「上野から聴こえる君のエール」
2時間30分を超えるライブに吉田山田の音楽への向き合い方がよくあらわれていた。アットホームな雰囲気で進行した5年目の『吉田山田祭り』。前日に同じ会場で『吉田山田47都道府県ツアー〜二人またまた旅2019 ファイナル〜』を開催したばかりだが、盛夏にもかかわらずチケットはソールドアウトとなった。
「祭」と大書されたステージにバンドメンバーが現れて演奏をはじめる。どよめきの方向に視線を向けると、客席最後方からフラッグを掲げて吉田結威(Gt/Vo)と山田義孝(Vo)が登場。「行くぞー!」と叫んだ1曲目は「イッパツ」。
〈上野から聴こえる君のエールが胸焦がしてく〉と歌うと、会場の熱気は早くも急上昇。ザクザクしたギターが印象的な「街」を続けて演奏し、「『吉田山田祭り2019』へようこそ!最後の最後の最後の瞬間までどうぞよろしく!」と山田が叫んで「カシオペア」へ。
音が発散するエネルギーが円形の会場に放射される。この日、集まったファンは若者から家族連れ、年配まで各世代にわたっており、吉田山田という存在が幅広く受け入れられていることが伝わってきた。
1stアルバム収録の「涙流星群」、最新作『欲望』からブルージーな「虹の砂」を披露してMC。「あらためまして、みなさんようこそ!太陽に負けないくらい燃えて行こうぜ」から山田の定番の客いじりに、すかさず吉田がツッコミを入れて和ませる。
吉田自身も「めっちゃ楽しみにしてた」1年に1度の“祭り”。「夏をしめくくる最高の思い出をつくろうと思いますので、最後までよろしく」と話した。
新AL『証命』タイトル曲を演奏
デビュー10周年を迎える吉田山田。高校時代に出会って20年、結成から10数年を経て、2人のコンビネーションはますます冴えわたっているようだ。「最初のうちは楽しいだけでやってこれたけど、10年、本気で続けるにはそれだけじゃ足りなくて、ものをつくるときに本当に自分たちの命がかかっていると実感できた」(吉田)。その思いが込められた11月6日発売の7枚目のニューアルバムからタイトルトラック「証命」を歌った。
骨太で男らしい歌声が魅力の吉田と、高音域の澄んだトーンに身ぶりを交えて聴かせる山田。交互にリードを取りながら、歌声のキャッチボールで届ける「約束のマーチ」、ピアノとヴァイオリンをバックに奏でる「日々」と、アコギ弾き語りによる「赤い首輪」を続けて演奏する。
MCで互いを「老けたなー」とからかう場面もあったが、「山田と出会って音楽をはじめてからの15、6年は良い時間だったと本当にそう思う」(吉田)、「全然違う2人だからこそ、(歌声が)一緒に重なる瞬間はいまだに鳥肌が立つくらい気持ちいいです。
いちばんの特等席がここ(吉田の隣)」(山田)。そう言って歌う優しく包み込むようなハーモニーは、まさに吉田山田の真骨頂だった。
リスナーの間に壁をつくらない吉田山田
転換を挟んで後半戦は「SODA!」からスタート。近年はロックをはじめ楽曲の間口を広げている吉田山田だが、続く「カシスオレンジ」で、ファンキーなアレンジを鉄壁のアンサンブルで繰り出す。
色とりどりの照明が飛び交う「Color」では、「ソレソレソレソレ!」の掛け声を、客席も巻き込んで「パンダパンダパンダパンダ!」と一斉に唱和。
蛍光色の衣装をまとった“リードヴォーカル”山田の振り付け指導に、フィニッシュで決めフレーズをなかなか終わらせない吉田。
ベタと言えばベタだが、本人たちがノリノリで楽しんでいるので、見ているほうも安心して参加できる。
自分たちの楽曲を、何のてらいもなく聴き手に差し出す吉田山田のスタンスは、ある意味でいさぎよいとも言えるが、極限まで敷居を低くしたパフォーマンスには「聴き手との間に壁をつくらない」という2人の哲学が宿っているように感じられた。
「すべてのランナーに愛を込めて」
客席を座らせて、「タイムマシン」、「Today Tonight」をしっとりと奏でる。マイクを手にした山田は、タクシーの運転手にYouTuberに間違えられたエピソードを話し「自分もまだまだだ」と落ち込む。
そんな山田を吉田と会場が励ますシーンも。見事に復活した山田とともに「押し出せ」でネガティブを追いやり、疾走感のある「フリージア」を放つと、いよいよ祭りも終盤に突入する。
会場を山田の「ワッショイ!」チームと吉田の「ドッコイショ!」チームに分けて掛け声の応酬を繰り広げる「YES!!!」、「ここにいるすべてのランナーに愛を込めて」(山田)歌う「ガムシャランナー」で会場の興奮は最高潮に達した。
「みんなも手がパンパンで筋肉痛だけど、それも全部、今日のお土産だから持って帰って」(山田)、「来年は東名阪でやりたい。1回限りはもったいない」(吉田)と話すと、大きな拍手が送られた。
ラストは「『吉田山田祭り』にとってすごく大事な曲」(山田)という「夏のペダル」。夏空が目に浮かぶような音の情景に会場もふたたび「ワッショイ!」、「ドッコイショ!」コールで応える。
間奏でステージ中央の和太鼓を吉田と山田が叩き、最後は「全員で飛ぶぞー!」(吉田)と言って会場全体でジャンプ。
フィニッシュの瞬間、さわやかな風がステージと客席を吹き抜けた。
5年目の『吉田山田祭り』で吉田山田が表現したのは、普段着の音楽をファンと楽しむ空間だった。
山田自身、「タクシーの運転手にYouTuberと間違えられた」と話していたように、聴き手を身構えさせない佇まいによって、手を伸ばせば届きそうな水上ステージがさらに身近に感じられた。
適度な距離感で時代と並走しながら、自らの表現を更新する吉田山田の姿は、成熟社会におけるポップミュージックの役割をごく自然な形で示しているように思えた。
Text 石河コウヘイ
Photo by 松本いづみ・白石達也