サザン初のドラマ主題歌となった人気曲を徹底解釈
日本の音楽シーンのトップを走り続けるサザンオールスターズは、珠玉のラブソングを数多く世に送り出してきました。その中のひとつに『涙のキッス』があります。
31枚目のシングルとして1992年にリリースされた『涙のキッス』は、自身初のドラマ主題歌として賀来千香子主演『ずっとあなたが好きだった』のために書き下ろされました。
ドラマプロデューサーの貴島誠一郎から「“平成版いとしのエリー”として後々まで歌い継がれるような曲」と依頼されて制作したそうです。
その結果、同年には第34回日本レコード大賞でポップス・ロック部門のゴールド・ディスク賞を、翌年には第7回日本ゴールドディスク大賞でベスト5・シングル賞を受賞。
初めてシングルでミリオンセラーを達成し、その後長きにわたり幅広い層のファンに愛される人気曲となりました。
その大きな理由は、切ないメロディに乗せられた桑田佳祐らしいセンスが光る歌詞にあると思われます。
どのような想いを綴った歌なのか、歌詞の意味を考察していきましょう。
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今すぐ逢って見つめる素振りを してみても
なぜに黙って心離れてしまう?
泣かないで夜が辛くても
雨に打たれた花のように
≪涙のキッス 歌詞より抜粋≫
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1番冒頭の歌詞から、あるカップルの別れのシーンであることが想像できます。
最初の問いかけを見ると、主人公の方はまだ愛していて今すぐにでも会いたいと願っているのに、恋人は「心離れて」しまった状態のようです。
悪いところがあるなら言ってほしいのに、何も言ってもらえないまま2人の距離は離れてしまいました。
「泣かないで」ともあるため、恋人も完全に愛情を失ったわけではないのでしょう。
お互いに歩み寄ればまだ関係を修復できる可能性はありますが、どちらもどことなくもう無理だと悟っているのかもしれません。
これから独りで迎える「夜が辛くても雨に打たれた花のように」泣かないでいてほしいと、恋人の気持ちを案じていることが窺えます。
誰よりも愛してる
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真面でおこった時ほど素顔が愛しくて
互いにもっと解かり合えてたつもり
行かないで胸が痛むから
他の誰かと出逢うために
≪涙のキッス 歌詞より抜粋≫
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主人公はこれまでのことを思い返しています。
恋人が怒ったときに見せる「素顔」を愛おしく感じ、他のどのような姿も愛していました。
そうして「互いにもっと解かり合えてたつもり」なのに、今や別れが間近に迫ってきています。
自分への愛が尽きて別れるなら我慢できても、「他の誰かと出逢うために」去っていくと想像したらあまりに胸が痛みます。
自分以外の誰かと幸せにならないでほしいという切実な想いが込められていますね。
反対に、この人以外と幸せになる自分を思い描きたくないという気持ちもあるのかもしれません。
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涙のキッス もう一度
誰よりも 愛してる
最後のキッス もう一度だけでも
君を胸に抱いて
≪涙のキッス 歌詞より抜粋≫
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サビでは、別れ際に2人が涙ながらにキスを交わしている様子が描かれています。
そして心にあふれるのは「誰よりも愛してる」という気持ちです。
これが「最後のキッス」だと分かっているから離れたくなくて、「もう一度だけでも」と心の中で乞います。
「きっと明日の夢は見ない」というフレーズから、一緒にいられない未来のことを今は考えたくないという想いが感じられます。
この別れは夏の運命だけど…
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いつも笑った想い出だらけの二人にも
夜風がそっと恋の終わりを告げる
悲しみの時間は過ぎるけど
きっと明日の夢は見ない
≪涙のキッス 歌詞より抜粋≫
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振り返れば「いつも笑った想い出だらけ」でも、その恋は終わることがあります。
人は不器用で失敗ばかりだから、うまくいかないことばかりです。
彼らの恋の終わりに冷たい夜風が吹く様子は、寂しさや切なさといった感情を表現しているのでしょう。
どれほど悲しんでもいずれ「悲しみの時間は過ぎる」ものです。
思い出して泣くことも、胸が痛むことも少なくなっていくのは分かっています。
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ふられたつもりで生きてゆくには
駄目になりそうなほど
悲しみが消えない
≪涙のキッス 歌詞より抜粋≫
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2人の別れは自然消滅といっていいでしょう。
「ふられたつもりで生きてゆく」なら、今とは何かが変わるのかもしれません。
しかしそう考えるのも悲しく、人として駄目になってしまいそうです。
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涙のキッス もう一度
誰よりも愛してる
さよならは言葉にできない
それは夏の運命
涙のキッス もう一度
誰よりも愛してる
最後のキッス もう一度だけでも
君を抱いていたい
≪涙のキッス 歌詞より抜粋≫
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「さよなら」と言葉にしてしまえば、別れは決定的になります。
だから、どちらもその言葉を言えずにいるようです。
とはいえ自分たちの別れは「夏の運命」だとも感じていて、関係を取り戻すにはもう遅すぎます。
別れたくないけれど、実際にそうすることもできないもどかしい気持ちの間で揺れているのが伝わってきますね。
誰よりも愛しているのは本心です。
その想いが少しでもお互いの胸に刻まれ残り続けることを願って、「涙のキッス」を贈り合っているのかもしれません。
抱き合いキスを交わす温もりと冷たい夜風の対比が、さらに切なさを感じさせます。
サザン屈指の失恋ソングを味わおう
サザンオールスターズの『涙のキッス』は、悲しい別れを前にした男女の切ない想いが詰まった楽曲です。男性の未練を歌っているように感じますが、一人称が出てこないことで聴く人それぞれの立場で自分の気持ちを反映しながら聴ける点も、この歌詞の魅力なのではないでしょうか。
ぜひ歌詞の一つひとつに注目しながら、楽曲の世界観をイメージしてみてくださいね。
1978年6月25日にシングル『勝手にシンドバッド』でデビュー。 1979年『いとしのエリー』の大ヒットをきっかけに、日本を代表するロックグループとして名実ともに評価を受ける。 以降数々の記録と記憶に残る作品を世に送り続け、時代とともに新たなアプローチで常に音楽界をリードする国民的ロ···