「地獄でなぜ悪い」から「ばらばら」への歌唱曲変更が話題に
星野源といえば、NHK紅白歌合戦での歌唱曲が『地獄でなぜ悪い』から『ばらばら』へ変更されたことで話題です。
元々、NHK側からの熱い要望もあり決まっていた曲目の変更。
さらにはこの楽曲が、同名映画の主題歌であることも、注目を集めた要因のひとつです。
多くの人が視聴する紅白歌合戦という場で披露されるということもあり、同名映画の監督と関連付けて、様々な意見が寄せられました。
楽曲と映画作品を結びつけるかどうかというのは、人によって感じ方が異なるため、非常に難しい問題です。
結果的に披露する楽曲を変更する選択を迫られたわけですが、変更後の選曲が『ばらばら』だったことで、今度はその歌詞に注目が集まることとなりました。
今の世の中を象徴するような歌詞
星野源『ばらばら』は、2010年6月23日にリリースされた1stアルバム『ばかのうた』に収録されている楽曲です。
----------------
世界は ひとつじゃない
ああ そのまま ばらばらのまま
世界は ひとつになれない
≪ばらばら 歌詞より抜粋≫
----------------
タイトルにもある通り、この曲は「ばらばら」というフレーズが何度も登場するのが特徴。
「世界はひとつになれない」という歌詞は、何かを言えばすぐに批判されかねない、今の世の中と重なります。
----------------
気が合うと 見せかけて
重なりあっているだけ
≪ばらばら 歌詞より抜粋≫
----------------
SNSで誰でも気軽に発信できて、つながることも簡単な時代。
だからこそ、相手との距離感を見失いやすく、議論が過熱化しやすいとも言えます。
紅白歌合戦での披露曲を発表して以降、様々な批判や意見に晒された星野源。
議論の的になっている問題の重大さと、紅白歌合戦という場。
そして伝えたいメッセージという点から、発表後に曲目を変更するという異例の事態に至りました。
この出来事がまさしく、多種多様な意見が飛び交いぶつかり合う、今という時代の複雑さを物語っているのではないでしょうか。
誰とでも容易に意思疎通ができる便利さの反面、いつ何時、見知らぬ誰かからの批判に晒されるかもしれない時代の複雑さが見事に表現されています。
だからこそ、ひとつになれない世界を歌い上げた『ばらばら』という楽曲に注目が集まっているのでしょう。
ばらばらでも分かり合えるという希望
----------------
飯を食い 糞をして
きれいごとも言うよ
≪ばらばら 歌詞より抜粋≫
----------------
『ばらばら』の歌詞は、非常にシンプルで人間味に溢れています。
きれい事を言うだけでなく、生きていく上で不可欠な食事や排泄の話にまで触れているところが、「生きている人間」らしい。
----------------
ぼくの中の世界 あなたの世界
あの世界とこの世界
重なりあったところに
たったひとつのものが
あるんだ
≪ばらばら 歌詞より抜粋≫
----------------
リアルな現実を生きる「ぼく」と「あなた」だからこそ、考えることも好きなことも多種多様でばらばら。
それでも、重なり合うことはできます。
まるでパズルのピースがハマるように、その人の一部が自分と重なる人は少なからずいるでしょう。
人はすべてを理解し合えなくても、誰かと気持ちを共有し合って生きていくことはできます。
「重なりあったところにたったひとつのものがあるんだ」という歌詞はまさに、異なる人と関わり合いながら、何かを生み出していく喜びや希望を歌っているのではないでしょうか。
ばらばらな「ぼく」と「あなた」が手を取り合って向かう先は
----------------
世界は ひとつじゃない
ああ そのまま 重なりあって
ぼくらは ひとつになれない
そのまま どこかにいこう
≪ばらばら 歌詞より抜粋≫
----------------
結局、人はひとりです。
分かり合えるだなんて安易に希望抱いてはいけないのかもしれません。
人は分かり合えないもの。
ばらばらで当たり前なもの。
それでも、ほんの少しだけ歩み寄ったら、共有できる何かを見いだすことができたら。
そこにはほんの少し、幸せな未来が待っているのではないでしょうか。
『ばらばら』という歌は、人は皆ばらばらだと歌いながらも、決してそれを悲観してはいません。
無理にひとつになろうとせず、ばらばらのままで重なっていけばいい。
「ひとつになれない」まま向かう先にあるものは、決して暗いものではないように思えます。
自分の正義を振りかざすから、他人が敵に見えるだけ。
自分と違う意見を見つけたら、叩くのではなく、違いを受け入れればいいのです。
納得できなくても、そういう考えもあるのだと冷静に受け止めることができれば、世界はもう少し優しくなれるのではないでしょうか。
星野源の『ばらばら』という曲を聴いていると、タイトルから受ける第一印象とは裏腹に、どこか前向きな気持ちになれる気がします。
ひとつになれないことは悪いことじゃない。
あなたも、「ばらばら」な世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。