五月晴れの日本武道館
五月晴れの日本武道館に集まった人びと。カップルから家族連れまで年代を問わず訪れた目的は台湾出身のロックバンド・Mayday(五月天)。1997年に結成され1999年にデビューしたMaydayはこれまでに台湾金曲奨の「最優秀バンド」を4度受賞。ワールドツアーを含むライブ動員数は1,000万人を超えるなどまさに“アジアのスーパーバンド”。2015年、2017年に続いての日本武道館公演はソールドアウトで急きょ立ち見席が販売されるなど、1年ぶりの来日を待ちわびるファンで開演前から会場は熱気に包まれている。
写真:Viola Kam (V'z Twinkle)
ステージ中央に設置されたスクリーンに映像が映し出される。“文字のない70億人の自伝。それは地球に生きる一人ひとりがつくるもの”。メッセージとともに場面が転換し、宇宙からやってくる侵略者たち。地球の危機に駆けつけたヒーロー戦隊はなんとMaydayのメンバー!
「人が多すぎてアリーナにいるみたいだ」、「じゃあライブをやっているつもりで!」爆発音が鳴り響くと“本物の”5人がステージに登場。冒頭からド派手な演出に大歓声があがる。
はじまったのは最新アルバム『自伝 History of Tomorrow』に収録されたダンスチューン『Party Animal / 派對動物』。
黒一色のステージ前方で横一列に並んだMONSTER(怪獸)(Gt)、MASA(瑪莎)(Ba)、ASHIN(阿信)(Vo)、STONE(石頭)(Gt)、一歩下がった後方にMING(冠佑)(Dr)。メンバーが放つスタジアムバンドとしてのオーラに圧倒される。
日本盤ではGLAYのTERUがフィーチャーされた日本語詞の『Dancin' Dancin’』。“そして僕は世界の果てのFireballになるのさ”という歌詞に合わせて会場内はレーザーが飛び交いサビでは赤色のペンライトが揺れる。その勢いのまま、ダンスフロアと化した武道館でサビのメロディーがキャッチーな『OAOA』へ。“今こそが永遠”というメッセージが込められたライブの定番ナンバーでは会場の様子がスクリーンに映し出される。
エンタメ最先端のステージ演出
2017年にスタートし100万人を動員した今回のワールドツアーでは、ポール・マッカートニーやレディー・ガガなどのコンサートツアーを手がけるリロイ・ベネットのセブン・デザイン・ワークスが総合演出を担当。ハリウッド映画並みの映像やレーザー光線、プロジェクションによって五感で楽しめるエンタメの最先端ともいえるステージが上陸した。一瞬たりとも目が放せない、まさに引き込まれるステージだ。写真:Viola Kam (V'z Twinkle)
ダークなムードから『出陣の歌 / 入陣曲』。MONSTER、STONEという個性の異なるツインギターはMaydayというバンドの両翼といえる存在。ステージが暗転し、モノクロのスクリーンに5人のシルエットが映し出されてはじまった『スーパーマン / 超人』。“地球を救うのは簡単なのに、なぜ僕らの愛はお手上げなんだ”、スケールの大きなメロディーが武道館を包む。
ここでステージが転換しスクリーンに映し出されたのは冒頭の映像の続き。地球を救ったMaydayの運命ははたして・・・。笑いの要素も盛り込んだ映像で会場は大いに盛り上がる。
再登場して歌う『君は幸せじゃないのに / 你不是真正的快樂』。アップテンポなナンバーからバラードまで自在に叩き分けるMINGとバンドの重心を支えコーラスも担うMASA。 5人ががっちり組み合うバランスの良さはMaydayの特徴でもある。
感涙必至のバラードと人生の応援歌
「こんばんは、Maydayです!」(ASHIN)、「ひさしぶりに会えてよかった。みんなご飯食べた?」(STONE)。リーダーであるMONSTERは流ちょうな日本語であいさつ。知り合いの格好いいお兄さんという雰囲気の5人。MCではメンバーの気さくな人柄が伝わってくる。空気がなごんだところでアコースティックセットによる『恋愛ING』そして『乾杯』。生まれてから死ぬまで感謝と永遠の愛を描いたPVで知られる代表曲で会場が熱唱する様子は感動的だった。
写真:藤川正典
ここからライブは中盤戦。『兄弟+人生有限会社 / 兄弟+人生有限公司』、『成功間近 / 成名在望』と最新作からのナンバーを続けて演奏。“LIFE(人生)”がタイトルになった今回のツアーで中核となるナンバー群をバラエティーに富んだアレンジで聴かせる。
感涙必至のバラード『The Yet Unbroken Part of My Heart / 我心中尚未崩壞的地方』では再び大合唱が起きる。大聖堂に見立てたステージでステンドグラスから光が差し込む演出は曲と相まってオペラのような荘厳さを醸し出していた。
『満ち足りた想い出 / 知足』では客席がスマホのライトを点灯し思い思いに振る。星空の下のようなステージで“満ち足りた気持ちさえあれば 心の痛みに耐えられる” と歌うASHIN。切なすぎる美しい光景が広がっていた。
舞台を船に見立てて大海原を往く『少年漂流記 / 少年他的奇幻漂流』。嵐の夜から明け方の黎明へ。臨場感あふれる演出の後は人生の応援歌『頑固』。夢を追う男の姿はここに集まったファン一人ひとりの心情と重なる。かつて「夢は涙と血の汗だけに生まれる」と語ったASHIN。“頑固”であること、それはMaydayにとってどうしても伝えたいメッセージであることを感じた一幕だった。
前進するバンドとファンの絆を象徴
再び鳴り響くエマージェンシーコール。地球を救うため飛び立つ5人。そしてリリースされたばかりの『I will carry you』へ。ライブと映像がひとつにつながることで生まれる尋常じゃない説得力。“地球を飛び出して 何もかも捨てて どこまでも高くジャンプしたい”と叫ぶ『瞬間少年ジャンプ / 離開地球表面』。ASHINがスロープを降りてステージ前方まで駆け寄ると、STONEとMONSTERは左右に位置を入れ替えながら客席に向かって叫ぶ。歌い終えると、あらためて日本のファンへの感謝を述べた後に『どこでもドア / 任意門』、『人生は海のよう / 人生海海』で本編を締めくくった。“人生は有限だが友情は無限大”、残されたスクリーンに彼らのメッセージが映し出されていた。
熱烈なアンコールに応えて『愛の記憶は突然に / 突然好想你』、『あっという間 / 轉眼』を演奏。それでもなお止まない大歓声に応えて『僕は僕に嘘をつかない / 倔強』を歌った。 “僕の意地 両手をぎゅっと握り締め 絶対に離さない”、2017年に結成20周年を迎えてさらに前進し続けるバンドとファンの絆を象徴する1曲に、会場もこの日一番のコーラスで応える。
「謝々!ありがとう!」2018 LIFE TOUR in TOKYOの初日はこうして幕を閉じた。世界的なスケールで活躍するMayday。この日武道館というロックの殿堂で目にした彼らの姿は、徹底してエンターテイメントを追求しつつどこまでも人間らしい等身大のスーパースター。それこそがアジアNo.1バンドの神髄であることを雄弁に物語るステージだった。
写真:Viola Kam (V'z Twinkle)
Text:石河コウヘイ