Suchmosが横浜スタジアムに立つ意味
![](https://cdn.utaten.com/uploads/images/news/35937/5/0acfd2b481a4d961743685ed465da26f5d5be46f_l.jpeg)
Suchmosが横浜スタジアムに立つ。常々、目標は横浜スタジアムと公言してきたSuchmosのメンバーにとって、ホーム横浜にかける思いは特別なものがある。
2018年11月の横浜アリーナ2daysと今年3月からの全国7か所をめぐるアリーナツアーを終えて、6月のアジアツアーはHSU(Ba)の体調不良によりキャンセルとなったが、8月の『SUMMER SONIC 2019』を経て迎えたこの日。
関東地方を襲った超大型台風15号の襲来によりライブの開催も危ぶまれる中、最終的に開催を決断。バンドの新たな足跡を記した。
メンバーの多くが横浜市と周辺の出身であり、デビュー前から親交があるSuchmosにとって、バンドのアイデンティティを育んだ場所が横浜。
ロック、ブルース、R&Bやソウル、ジャズまでSuchmosを形成する要素は、開港以来、海外のカルチャーを受容しながら、独特の感覚で昇華してきた街の歴史ともオーバーラップする。
![](https://cdn.utaten.com/uploads/images/news/35937/16/054e80865132a90edb6db67b8fedb654ae2d6cae_l.jpeg)
この日演奏された「STAY TUNE」や「Alright」、「DUMBO」からも明らかなように、“消費社会を象徴する場所=東京への異議申し立て”というモチーフは、Suchmosの歌詞に繰り返し登場するが、それが単なるカウンターで終わらないのは、伝統に裏打ちされたDNAを持っていることと無関係ではない。
現れた瞬間から、シーンの対抗軸となるオルタナティブな存在感を放っていたSuchmos。
「STAY TUNE」でのブレイクと列島を巻き込んだ狂騒が過ぎ去ったとき、彼らが手にしていたのは、現代文明への批評的な視座と、レイドバックしたサウンドの奥にある生(き)の質感だった。
その音楽的進化の過程で、一歩一歩、手ごたえを確かめるように、自分たちのペースで会場のキャパシティーを広げてきた。
「いつ降り出すかわからない中、来てくれてありがとう!」
![](https://cdn.utaten.com/uploads/images/news/35937/10/9e5ddc9a73ba254b9777868401603bcfbe986b39_l.jpeg)
横浜スタジアムはそうした彼らの歩みの到達点であり、この日のライブはその期待にたがわない、第1期Suchmosの集大成と呼べるものだった。
ファンで埋め尽くされた会場に、ピンク・フロイド(正確にはデヴィッド・ギルモア)の「クレイジー・ダイアモンド(Shine On You Crazy Diamond)」が流れる。
SEが途切れると、イントロに続いてメンバーが登場する。1曲目は「YMM」。雨雲をぬぐい去るようにノンストップで「WIPER」へ。
のっけから強烈なグルーヴの応酬にやられる。「こんないつ降り出すかわからない中、来てくれてありがとう!パンパンじゃん!!」とYONCE(Vo)。天候を気にしてか、挨拶もそこそこに「Alright」、「DUMBO」と主張強めのアンセムを連投し、一気に会場の温度を上げていく。
![](https://cdn.utaten.com/uploads/images/news/35937/11/ff2aded45e0bb6fc0197cca781a9a3439d7b02cd_l.jpeg)
「やるか、やらないか、帰れるかどうかという人もいる中、こんなに来てくれて良かった」。YONCEは会場を見渡しながら、感慨を込めて話す。
「Miree」では〈終電で繰り出して渋谷で待って〉という歌詞の「渋谷」を「関内」と言い換えて客席から歓声を浴び、「Turn on the radio!」と叫んではじまった「STAY TUNE」で早くもライブ前半のハイライトを迎えた。
ライブ中盤では、KCEE(DJ)がエレキギターを手にした「In The Zoo」に続いて、「藍情(新曲)」でブルーに染まったスタンドが波間のように揺れ、「OVERSTAND」では、YONCEがアコースティックギターを手にして声を振り絞った。
![](https://cdn.utaten.com/uploads/images/news/35937/2/6b3edabb22f4d37472ac0f20c1e440fbf8d0915d_l.jpeg)
「不思議でおかしな人生をこの6人で歩んでます」
