理性で止められない愛の衝動
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』主題歌として書き下ろされた米津玄師の『IRIS OUT』が、2025年9月15日にメジャー16thシングルとしてリリースされました。日本の各種音楽チャートのランキング全体で、29冠という歴代最多記録を樹立。
世界でヒットしている日本楽曲をランキング化した「Global Japan Songs Excl. Japan」では、集計4日間ながらビデオとオーディオを合算したストリーミング数が535万回を記録し、首位を獲得しました。
米津玄師と『チェンソーマン』といえば『KICK BACK』も注目を集めましたが、今作では差別化を重視したとのこと。
フルでも2分32秒と短い楽曲でありながら、ダークで緊張感のあるサウンドとラップ、飛び交う声などテクニックが凝縮された楽曲となっています。
また、歌詞は映画のストーリーに合わせてデンジとレゼの関係性にフォーカスし、やや暴力的に展開されているのが印象的です。
タイトルの「IRIS OUT」は、カメラの絞りのように画面が円状に縮小し暗転する演出を指す映画用語。
ストーリーとどのように絡むのか、全体の歌詞の意味を考察していきましょう。
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駄目駄目駄目 脳みその中から「やめろ馬鹿」と喚くモラリティ
ダーリンベイビーダーリン 半端なくラブ!ときらめき浮き足立つフィロソフィ
≪IRIS OUT 歌詞より抜粋≫
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「モラリティ」は道徳規範や倫理観のこと。
頭では「駄目」だとわかっていて、自らの道徳心が「やめろ馬鹿」と自分を制止します。
続く部分で「ダーリンベイバーダーリン 半端なくラブ!」とあることから、それは恋に関わることだと解釈できるでしょう。
恋してはいけない相手だと頭ではわかっているのに、衝動的に心惹かれずにはいられない様子が見て取れます。
そして「きらめき浮き足立つ」とあるように、道徳心の警告を無視して恋に浮かれていることもわかりますね。
「フィロソフィ」は哲学や人生観を表すため、その愛の気持ちがあまりにも強力なものであることが窺えます。
生と死をもたらす抗えない愛

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死ぬほど可愛い上目遣い なにがし法に触れるくらい
ばら撒く乱心 気づけば蕩尽 この世に生まれた君が悪い
やたらとしんどい恋煩い バラバラんなる頭とこの身体
頸動脈からアイラブユーが噴き出て アイリスアウト
≪IRIS OUT 歌詞より抜粋≫
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相手は「死ぬほど可愛い上目遣い」で自分を見てきます。
「なにがし法」の表現は、原作に登場するデンジの「嘘なんとか名誉なんとか罪」という発言からきているのでしょう。
正確にはわからないものの、何かの法に触れてしまいそうなほど罪深い可愛さであることが伝わってきます。
また、「蕩尽」は財産を湯水のように使い果たすことを指す言葉で、今まで蓄積してきたものを無に返すことを意味します。
恋に抗えず心が乱れるせいで、いつの間にか自分が積み重ねてきたものを無駄にしてしまっている状況が見えてきますね。
しかしそれも「この世に生まれた君が悪い」と開き直り、愛の吸引力には誰も抗えないことを示しています。
強い感情のため「やたらとしんどい」と感じ、理性と本能がせめぎ合うせいで頭と体がバラバラになるようにも思えます。
「頸動脈からアイラブユーが噴き出て」というフレーズは、この強烈な愛によって生かされると同時に死にも近づいている危うさを示しているようです。
「アイリスアウト」の技法は物語の幕引きに使われ、特定の人物にスポットを当てます。
このことから、世界が視界から閉ざされるほど心が恋する相手に一直線に向いていることと、恋によって破滅に向かうことの両方を表現していると考察できます。
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ひっくり返っても勝ちようない 君だけルールは適用外
四つともオセロは黒しかない カツアゲ放題
君が笑顔で放ったアバダケダブラ デコにスティグマ 申し訳ねえな
矢を刺して 貫いて ここ弱点
≪IRIS OUT 歌詞より抜粋≫
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この恋はいつも相手が上手で、「ひっくり返っても勝ちようない」ゲームのよう。
「君だけルールは適用外」のように自由に振る舞い、その姿に翻弄されています。
それはまるで初めから黒のみで始まるオセロのようで、圧倒的な差を感じさせます。
「アバダケダブラ」は、ハリー・ポッターに登場する死の呪文。
また「デコにスティグマ」は、ハリー・ポッターがアバダケダブラを防いだ際に額についた傷からの引用でしょう。
彼女は笑顔で殺しにかかる狂気的な恐ろしさと抗えない支配力をもって、巧みに弱点を突いてきます。
愛する君だけが大正解

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パチモンでもいい何でもいい 今君と名付いてる全て欲しい
頸動脈からアイラブユーが噴き出て アイリスアウト
≪IRIS OUT 歌詞より抜粋≫
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「パチモンでもいい何でもいい 今君と名付いてる全て欲しい」というフレーズは、正気を失うほど深く相手にのめり込んでいることを感じさせます。
まるで自分を好いているかのように思わせる言葉や仕草の一つひとつが全て偽りだとしても、それすらも受け止めて愛したいと思っているのかもしれません。
無我夢中で愛する気持ちが伝わってきます。
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一体どうしようこの想いを どうしようあばらの奥を
ザラメが溶けてゲロになりそう
瞳孔バチ開いて溺れ死にそう
今この世で君だけ大正解
≪IRIS OUT 歌詞より抜粋≫
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サビでは、意思とは反して大きく膨らんでいく想いが手に負えず、どう扱えばいいのかすらわからなくなっているようです。
「あばらの奥を ザラメが溶けてゲロになりそう」の歌詞は、あばらの奥にある心に染み渡る恋の甘さに圧倒されていることを示していると思われます。
さらに「瞳孔バチ開いて溺れ死にそう」は、恋に落ちた瞬間の衝撃や強い関心とときめきの感情が押し寄せている状態を意味していると解釈できそうです。
命の危険も感じる状況ですが、想いは一層募ります。
「今この世で君だけ大正解」とあるように、理性や道徳心も止められない盲目的な激しい愛に飲み込まれているようです。
その様子は人間の愚かさや弱さを表す一方で、人の間にしか生まれない強烈な愛の力の凄まじさも感じさせます。
愚かで狂っているからこそ惹かれるものがある。
デンジが魅力的に見えるのも、誰もが失ってしまいがちな純粋すぎる人間の本質を体現しているからなのかもしれません。
そうした人の複雑な本質を覗き見るようなスリリングな歌詞に引き込まれます。
映画のアニメーションとリンクするMVも必見!
米津玄師の『IRIS OUT』は、愛に翻弄され理性と衝動の間で揺れ動く感情を表現した楽曲です。MVでは映画のアニメーションが使用されており、映画を観る前も観た後も楽しめる作品となっています。
ぜひ映画のストーリーと合わせて、見事にリンクする世界観を満喫してください!