今は亡きオジーの三線
数々の名曲を世に送り出してきた、沖縄を代表するバンド・BEGINが、2006年10月にリリースした『三線の花』。もともとは同じ事務所の三宅裕司から依頼され、2005年上演の舞台『ニライカナイ練金王伝説』にて、劇団員が歌う曲として制作されました。
BEGINとして歌う予定はなかったものの、周囲からの後押しもあり、30枚目のシングルとしてリリースすると多くの注目を集め、映画『涙そうそう』の挿入歌にも起用されました。
穏やかかつ生命力あふれる三線の音色と、ボーカルを務める比嘉栄昇の優しい歌声が心に響く名曲です。
どのようなメッセージが込められているのか、さっそく歌詞の意味を考察していきましょう。
----------------
いつしか忘れられた オジーの形見の三線
床の間で誕生祝いの 島酒にもたれて
ほこりを指でなでて ゆるんだ糸を巻けば
退屈でたまらなかった 島唄が響いた
≪三線の花 歌詞より抜粋≫
----------------
1番の歌詞を見ると、主人公は実家に帰省してきた人物と解釈できそうです。
「誕生祝い」とあるため、自分の子どもの誕生を実家で盛大に祝っている場面なのかもしれません。
祝いの席の盛り上がりが続くなか、主人公は部屋の片隅にある、床の間に置かれた三線を見ています。
それは「オジー」、つまり祖父の形見の三線です。
家族にとっても大切なものですが、本人が亡くなり、ほかに演奏できる人がいなければ、月日の経過と共に忘れられてしまうのは仕方がないことといえます。
主人公はその三線のそばに座り、被った「ほこりを指でなでて」その忘れ去られた月日に思いを馳せているのでしょう。
三線を手に取り、弦を巻き直してみると懐かしい音色が響きます。
若い頃は退屈に感じていた祖父が歌う島唄が、祖父の死や我が子の誕生という様々な経験を経て胸に刺さります。
三線の花が心に咲いている

----------------
鮮やかによみがえる あなたと過ごした日々は
やわらかな愛しさで この胸を突き破り
咲いたのは 三線の花
≪三線の花 歌詞より抜粋≫
----------------
三線を奏でてみると、日々の忙しさで忘れてしまっていた祖父と過ごした日々を、鮮明に思い出したようです。
その暖かな音色は祖父が示し、自分も感じていた「やわらかな愛しさ」に似ています。
きっとお互いに口下手で、気持ちを言葉にして伝え合う機会は少なかったのでしょう。
その日々のなかで祖父が奏でていた三線が、祖父からの愛のメッセージだったことが、大人になった今ならわかります。
まいた種が花を咲かせるように、祖父が与えてくれた愛が主人公の心の中で膨らみ、広がるのを感じます。
----------------
テレビの斜め向かいの あなたが居た場所に
座ればアルミの窓から 夕月が昇る
家族を眺めながら 飲む酒はどんな味
眠りにつく前の 唄は誰の唄
≪三線の花 歌詞より抜粋≫
----------------
「テレビの斜め向かい」が祖父の特等席。
同じようにそこに座ってみると、「アルミの窓から 夕月が昇る」のが見えます。
おそらく祖父も、その景色を楽しんでいたのでしょう。
祖父のことを考えていると、当時は考えもしなかった、祖父に尋ねてみたい質問が頭に浮かびます。
「家族を眺めながら 飲む酒はどんな味」と考えるのは、自分もお酒を楽しむ年齢になり、家族を持ったからです。
祖父が家族をどのように見つめていたのか、今更ながら知りたいと思います。
「眠りにつく前の 唄は誰の唄」という問いかけは、もしかしたら人生の最期に浮かんだ唄を尋ねているのかもしれません。
いま祖父の島唄が主人公の心を震わせているように、祖父にとっての大切な唄を知りたいのです。
それらの問いの答えを知ることは叶いませんが、祖父のことを考えるこの時間は、主人公にとってかけがえのない時間となったことでしょう。
心に咲く音楽と家族の温もりは誰にも奪えない

----------------
喜びも悲しみも いつの日か唄えるなら
この島の土の中 秋に泣き冬に耐え
春に咲く 三線の花
≪三線の花 歌詞より抜粋≫
----------------
いつの日か、歳を重ねた自分も喜びや悲しみを唄う日がくるのでしょう。
そのときには、きっと祖父のことを唄うはずです。
「この島の土の中」で眠っている祖父は、まるで「秋に泣き冬に耐え 春に咲く」我慢強い花のようです。
老いた姿は弱く見えても、心は強くしなやかに人生を生き抜いたからです。
祖父が示してくれた優しい愛情と生き方で見せてくれた強さが、三線の音色を通して主人公の心に咲き誇っています。
----------------
この空もあの海も 何も語りはしない
この島に暖かな 風となり雨を呼び
咲いたのは 三線の花
秋に泣き冬に耐え 春に咲く 三線の花
≪三線の花 歌詞より抜粋≫
----------------
広大な空や海は何も語ってはくれませんが、「この島に暖かな 風となり雨を呼び」変化と実りを与えてくれます。
同じように、祖父も多くは語らなかったものの、三線と歌声で様々なものを与え教えてくれました。
忘れていても、本当に大切なものは心に残り続けます。
MVのラストには「何ものも人から音楽は奪えない 何ものも記憶にある家族の温もりは奪えない」というテロップが表示されます。
人生には、悲しみに耐えなくてはならないことがありますが、受け継いだ大切な音楽や家族の温もりがあれば、きっとまた前を向けるときがやってくるでしょう。
音楽の偉大さ、家族の尊さを思い出させてくれる歌詞ですね。
音楽の力を感じる温かい普遍の名曲!
BEGINの『三線の花』は、祖父の形見の三線を通して、音楽の力や人のつながりが表現された楽曲です。三線にはなじみのない方でも、大切な家族のことを重ね合わせながら聴くことができる、普遍的なメッセージが込められていました。
ぜひ自分にとっての“三線の花”に思いを馳せて、じっくりと歌詞を味わってください。
