詞の意味を考察しました。一見すると王道の失恋ソングのようですが、歌詞やMVをじっくり観察してみるとイメージが変わってくる精巧な楽曲でしたね。
「悲劇のヒロイン」が良い意味なのか悪い意味なのかはっきりしない点も、恋愛における人間臭さがにじみ出ているようで味わい深いです。
なお、MVにはここでは触れられなかった仕掛けがまだまだたくさんあります。
指輪の位置や有無、反転している演奏シーンなどがその代表格です。
ここでの解釈も参考にしつつ、あなたもぜひMVを何度も見返して独自の発見や考察を楽しんでみてください。
・Gt.Vo. 椎木知仁(シイキトモミ) ・Ba.Cho. 山本大樹(ヤマモトヒロキ) ・Dr. 山田淳(ヤマダジュン) 新潟県上越市出身(在住)3ピースロックバンド 。 2013年2月に初の全国流通盤1stミニアルバム「昨日になりたくて」発売。 年間100本を超えるライブ本数を重ね、2014年には1stシングル「だま···