ここであらためて、このステージに立った喜びをそれぞれの口から伝える。「ここに立っているから特別じゃなくて、3万人の一部として、ともに引き寄せ会った仲間として見てくれたらうれしい」とOK(Dr)。
![](https://cdn.utaten.com/uploads/images/news/35937/9/4626cf84910c3921da31705848e53d845ee61fa0_l.jpeg)
HSUは「お待たせいたしました。お待たせしすぎたかもしれません」と話題のドラマのセリフで挨拶。「不思議でおかしな人生をこの6人で歩んでます。オレたちと皆さんは変わらない。音楽を好きな人間が全国から集まったのがここ。こうして目の前で見ることができて幸せです」と語った。
TAIKING(Gt)は「音楽が好きで、誇れるものが欲しくて続けてきた。夢が叶った瞬間」と満面の笑みで話した。
YONCEが「Suchmosをやっていなかったら、『オレってこんなことを幸せに感じるんだ』と気づけずにいたと思う。ステージに立つたびに新しい気持ちになるし、いろんなものを見つける旅をこれからもしていきたい」と言い、「歌おう!」と呼び掛けて「Mint」へ。
Suchmosのマインドを体現した1曲に続いて、アドリブのフレーズを挿入しつつ「TOBACCO」を演奏する。イオン濃度高めのねっとりとしたリズムのまま、「WHY」、「BODY」では、得意とする70’sレアグルーヴでスタジアムをダンスフロアに一変させた。
雨の中、3万人が刻む鼓動
![](https://cdn.utaten.com/uploads/images/news/35937/17/8294ef8ec4dd73b2e4e86023e1d1f93e6d29ae87_l.jpeg)
この日は、新旧の代表曲をまんべんなく披露したが、特筆すべきは「Hit Me, Thunder」でのサイケデリックなジャム、TAIKINGのギターソロが余韻を残す「Pacific Blues」など、最新アルバム『THE ANYMAL』と1stアルバム『THE BAY』のナンバーが違和感なく共存していたこと。
音楽的な変遷を経て、初期曲のナチュラルなヴァイブスに最新作のヴィンテージ感のあるサウンドが注入され、現在進行形のSuchmosの音として鳴っていた。
「ラストスパート、一緒に行こう!」。アジテイトするようなイントロが聞こえた瞬間に歓声が沸いた「A.G.I.T.」でホーム横浜を自分たちの「アジト」に変えると、TAIHEI(Key)の扇情的なエレピのフレーズが耳を引く「Burn」、そして「808」と畳みかける。
雨の中でも昂揚感はやまず、「メチャクチャになろう!!」と、続く「GAGA」で一気にアゲにかかり、ラストは〈風が吹けば/Show must be going on〉と歌う「VOLT-AGE」。3万人がひとつの鼓動を刻み、音が鳴り止んだ瞬間、雨は上がっていた。
![](https://cdn.utaten.com/uploads/images/news/35937/12/d21ca079419651d87a3f6a870f739cfcb1afaf1b_l.jpeg)
「あなたにわかってもらえるように」
アンコールで再登場した6人。「ここから見る景色を楽しみにしてきたけど、超最高だった!」とYONCE。続けて叙情的なピアノのイントロから「Life Easy」を演奏した。「ステージに立つこと、ここで歌うこと、あなたにわかってもらえるように」と、YONCEのソウルフルなアドリブが鳴り響く。この場所に集まった3万人を祝福するようなポジティブな余韻を残してステージを去った。
Suchmosの音楽にあるナチュラルな空気とヴィンテージサウンド、ひりつくようなエッジ。その根底には閉塞した現実への静かな反逆の意志が秘められている。
3万人を躍らせるフィジカルと音楽的な嗅覚を兼ね備えた現在のSuchmos。約束の場所・横浜スタジアムに立った普段着の6人から感じたのは、スタジアムバンドの風格だけでなく、すべてが始まった頃のような変わらないフレッシュさだった。
![](https://cdn.utaten.com/uploads/images/news/35937/20/ab962bee94acf46e41c234bb2769a1d1184c93ac_l.jpeg)
TEXT 石河コウヘイ
セットリスト
YMMWIPER
Alright
DUMBO
Miree
STAY TUNE
In The Zoo
藍情(新曲)
OVERSTAND
MINT
TOBACCO
WHY
BODY
Hit Me, Thunder
Pacific Blues
A.G.I.T.
Burn
808
GAGA
VOLT-AGE
En1. Life Easy