今年も夏フェスの季節が終わろうとしている。
秋の気配にどことなく淋しい気持ちになるが、「芸術の秋」にはまた新たな音楽イベントが目白押し。夏フェスやこれからの季節の音楽イベントで注目を集めている若手バンドは数あれど、今年特に引っ張りだこなのが、下北沢発の四人組ロックバンド・KEYTALKだ。
KEYTALKは昨今の邦楽ロックの主流である4つ打ちのダンスロックサウンドが特徴的なバンド。ベースボーカルの首藤義勝とギターボーカルの寺中友将による、パワフルで安定感のあるボーカルが楽曲を勇ましく彩っている。
そんな彼らの楽曲の中でもフェスで大人気なのが、2014年に発売された『MONSTER DANCE』。
鋭利でキャッチーなギターリフから展開されるこの曲は、鼓膜を激しく揺さぶるようなアツさとノリの良いテンポ感から「踊り出さずにはいられなくなる」と評判だ。しかし、その理由は単純に「ノリの良さ」だけではない。
実はこの楽曲、最近の邦楽ロックの中でも特殊な点が多い。まずは、KEYTALKの最大の特徴である男性ツインボーカル。最近の若手邦楽ロックバンドのトレンドとして、凛として時雨やシナリオアートのような男女ツインボーカルがあるが、男性同士のツインボーカルを全面に押し出しているバンドはKEYTALKの他に類を見ない。
声質の高低差を活かした男女ボーカルの美しさとは異なる、男性ふたりによるボーカルだからこその力強いグルーブが、この楽曲特有の「アツさ」を更に際立たせている。
また、テンポチェンジの多さも特徴的な点のひとつだ。1番サビの後、2番サビの後、更には大サビの前にまで施された大胆な転調が、予測のつかない展開を作り出して楽曲をより一層個性的なものにしている。
言ってしまえば、一曲の中に三曲ぐらいの要素が詰め込まれているような感覚にさせられるのだ。
更に、楽曲の印象的な部分である「サビ」がふたつある、いわゆる「二段サビ」の手法をとっているのも珍しい点だ。
"踊れ踊れさあさあ踊れ
騒げ騒げさあさあ騒げ"
"(monster dance!!)踊れや騒げや
(ya ya ya!!)朝が来るまで
(monster dance!!)激しい胸騒ぎ
最高のsixth senseでdance dance dance!!"
このふたつのサビが畳み掛けるように続く構成になっている。
では、何故こんなにも「変わった」楽曲であるにも関わらず、初めて聴いた人でも「ノれる」「踊りたくなる」と言われるのだろうか?
その最大の秘密は、「歌謡曲っぽさ」にある。
「歌謡曲」と言う言葉を聞くと、歌詞やメロディが覚えやすく歌いやすい、と言うようなイメージが湧くと思う。複雑な転調や展開が特徴的なこの楽曲には、実はそんな「歌謡曲」の要素が巧妙に仕掛けられているのだ。
まず、メロディのひとつひとつがキャッチーで覚えやすい点。リズムの変わる各パート毎にメロディも全く変わるのだが、そのどれもがとても覚えやすく、耳に残るものになっている。更に何処か演歌を思わせるようなブルースっぽさもあり、ついつい口ずさんでしまうような魅力がある。
更に、そんな覚えやすいメロディにきっちりフィットする、一文一文がキャッチフレーズのような歌詞。
"「熱い熱いよ熱すぎる 僕にはちょっと早すぎる」
「(How to!!)もっとすごいの教えて
(No No!!)そんなんじゃどうってことないよ
(Give me!!)もっとすごいの教えて
(Six six!!)sixth senseでさようなら」"
このような語感とゴロの良いフレーズがそこかしこに散りばめられているため、一度聴いたら耳にこびりついて離れない程のキャッチーさを演出しているのだ。歌詞の中には「君と論理? 倫理? 感情? 許せばOK!」「進め 歌いながらナイアガラ」のようなナンセンスな言葉遊びも挟み込まれ、その中毒性のあるビート感を更に際立たせている。
KEYTALKの他の楽曲にも見られるこのような特徴のルーツは、作詞作曲を手掛けたベースボーカルの首藤が「桑田佳祐の影響を受けている」と公言しているところからも察せられるだろう。
『MONSTER DANCE』を聴いていると歌い踊り出したくなる最大の理由は、私達日本人の感性に自然とフィットする歌詞やメロディなのだ。
MVを見るとわかるように、この楽曲には振り付けもついているので覚えれば更にライブが楽しくなるかもしれない。何であれ難しい事はひとまず置いといて、一緒に歌って踊ってみては?
TEXT:五十嵐 文章