更新日:2020年3月31日
「テクノロジーとライブ」。常に寄り添う存在だったこの二つが今、あらゆる方向に進化を遂げているデジタル音楽シーンで革命を起こし始めている。VR、ライブストリーミング、データ…テックとの融合でこれまで制限されてきたライブの表現手法が広がる中で、明確なオーディオビジュアルのビジョンを示す次世代アーティストたちが集う実験的なイベントが開催された。
3月26日、横浜のDMM VR THEATERで音楽×テクノロジー×映像イベント「VRDG+H」
が行われた。そこでは次世代のサウンドクリエイターとビジュアルクリエイター5組が先進的なオーディオビジュアルの世界を見せてくれた。今回開催されたVRイベントは勿論日本では初の試み。チケットは完売となり、会場には、最新のクリエイティブに期待する熱心な観客が詰めかけた。
主催するのはHIP LAND MUSIC。サカナクションやavengers in sci-fi、THE Flickersなど、音と映像で常に実験的な表現を繰り広げるアーティストたちを抱えるレーベルが、この実験的な取り組みを主催することも注目の一つだ。
開催地となったDMM VR THEATERは、世界初の3DCGホログラフィック専用のエンターテイメントシアター。透過ボードと高精細LEDディスプレイを配置したステージに映し出されるフォトリアルなCG映像が、リアルな3Dホログラム体験を生み出す、まさにテックとライブを象徴する環境が、次世代アーティストたちのパフォーマンスを演出していった。
最初に登場したKeijiro Takahashi X DUB-Russell
。ステージに立つDUB-Russellの左右に現れた女神像が、曲のグリッチ音やキックに合わせて徐々に壊れていく音と映像がシンクロしたライブを披露してくれた。激しいエレクトロニック・サウンドが響くライブの合わせて、静止状態だった女神像をさまざまなCG効果で原型を留めないほどに破壊し再生させるライブは、まるでテクノロジーを身にまとった生物のよう。類稀なスピード感あるビートがCG映像とリアルタイムで複雑に絡みあう演出に会場は静まり返り、終演と同時に拍手が鳴り現実へと引き戻された。
Akihiko Taniguchiのライブが始まったと同時にステージに現れたのは、本人を3Dスキャンした等身大のアバター。バーチャル空間を歩くアバターの目線が捉えた、自作の詩を朗読するオリジナリティあふれるパフォーマンスが行われた。Minecraftのように広大なバーチャル空間に次々と現れる3Dスキャンされた建物や洗濯物、キッチン用品など巨大なオブジェが転がる世界はまるでTaniguchi本人の頭のなかにダイブしたような錯覚が走る。3Dスキャナーを使った人物のデータ化はエンターテイメントの世界で増えたが、そのデータをどう使いエンタメ化させるかの方向性を示すパフォーマンスだった。
坂本渉太と吉田恭之による映像ユニットDAIMAOUと、独特な即興感を醸し出すエレクトロニック・サウンドのwk(es)によるコラボレーションは、上下左右前後の空間に伸張した映像が映しだされる3Dならではの演出を見せてくれた。3Dアニメで描かれた少女や犬、たぬきやきつねなどの動物、さらに「大魔王」や擬音語などの文字が突然スクリーンに現れては消えていく。3D映像が演出の一部であり、音楽のストーリーを引き立てる役割ともなって観客の想像力を刺激していくポテンシャルを感じた。3DCGならではの突発的かつ立体的な映像と、時たま流れるコミカルなアニメと言葉の組み合わせは、独特な電子音楽の世界観を作るだけでなく、難解なパターンが折り重なる曲を消化しやすくしてリスナーに届けてくれるといった二面性を持っているように感じた。
次世代エンターテイメントという意味で、当日最大の驚きあるライブを見せてくれたのは、マネキンダンスユニットFEMMとDaihei Shibata
のコラボレーションだ。2014年のデビュー以来、日本だけでなく世界のメディアも注目し始めた「意思を持つマネキン」「RiRi(リリ)」と「LuLa (ルラ)」で構成されるFEMMと、映像プロデューサーのDaihei Shibataが創りだすホログラフィック映像が、ステージ上でダンスとシンクロしていくVR演出が観客の注目を集めた。ステージ前部の透過スクリーンと背面のディスプレイに流れる映像は、ビートや曲調に合わせて変化していく。歌詞が空中に浮かんだり落下してFEMMを取り囲む装飾になったと思えば、突如CGダンサーが現れるなど、曲ごとに変わるテーマに沿って様々な世界観を作っていく。
この日披露された新曲「circle」では、FEMMに加えてゲストにLil’ Fang(FAKY)、Yup’inが加わり、VR、ダンス、ボーカルが一体となるステージは、空気が変わるほど観客の眼差しがこの日一番熱くなった瞬間だった。アップテンポのダンスミュージック4曲が披露されたが、どの曲でもFEMMと映像がリアルタイムでシンクロした先進テクノロジーによる演出が、ふたりのアーティスト性をあらゆる角度から際立たせていた。VRなどテクノロジーが新しく変わったからといって音楽が変わるわけではない。ただテクノロジーの進化によって、アーティストの表現の幅が広がり、見せ方や接し方を違う角度で行うことができる。よりエモーショナルで複合的にメディア化されていくデジタル音楽の可能性をFEMMのライブは暗示しているように思えた。
最後に登場したのは、HifanaのKEIZOmachine!と、KezzardrixとSatoru Higaによる映像ユニットHEX PIXELSによるコラボレーション・ライブ。Hifanaでお馴染みのMPCやKAOSS PADなど機材に溢れたステージに立ったKEIZOmachine!がヒップホップのビートにエフェクトをかける即興性高いパフォーマンスを見せると、CG映像が同調していく。途中からは、機材テーブルのGoProが映すKEIZOmachine!の手元のアクション、360度全方向カメラRICHO THETAが映すステージ全景がリアルタイムでレンダリングされるビジュアルへ切り替わる演出が始まり、ステージのパフォーマーを見ていたはずの観客の視点は対象がステージ全てへといつの間にか変わっていた。後半には、KEIZOmachine!がゲームコントローラーを使い、「スーパーマリオブラザーズ」をサンプリングした映像と音をリアルタイムでコントロールする即興演奏を披露。シアター中に鳴り響くお馴染みのゲームサウンドをループさせたヒップホップビートには、先進テクノロジーを革新させ、映像と音楽のシンクロを完成させてバーチャルな世界を創りだした、ゲーム業界へのリスペクトの意味も込められていたに違いない。
ライブビジネスが世界的に成長する中で、ライブ体験の拡張は大きな可能性があると言える。ただ音楽をデジタル化すれば、変わるわけではない。社会のデジタル化が進んでも、音楽の中心は人間性だと思っている。そしてテクノロジーは音楽に内包されるアイデアをさまざまな角度から見せて、体験をさらにエキサイティングにしてくれるファッションアイテムのようなものかもしれない。アーティストや曲の世界観がテクノロジーでリアルタイムに拡張された瞬間にエモーショナルな興奮を感じる時代がやって来た。「VRDG+H」のステージに立ったアーティストたちは、そんな未来の音楽がテクノロジーとの垣根を飛び越え共に進む方向性を指し示してくれた
。ライブとテクノロジーの関係は人と音楽を取り巻くリアルの世界の拡張であって、もはやバーチャルやオルタナティブな世界にとどまらない気がしてきた。
ジェイ・コウガミ(音楽ジャーナリスト、All Digital Music)
Photo by Satoru Fueki
FEMM HP
VRDG+H#1 (short version) https://vimeo.com/161065273