スーパーヒーローの革命前夜
2024年4月5日に配信リリースされたなとりの『絶対零度』は、TVアニメ『WIND BREAKER(ウィンドブレーカー)』のオープニング主題歌に起用されています。少年マガジン公式無料漫画アプリ「マガジンポケット」にて連載中の、にいさとるによる新世代ヤンキー漫画を原作とした『WIND BREAKER』。
超不良校として名高い風鈴高校のトップを目指して街にやって来た桜遥は、風鈴高校が“防風鈴”(ボウフウリン)と呼ばれる街を守る集団となっていたことを知り、風鈴の一員として街を守るため闘い始めます。
ヤンキーでありながら街のヒーローとしての面も持つ魅力的なキャラクターとテンポの良い展開が、男女問わず人気の作品です。
そのオープニング主題歌の『絶対零度』はなとりにとって初のアニメタイアップで、彼が尊敬するボカロPの先輩・じんが編曲とギタープレイで参加しています。
爽快感のある正統派なロックサウンドとキャラクターたちの思いを投影したような歌詞が、作品をさらに盛り上げています。
どのような内容なのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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泣き声、遠く 息を合わせて、もう一度
そんな、僕らの未来を強く願う歌
革命前夜、僕たちの声は
夜明け前にかき消されていく
ネガ、エゴ、嫉妬、くだらない悪意
それすらも飲み込んだ、スーパーヒーロー
息継ぎだって、ギリギリな僕らは
目と目、合わせて 合図して
声にならない声が、確かに聞こえていたんだ
いやいや、その愛を守るために
今、必要なのはそんな言い訳じゃないぜ
決められることのない、ありふれた未来を
≪絶対零度 歌詞より抜粋≫
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冒頭のフレーズは「スーパーヒーロー」として街の人々の「泣き声」に敏感な彼らの姿を表現しています。
ヤンキーに対して良くないイメージを持っている人は「ネガ、エゴ、嫉妬、くだらない悪意」といった感情に突き動かされているように思うかもしれません。
しかし風鈴の彼らはそのような感情すら飲み込み、人を助けるために行動しようとしています。
「革命前夜」の緊張感の中、自らの意思よりも誰かの「声にならない声」のために闘う強い信念を持っていることが窺えます。
本当は「息継ぎだって、ギリギリ」で自分のことすらままならないのも自覚しているのでしょう。
それでも自分や街に住む人々の生活や愛、「決められることのない、ありふれた未来」を願って、力を合わせて闘うために決意を新たにしています。
ゼロから這い上がり心を燃やす
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全部、燃やし尽くして 絶対零度
理由も体裁も関係ない
もう、フラッシュバック&ディスコミュニケーション!
きっと、僕ら 不安定な延長線上
聞こえた、いつの日のエスオーエス
そう、何度だって
繰り返してよベイベー、地獄のなる方へ
≪絶対零度 歌詞より抜粋≫
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サビにはタイトルでもある「絶対零度」のフレーズが登場します。
絶対零度とは絶対温度の零度のことで、摂氏マイナス273.15℃を指す表現です。
これ以下の温度がないことから、全てのスタートを意味していると考えられます。
最も冷たい温度のため「全部、燃やし尽くして」というフレーズと噛み合わないようにも思えます。
しかし、絶対零度のような冷静さとそこから生まれる情熱が彼らの心に根づいていることを示しているのではないでしょうか。
「フラッシュバック&ディスコミュニケーション」はそれぞれ、嫌な記憶が思い出されることとコミュニケーションの欠如を表す言葉です。
つまり、彼らはそのようなつらく苦しい状況を経験し続ける「不安定な延長線上」の日々の中で必死に生きているのでしょう。
それでも「いつの日のエスオーエス」に導かれヒーローとして生きることを決めた彼らが、何度もどん底の気持ちから這い上がって前進する様子に力づけられます。
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全く以って、つまらない
錆び臭い街の匂いや喧騒に罰×10
被害者づらする善悪にとどめを刺してくれ
≪絶対零度 歌詞より抜粋≫
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他校の生徒たちが面白がって街の人たちに対して行う暴力や迷惑行為は、彼らにとって「全く以って、つまらない」こと。
「錆び臭い街の匂いや喧騒に罰×10」というフレーズから、そうした街を脅かす行為を断固として許さない態度が伝わってきます。
自分から闘いを吹っかけることはありませんが、「被害者づらする善悪」を分からせるためには拳を振るいます。
全部を抱える覚悟を持って生きる
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確かに今も、ずっと鳴り止まないで
僕らを揺らした、ロックンロールのように
臆病にさえ苛立つ、僕の愚かさも
消せない過去の痛みも
全部を抱えて、歩いていくんだ
≪絶対零度 歌詞より抜粋≫
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ずっと鳴りやまない「ロックンロール」は、彼らの鼓動を示しているのかもしれません。
ロックンロールが心を掻き立てるように、自分の力強い鼓動は生きていることを実感させます。
「臆病にさえ苛立つ、僕の愚かさ」や「消せない過去の痛み」は誰にとってもきっと捨て去りたい汚点です。
しかしそれらの悪い部分も「全部を抱えて、歩いていくんだ」という言葉から、どんな自分も受け止めて強く生きていきたいという熱い想いが垣間見えます。
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泣き声、遠く 息を合わせて、もう一度
奪われることのない、ありふれた未来を
運命がなんだって
なぁ、絶望がなんだって
その目に映った、全部を抱えて
生きていくんだ、間違いないさ
夜明けが来なくたって
雨が降り止まなくたって
凍てつくほど燃えている、絶対零度
≪絶対零度 歌詞より抜粋≫
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誰にも「奪われることのない、ありふれた未来を」願い、彼らは闘い続けます。
「運命」や「絶望」という言葉に翻弄されて立ち止まるつもりはありません。
目の前の状況がどんなに険しく思えても「全部を抱えて生きていくんだ」と覚悟を言い表しています。
時には暗闇や冷たい雨の中にいるかのように苦しむこともあるでしょう。
それでもその度に「凍てつくほど燃えている、絶対零度」の想いが彼らを奮い立たせます。
誰かを守ることで自分の価値を見出そうとする若くて熱い感情に心が揺さぶられます。
疾走感あふれるMVにも注目!
なとりの『絶対零度』は心の中にある熱さと冷たさの両面を表現し、強い信念を持ってヒーローとして闘う主人公たちの想いが感じられる楽曲です。映像監督のKoukoが制作したMVでは、新進気鋭のイラストレーター・DEPPAによりなとりのキャラクターが疾走感のあるタッチで描かれており、楽曲と見事にマッチしています。
アニメとのリンクにも注目しながら、楽曲の魅力を感じてください。