強烈な敵っていうのじゃなくなってきて、人間になってきた
――今回のアルバム『ぺっとぼとレセプション』のテーマには、欲望だったり、ありのままの自分でいたい、みたいなテーマが見え隠れするような新曲が多いように感じたんですけど、全体的なテーマというのはあったんですか?ましのみ:今回は1番始めに寄り添いたいというのが1つある中で『ぺっとぼとレセプション』というタイトルになっていて、それを大軸として作っているアルバムなんです。
もともとデビューアルバムが『ぺっとぼとリテラシー』で、1年くらい経つんですけど、それまでは全国流通すらしたことがなかったので、世間に対して出すにあたって、世間というのが、何者かわからない、超でかい壁、超でかい怪物みたいな感じで。
そこと戦うというイメージで作りました。棘のあるものをたくさん入れて、“自己紹介です”ということで出したアルバムだったんです。
だけど、それを持って色んな所にライブをしに行ったりとか、リリイベでサイン会とかがあったりすると実際聴いている人の顔が見えて、曲に対する感想をもらって、こういう人がこういうふうに聴いているんだっていうのが、1年でだんだんわかってきたんです。だから世間がだんだん、怖くて強烈な敵っていうのじゃなくなってきて、人間になってきたというイメージですね。
戦うとかハングリー精神というのは、私の中に変わらずずっとあるんですけど、そこにプラスしてだんだん聴いてくれている人に対しての優しさとか愛情というものが私の中で乗っかってきて、そういうところから聴いてくれている人に少しでも幸せな方向になってほしいということで曲を書いているんです。
もっと私がそれに寄り添って、伝わるように愛情が沸くからこそ優しく届けたい。伝わりやすいように私が寄り添いたいという気持ちになってきて。だから、私から手を差し伸べて、ましのみっていうものの中に聴いてくれた人をエスコートするというアルバムを作りたくなったんです。だいたいそれで変わってくるのが、言葉選びとかメロディーとか構成なんですけど、書きたい、伝えたいテーマというのは、そんなに自分の中で逸脱してないし、こう思うのに真逆のことを書くとかは、寄り添うからと言って全然ないです。
――最後におっしゃってたように、構成だったり言葉選びが変わったということですが、うちは歌詞サイトなので言葉選びと言うところにフォーカスを当てたいんですけど、具体的に丸くなったとかそういうイメージですか?
ましのみ:曲によって全然違うんですけど、4曲目の『美化されちゃって大変です』とか、7曲目の『錯覚』とか、9、10の『ターニングポイント』『ゼログラビティのキス』とかは、アルバムの始めのほうに制作した曲で、寄り添いたいという思いで書いた曲なんです。
例えば、『美化されちゃって大変です』では、恋の1番始めの、盲目になって頭が働かないでバカになっちゃってるところに対して、私が自分の欲しい刺激だけを求めるんだったら、もっとエグイ言葉とかマイナスの表現を使ってそこの盲目さを表現するのに対して、1回プラスの言葉だけを使って、本当に盲目でキラキラになっちゃった状態を、そのままの景色で表現したらどうなるんだろうっていうテーマで書きました。
そういう表現をしたことによって自分の中で出てきたものだったりとか、言葉を全部ワーッと詰め込み過ぎないで、緩めに歌ってみたらどうなるだろうとか、メロディーだったり歌詞の詰めかただったりとかっていうのを決めて、それを寄り添うっていうこととして作りました。
こっちの言葉とこっちの言葉どっちがいいかな? 同じくらい刺激的な言葉だけど、同じくらい好きな言葉だけどどっちがいいかな?っていう時に、こっちの言葉の方が伝わりやすいなっていうことで選ぶようになったり。そうやってさっきの曲とかは作りました。
でもその反動で、自分の好き勝手書いちゃった曲も何曲かありますね(笑)。そういうのも作ったから、それがどう届くかっていうこともコミコミで、実験してみたかったという気持ちもあります。それが実際寄り添う曲になるかも分からないので、それは出してみてからだなと思っています。
でも、そんな形で曲作りがスタートしたから、反動ですごい刺激的なものが欲しくなっちゃったので、それに従わないのは健全じゃないなと思って、いろんな曲ができましたね。
――いろんな曲を詰め込みたいというところから始まった、幅の広さなんですね。じゃあ『美化されちゃって大変です』は、ちょっと気持ち悪いくらいキラキラしているという。
ましのみ:そうですね、ラメラメとか言っていいのかぐらいの感じです。こんなに大まかな歌詞でいいのか、どうしようと思ったんですけど。
実際これくらいバカになるのが本当の状況なのでは、実際バカになるよな、じゃあ正解だなと思って。私の中でもいいなと思えたし、聴きやすいいい曲にもなったかなと思うので、じゃあどう皆さんに届くか楽しみだなっていう、そういう作り方をしています。
――歌詞に「濃すぎる恋のフィルター」ですとありますが、フィルターが外れる瞬間ってどういうときなんでしょうね?
