遠とおい昔むかしの雪ゆきの降ふる時分じぶん
箱入はこいりの姫ひめは密ひそやかに逢瀬おうせを重かさねていた
男おとこは市井しせいの若人わこうど 許ゆるされぬ愛あいは
嗚呼ああ、何故なにゆえに燃もえてゆくのか
「今いまは雅みやびな羽織はおりさえも忌いまわしい」
と姫ひめは泣なく
「今宵こよい、月つきと共ともに逃にげてしまおう」
男おとこはいざ、その手てを取とる
駆かけ出だす背せに雪ゆきが
積つもれど 積つもれども
その影かげは闇夜やみよに深ふかまるばかり
朝あさ、宮人みやひとの追おっ手てが迫さまれば
男おとこは震ふるえる手てに力込ちからこめ刀かたなを振ふるっていた
嗚呼ああ、覆水ふくすいは盆ぼんに返かえることはない
雪ゆきに血ちが降ふり 愛あいの火ひのよう
「愛あいと罪つみとが首くびにきつく辛つらいの」
と姫ひめは泣なく
「此処ここで立たち止どまるわけにはゆかぬ」
男おとこはまた、その手てを取とる
行先ゆくさきなど知しれず
歩あるけど 歩あるけども
その時ときは無情むじょうに近ちかづくばかり
「一目見ひとめみた時決とききまった定さだめでしょう」
朝霧あさぎりに笑えみが映はえ
「箱はこの中なかでは人生いのちなどなかったの
もう一層いっそう 構かまわずに
そなたと共ともにどこまでも行ゆきましょう
雪ゆきの道みちを」
「然さらば永遠とわの場所ばしょへ共ともにゆこう」
姫ひめは嬉うれし 空そらを仰あおぐ
迷まよいが消きえたように
からりと晴はれゆく
「さらば、永遠とわの場所ばしょでまた会あえよう」
男おとこはいざ、刀かたなを取とる
震ふるわぬ手てで涙拭なみだぬぐい
微笑ほほえみ湛たたえた姫ひめの胸むねに
刀かたなを深ふかく深ふかく突つき立たてた 嗚呼ああ!
遠tooいi昔mukashiのno雪yukiのno降fuるru時分jibun
箱入hakoiりのrino姫himeはha密hisoやかにyakani逢瀬ouseをwo重kasaねていたneteita
男otokoはha市井shiseiのno若人wakoudo 許yuruされぬsarenu愛aiはha
嗚呼aa、何故naniyueにni燃moえてゆくのかeteyukunoka
「今imaはha雅miyabiなna羽織haoriさえもsaemo忌iまわしいmawashii」
とto姫himeはha泣naくku
「今宵koyoi、月tsukiとto共tomoにni逃niげてしまおうgeteshimaou」
男otokoはいざhaiza、そのsono手teをwo取toるru
駆kaけke出daすsu背seにni雪yukiがga
積tsuもれどmoredo 積tsuもれどもmoredomo
そのsono影kageはha闇夜yamiyoにni深fukaまるばかりmarubakari
朝asa、宮人miyahitoのno追oっxtu手teがga迫samaればreba
男otokoはha震furuえるeru手teにni力込chikarakoめme刀katanaをwo振fuるっていたrutteita
嗚呼aa、覆水fukusuiはha盆bonにni返kaeることはないrukotohanai
雪yukiにni血chiがga降fuりri 愛aiのno火hiのようnoyou
「愛aiとto罪tsumiとがtoga首kubiにきつくnikitsuku辛tsuraいのino」
とto姫himeはha泣naくku
「此処kokoでde立taちchi止doまるわけにはゆかぬmaruwakenihayukanu」
男otokoはまたhamata、そのsono手teをwo取toるru
行先yukusakiなどnado知shiれずrezu
歩aruけどkedo 歩aruけどもkedomo
そのsono時tokiはha無情mujouにni近chikaづくばかりdukubakari
「一目見hitomemiたta時決tokikiまったmatta定sadaめでしょうmedesyou」
朝霧asagiriにni笑eみがmiga映haえe
「箱hakoのno中nakaではdeha人生inochiなどなかったのnadonakattano
もうmou一層issou 構kamaわずにwazuni
そなたとsonatato共tomoにどこまでもnidokomademo行yuきましょうkimasyou
雪yukiのno道michiをwo」
「然saらばraba永遠towaのno場所basyoへhe共tomoにゆこうniyukou」
姫himeはha嬉ureしshi 空soraをwo仰aoぐgu
迷mayoいがiga消kiえたようにetayouni
からりとkararito晴haれゆくreyuku
「さらばsaraba、永遠towaのno場所basyoでまたdemata会aえようeyou」
男otokoはいざhaiza、刀katanaをwo取toるru
震furuわぬwanu手teでde涙拭namidanuguいi
微笑hohoeみmi湛tataえたeta姫himeのno胸muneにni
刀katanaをwo深fukaくku深fukaくku突tsuきki立taてたteta 嗚呼aa!