誰もが目指す大舞台
Zepp DiverCity。アーティストがこの舞台に立つことを夢見て目標とするこの場所で、同じくこの舞台に立つことを目標としてきたTHE ORAL CIGARETTESがワンマンライブを行なった。7月14日、雨続きだった天候も彼らに味方し、日が落ちても暑苦しいほどの晴天の中たくさんのファンたちがZepp DiverCityへと足を運んだ。
オールスタンディングで満員のフロアは熱気を帯び、開演を今か今かと待ちわびていた。
オープニングの映像が流れ出すと大歓声大拍手が起き、「ジ オーラル シガレッツ」と書かれた幕が上がった。まるで何かのショーを見ているような新しい感覚に包まれ、これから始まるライブへの期待が高まるなかメンバーが登場すると更に歓声は大きくなり、会場にいる全員が両手を彼らに向けた。
登場から息もつかぬまま1曲目へ突入し全員がリズムに合わせて手を振りそれに応えるようにVo./Gt.山中拓也(以下、山中)は「さぁ、遊ぼうぜ!!」と叫び、ファンも声援で応える。
ファンの息はピッタリで、曲調の変化に合わせてクラップやヘドバン、ジャンプを繰り返した。しかし、心配なことに山中の歌声がいつもとあきらかに違う…。調子が悪いのか、ファンの間でそう囁かれながらも山中は必死に声を振り絞っていた。
4曲を終えて山中は「オーラルのワンマンにようこそ!全力でやるよ、全力で。」と宣言。
MCで芸人顔負けのトークを展開し会場を笑いに包んだ直後の6曲目、会場が予想もしなかった事態が起きる。
6曲目『自動販売機の男』は印象的なメロディと歌詞でファンも大盛り上がりだったが、曲の途中で突然山中はしゃがみ込む。
再び歌うことなく曲が終わってしまい、はじめは演出かと思っていたファンも心配の色を浮かべる。
3人によるMCタイム
そのままスタッフに連れられ舞台を去った山中に対し、「拓也さん、大丈夫?」と声をかけるGt.鈴木重伸であったが、山中からのレスポンスはなく急遽Ba./Cho.あきらかにあきら(以下、あきら)と、Dr.中西雅哉3人によるのMCタイムとなった。動揺するファンたちの前でなんとか集まったファンを楽しませようとする3人は、先ほどまでの激しい演奏からは想像できないほど繊細で優しい一面を見せる。
目の前でしゃがみこんだファンに対して「落し物かな?なんかしんどいんか?みんなも周りに気遣ってあげてな?」と声をかけ、だんだんと会場も一丸となっていく様子が感じ取れた。
と、ここで山中が突然歌えなくなってしまった理由をあきらが語った。彼は今回のツアー前から喉の調子を崩していて、年に一回ペースで来る体調不良が今回のツアーと重なってしまったということだそうだ。
しんみりしてしまった会場を盛り上げようとトークを続ける3人に会場からもレスポンスがあったのをきっかけに、ファンとメンバーが直接会話できる貴重な時間が生まれた。
その後も一番遠くから来たお客さんを探そうというくだりでは「トルコ!」と答えたファンの一言で大いに盛り上がったが、一旦山中の様子を見に行くと3人のメンバーも舞台から姿を消した。
それからしばらくしても会場をあとにするファンはおらず、帰ってくるメンバーをひたすら待ち続けた。
山中がいなくなってから30分ほど経った頃、あきらとメンバーが舞台に戻ってきた。
会場からは大きな拍手が起こり、山中は「みんな、ほんまにごめん」と謝罪したあと今回の出来事について自分の思いや感謝の気持ちと謝罪の言葉を語り続けた。そして「あと何曲歌えるかわからんけどやれるだけ俺らにやらせてください!」とメンバー全員で深々と頭を下げ、会場はあたたかい拍手で見守った。
そして7曲目『大魔王参上』が始まると会場の温度は開演時の盛り上がりまで再び急上昇し、山中をいたわるようにファンたちが大きな声で一緒に歌いだしたのであった。
9曲目『カンタンナコト』は新曲であるにも関わらずファンの反応は最高潮、食らいつくように身体を揺らしたファンにとっても、新曲の反応を楽しみにしていたメンバーにとっても、一生忘れられない思い出の曲になったことは言うまでもない。
この日最後の曲となった『エイミー』の歌詞には「愛しき人よ 僕の声は君に届いてますか?」とあり、山中も一言一言を噛みしめるようにそのフレーズを歌う。間違いなくこの瞬間ファンを想う山中と、暖かな心で歌詞を受け取ったファンの間にこれまで以上の絆が生まれた。
山中はこの曲を歌い終えると、立っている力すら残っていなかったのか、その場に倒れこむようにしてメンバーに支えられながら深々と礼をし、舞台を去っていった。
いつもならすぐに起きるはずのアンコールだが、会場の誰もがこのあとにも公演を控えているメンバーを気遣い「ありがとう!」「楽しかったよ!」と声を寄せた。
その声に応えようと再び舞台に戻ってきたメンバーは深々とお礼を伝え、山中は「今日で失ってしまったものもあると思うけど得たものの方が大きい」と語った。
「THE ORAL CIGARETTESでした!また会いましょう!」と締め、これにて終演となったがエンドロールの映像が流れている間も誰一人として会場から出て行かず、THE ORAL CIGARETTESに拍手を送り続けた…。
今回のライブはボーカルが不在のまま30分メンバーがMCをするという異例事であったが、客席から聞こえる声援や拍手のあたたかさは彼らの心に染みていき、この先も彼らを支え続けることだろう。
そしてファンにとってもオーラルの歴史に残るライブに立ち会い、メンバーとの距離を一気に縮められたという貴重な体験であったことは間違いない。
倒れ込んでしまうほどの体調のなか7曲を見事歌いきったVo.山中拓也と、率先してMCを引き受けたVo./Gt.あきらかにあきら、大変な時だからこそファンへの感謝や謝罪とは違った気遣いを忘れずにいたGt.鈴木重伸、普段MCはしないのに会場を大いに沸かせたDr.中西雅哉。メンバー同士の愛やファンからの愛、そして彼らからファンへの愛をたくさん感じることのできたライブであった。
TEXT:愛香 / Photo by Viola Kam
-セットリスト-
1.GET BACK2.モンスターエフェクト
3.ハロウィンの余韻
4.N.I.R.A
5.リメイクセンス
6.自動販売機の男
7.大魔王参上
8.mist…
9.カンタンナコト
10.STARGET
11.Mr.ファントム
12.起死回生STORY
13.エイミー
-THE ORAl CIGARETTESメンバー-
山中拓也 VO./Gt.あきらかにあきら Ba/Cho.
鈴木重伸 Gt
中西雅哉 Dr