夢に対して躊躇する主人公
冒頭の部分から歌詞を見ていきましょう。
----------------
木枯らしに襟を立てる季節になっても
まだ 決められないよ
大それた夢なんか叶うわけないだろう
ただ 躊躇していた
目の前には僕の人生
階段を昇る
≪歩道橋 歌詞より抜粋≫
----------------
この部分では、歌詞の主人公が置かれている状況が描写されています。
その内容を読み解くと、主人公は「木枯らしに襟を立てる季節」=冬のある日、何かを迷っている状況にあるようです。
「大それた夢」「躊躇」「人生」という言葉から考察すると、追いかけたい大きな夢を持っているのでしょう。
しかしそれが叶うか自信がないため、今後の人生のことを考え、ためらっていると捉えられます。
ここで描かれた「夢」に惹かれる気持ちと、それに対して「躊躇する」気持ちの間で揺れ動く心情が、この楽曲の歌詞の中を通して描かれています。
「歩道橋」が表すもの
続く歌詞を見ていきます。
----------------
歩道橋の途中で足が止まった
本当に渡っていいのかなって…
通りの反対側 何が待つのか?
期待と不安に挟まれながら
さあ どうする?
≪歩道橋 歌詞より抜粋≫
----------------
歩道橋を上り、別の道へ渡ろうとした主人公は「本当に渡っていいのかな」という思いに駆られます。
歩道橋を渡った向こうにある通りはどのようなものなのか、渡ってみない限りわかりません。
主人公は渡った先の道に「何が待つのか」わからないその状況に、「期待と不安」の両方を感じます。
この歌詞を先ほどの冒頭のフレーズと重ね合わせて考えてみましょう。
そうすると、「夢」に魅力と不安を感じて迷っている主人公の心情の状況と重なります。
夢に向かって階段を駆け上がるのか、それともこのままの人生を歩んでいくのか。
つまり、ここにおける「道」や「歩道橋」の描写は、主人公の揺れ動く心情を表したメタファー(比喩)と考えられるのではないでしょうか。
この「道」そして「歩道橋」の喩えは、続く2番にも登場します。
例えば、
----------------
無理なんかしなくても こっち側を
そう 歩いて行けばいい
≪歩道橋 歌詞より抜粋≫
----------------
という部分では、わざわざ環境を変えずに今ある道をそのまま進んでいけばいいという心情が語られる一方で、
----------------
このチャンスをもし逃したら
信号までは遠すぎる
≪歩道橋 歌詞より抜粋≫
----------------
と、「歩道橋」を渡らなければ、次の「信号」=ちがう道へ辿り着けるチャンスは「遠く」なってしまう、という焦りも描写されます。
目の前にある「歩道橋」を渡って、ちがう道へ渡るのか。
夢を追いかけるのか、次のチャンスまで躊躇するのか。
主人公は大きな迷いの中にあると考えられます。
迷いの先に見つけた「答え」
では、その迷いを抱えた主人公の心情はどのように変化して行くのでしょうか。
歌詞の終盤では、より大きく揺れ動く心情が描写されます。
----------------
このままずっと 歩いて行けば
君のことを失うこともない
それなりにしあわせだけど
いつか ここを渡る日が来るのかなあ Ah
≪歩道橋 歌詞より抜粋≫
----------------
という部分では、今ある道を歩いていけば「君」を失うこともなく、「それなりにしあわせ」なままで生きていけると主人公は考えます。
それでも「歩道橋」を渡ることを考えている部分からは、夢を諦めきれない心情が伺えます。
そうして、考えを巡らせた主人公は、あるひとつのことに辿り着きます。
それが描かれるのが、
----------------
このままずっと 歩いて行けば
君のことを失うこともない
それなりにしあわせだけど
いつか ここを渡る日が来るのかなあ Ah
≪歩道橋 歌詞より抜粋≫
----------------
という部分。
ここでは、今歩んでいる道と向こう側の道、どちらを歩もうと「答え」=正解はないのだ。
という主人公の考えが語られます。
夢を追いかけようと、今ある人生を歩んで行こうと、その決断に正解も不正解もないという意味だと捉えることができます。
では、その「答え」などないことに気がついた主人公は、最終的にどのような決心をするのか。
それが語られるのが、最後の歌詞。
----------------
期待と不安に挟まれながら
さあ どうする?
≪歩道橋 歌詞より抜粋≫
----------------
正解のない問いの中で、主人公は「期待と不安」を感じながらも、
----------------
このまま 渡ろう
≪歩道橋 歌詞より抜粋≫
----------------
と決めます。
歩道橋を渡り、別の道を歩いて行く。
つまり「大それた夢」を追いかける決心をしたことが伺えます。
主人公は様々な葛藤を抱え、正解のない問いに悩んだ上で、自分の夢へと進み始めたのでしょう。
迷いの中にある人へのメッセージ
「歩道橋」の描写を用いながら、「夢」を追いかけることへの迷いを描いたこの楽曲。人生について迷いを感じたことがある人なら、共感できる歌詞になっていると思います。
人生の決断に「答え」はないという考えと、その上で、「歩道橋」を渡り夢を追いかけるという決心。
その心情を描いた『歩道橋』は、今迷いの中にある人々の心を、そっと支える楽曲になっているのではないでしょうか?