ましのみ:だんだんじゃないですか?何かを見て、とかもありますよね。すごい食べ方汚いみたいな。(笑)
――そういえば、何で私この人のことこんな好きなんだろう、あれ、みたいな(笑)
ましのみ:それが外れる瞬間、それが薄れていく瞬間は『フリーズドライplease』で、たまたま繋がってしまったんですけど(笑)
自分の気持ちなのに冷めていってしまう瞬間
――『フリーズドライplease』さすがだなと思いました。しょっぱなからましのみワールド全開だなと思って。よくこんな言葉が出ましたね!!ましのみ:フリーズドライっていう言葉がいいなと思ったところから作ってはいたんですけど、でも元々ずっと考えていました。好きだっていう熱量ってすごいものじゃないですか。恋愛だけじゃなくて、何かのファンとか、グッズとか何でもいいんですけど、それが自分の意図しない所で自分の気持ちなのに冷めていってしまう瞬間って、それってすごく空しいじゃないですか。
その時にどうやって前を向けばいいんだろうって結構考えていたことだったので、『フリーズドライplease』という言葉が浮かんだときに、絶対これだと思って書いたっていう感じですかね。フリーズドライしてください、お願いします。
――今のお話しだと、フリーズドライっていう言葉からテーマが生まれてきた感じなんですか?
ましのみ:『フリーズドライplease』っていう言葉で作りたいっていうのから思い出したんですよね。普段考えている気持ちが簡単に意図しないところで、努力してもだんだん冷めていっちゃったりとか、それは2人の関係もそうなんですけど、それってすごい悲しいし、安定がほしかったのに、安定が空しいみたいなのってあるじゃないですか。
そういうのが、そこから触発されて考えていたのがパッとつながったので、書くしかないなと思って。
――この主人公は、自分が冷めていくのが嫌なんですか?
ましのみ:全部ですよね。相手が冷めていくのも、2人の関係が冷めていくのも自分が冷めていくのも嫌だけど、個人的には、相手が冷めていくのはもうどうしようもないって分かるし、2人が冷めていくのも悲しいだろうけど、自分の気持ちが自分の努力でどうにもならないってどうしようもなく空しいなって思うので。私個人的にはそこが1番なのかなとも思うんですけど、、、でも全部ですよね。(笑)
――私も、自分の意図しないところで冷めていくのってあんまり経験ないかもしれないです。誰かが良い人だからって言おうが、嫌いってなったら嫌い、みたいな感じですよね。
ましのみ:自分でちゃんと嫌いになれる。というか、好きなんだけど、好きのレベルが落ちていく感じですかね。例えば恋愛じゃない話で例えるとしたら、めちゃくちゃこのアーティストのファンで、すごいCDも買うし、ライブも行くし、すごい大好きだったけど、自分の生活とか価値観とかが変わっていく中でそうでもなくなって、サブスクでよくなったりとか。
――そういう時って、なんで冷めることに対して悲しいっていう感情が伴ってくるんですか?
ましのみ:多分それは大好きすぎて、この気持ちだけは冷めないって信じていたから。
恋愛もそうだと思うんですけど、普通に考えて半年、1年、2年、3年って経って冷めていくものだよっていうのはどこにでも書いてあるし、みんな言うし、それはそうなんだけど、私たちだけは僕たちだけは、この関係は絶対そんなことないから、他の人たちとは違うから絶対これは冷めるはずはないと信じていたからこそ、結局普通だったというか。
幻だったと思う瞬間が、とてつもなく空しいというところがあるなと思っていたので。
――恋とかすごく遠い話なので忘れかけてました(笑)。そういうのを信じていた時代もあったなということは思い出しました。ずっと一緒とか、ずっとラブラブみたいな(笑)
ましのみ:美化されちゃっている状態ですね(笑)
――今回のアルバムは、ちょっとこっぱずかしくなりますね(笑)思い出すと恥ずかしいみたいな。大人にはそういう楽しみ方をしてもらいたいですね(笑)
ましのみ:思い出してもらえるとありがたいですね(笑)
――でもここで歌われているくらいのレベルの「冷めてる」なら、いい関係じゃんって思いますけど!
ましのみ:そうですよね、いい関係なのに空しくなっていって、良くないんだけど空しくなっちゃうっていう時に、前を向けたらいいなと思って。