通算11枚目のシングルとなる『イト』は、観客動員数100万人を突破した大ヒット映画「 帝一の國」の為に書き下ろされた曲だ。この作品の内容が、生徒会長選挙を巡る熾烈なバトルが描かれている事から、 “操り人形”がテーマとなっている。誰かに操られているのか、はたまた自分自身に操られているのか。何かに翻弄される様々な“イト”が盛り込まれた『イト』を紐解いてみたい。
今までのクリープハイプの楽曲の中では、「オレンジ」や「ラブホテル」に近いものを感じたが、ダンスミュージックを彷彿させるストリングスと、耳に強く印象付けるキャッチーでポップなメロディー。クリープハイプという音の集合体の完成度に驚かされた。Aメロの部分では、尾崎世界観のハイトーンボイスを封じ、周りの音も最小限にし、サビからの盛り上がりを前にスタンバイ。Bメロから徐々にキーも上がり、クラップも入れつつ、サビで全てが弾け、尾崎世界観のハイトーンボイスも突き抜ける。ワクワク感溢れる展開が聞いていて楽しい。映画が持つ躍動感にも合致していた。
クリープハイプの曲というと、やはり尾崎世界観の独特な歌詞が気になる。タイトルともなっている“イト”を少し掘り下げてみよう。先ずは“糸”というキーワード。
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この度はどうも 末長くどうか
誰かの糸で ぎこちないお辞儀
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操り人形を繋ぐ糸。自分の本心では無い、ぎこちないお辞儀。組織という部屋に閉じ込められた主人公達の息苦しさが伝わる。そして、「帝一の國」のワンシーンで出てくる糸電話。糸というのは、人と人を繋ぐもの。操り人形と糸電話が直接的に繋がるものではないかもしれないが、映画を見た時に、同じ糸だ!と気付いた時の喜びがある。こういう遊び心も面白い。
そして“意図”というキーワード。
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この旅はどうも 雲行き怪しい
誰かの意図で やるせない動き
映画の物語の中で重要なキーワードとなっている。この学園生活を旅というものに例え、誰かに指図され、誰かのために動くという、先行き不安な感情が伝わる。その操り人形は、操る相手に意図があれば、操られる自分にも意図がある。心理戦で互いに翻弄されながらも、最終的に糸がプツンと切れ、ありのままの自分の姿に戻る。
いつかこの糸が千切れるまで 今は踊れ手のひらで
どうか重ねた手の温もりで 何度でも探せ
いつか纏わりつくこの糸を 運命と呼べるその日まで
どうか重ねた手を掴むまで 何度でも壊せ
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“手のひらで躍らせる”という言葉を前向きな言葉として使っている。誰かに操られる事は、決して気持ちの良い事では無い。だが、相手を信頼する為に我慢をする事で、自分への評価に繋げる事が出来る。そして、この邪魔臭い見えない糸が、運命と繋がっていると信じれば、その手を掴む事さえ出来る。これが、尾崎世界観が培ってきた、厳しい世界を生き抜くための“イト”だ。
人間の奥底に眠る、欲深さと狡さ。それを敢えてポップに歌う『イト』。一つの作品に対し、近すぎず遠すぎない程よい距離感を保ち、相乗効果を発揮しているこの主題歌。
映画サイドと楽曲サイドがしっかりと手を取り合って、良いものにして行こう!という“意図”が一つの“糸”となり繋がっている。映画すら、尾崎世界観の熟孝され産み出された作品なのだ。
クリープハイプとは、音楽活動に限らず、多方面で才能を発揮しているフロントマン、尾崎世界観(ボーカル&ギター)、長谷川カヲナシ(ベース&コーラス)、小川幸慈(ギター)、小泉拓(ドラム)で結成された4ピースバンド。その楽曲9割の作詞作曲を、尾崎世界観が担当している。クリープハイプというのは、尾崎が、高校生の時に作ったバンドで、幾度によるメンバー脱退を経て、一時期はソロユニットとして、サポートメンバーを付けて活動。その後、2009年11月から現メンバーでの活動を開始し、現在に至る。
公開日:2017年7月9日