「桜が咲く前に」の設定は前シングル曲「東京」から10年前の世界
すでに、作者の佐藤千亜妃がコメントしているように、『桜が咲く前に』は、それ以前にリリースされた楽曲『東京』から10年前のストーリーとなっています。また、歌詞の舞台に関しては明確な言及はありませんが、佐藤の故郷である岩手県盛岡市と考えて良いかと思います。
参考までに、PVも岩手県盛岡市でロケが行われています。
つまり、佐藤が地元の岩手を離れるときの心境がそのまま歌われているのです。
ただ、歌詞の中の主人公は男性にアレンジされていますね。
「桜が咲く前に」の歌詞を解説
『桜が咲く前に』は、若者が自分の夢を実現するために、今の土地から旅立つ思いを書いた青春歌です。----------------
真夜中の校庭に忍び込んでさ
星空をただ見上げてた
飲めやしないお酒片手に
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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夜、誰もいない校庭で星を眺めながら1人思い出にふけっている主人公の姿の表現です。
「校庭」「飲めないお酒片手に」という表現から、主人公は高校卒業間近の人物と思われます。
通っていた学校にはたくさんの思い出が詰まっているのです。
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どうしても叶えたい夢があってさ
ここじゃたぶん叶わない気がするんだ
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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若いがゆえに何かをやり遂げたい、しかしここではそれが実現できない、というストレートな感情表現をしている部分です。
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お遊びで積み重ねた
ハッピーアイスクリーム
100を超えたぜ
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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「ハッピーアイスクリーム」とは、2人の人間が、偶然に同じ言葉を発してしまったときに「ハッピーアイスクリーム!」と先に言ったほうが勝ち!という他愛ないやり取りのこと。
それか、もしかすると、佐藤千亜妃にしかわからない何らかののゲームを指しているのかもしれません。
また、ここの語尾の使い方から、主人公は男性であると感じられます。
曲はサビに突入し、主人公は決意を語り出す
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どんなにきれいな思い出も
胸を苦しくさせるだけなんだ
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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この場所を離れようとしている今の自分にとって、楽しい思い出はつらすぎる…そんな思いを表現している部分です。
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桜が咲く前に
ここを出てゆくことにしたよ
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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作者の佐藤千亜妃も言っているように、岩手の桜は4月後半頃から咲き始めます。
つまり、この部分から、歌詞の設定は4月下旬よりも前の時期と推測できるでしょう。
主人公は、ちょうどその頃に、この土地から出ていくことを決めたのです。
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10年後の君は
どこで誰と笑っているのだろうか
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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前述の通り、この曲は、『東京』の10年前を思い起こして書かれた曲です。
つまり「10年後の君」という表現により、聴いている人に『東京』との時間(時代)の関係を意識させてくれます。
もちろん、『東京』という曲を知っていることが前提の話ですが…。
シンプルなギターソロの後は思い出と決意の葛藤
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明日また会えるかな 心躍らせ
祈ってた青春も過去になるんだね
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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「どんなに楽しいことでも、いずれはすべて「過去」に変わってしまう…。」
ちょっと切なくしんみりした嘆きですね。
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いくつもの可能性は
輝いてるが
この体はひとつだけ
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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これからの人生、やりたいことはたくさんあります。
しかし、身体はひとつだけ。
すべてが可能になるなど、ある訳がないのです。
曲は盛り上がりと盛り下がりがたくみに交差しそしてエンディングへ
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選んだ愛を疑わない良識者も
目が眩んでいつしか未来を望んだ
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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「選んだ愛を疑わない良識者」…佐藤千亜妃らしい表現です。
「この愛さえあれば何もいらないと思っていたけど、いつの間にか自分は未来を向いてしまっている…」
そんな思いを表現している部分です。
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ふわりふわりと舞う
粉雪が頬を濡らした
守れない約束なんてしないよ
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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ここで「粉雪」という言葉が出てきますね。
実は、私は岩手には何度か行ったことがあります。
3月の盛岡は雪が舞っていても珍しくありません。
場合によっては4月上旬でも雪はちらつきます。
そして、前述の通り、岩手で桜が咲くのは4月下旬頃です。
つまり、ここの歌詞から見えるのは「3月下旬から4月上旬頃の時期」で、この時期にここから出ていくことを決意したことがわかる部分です。
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桜が咲く前に
ここを出てゆくことにしたよ
どこにいても
君がくれた言葉を強く抱きしめて
また歩き出そう
≪桜が咲く前に 歌詞より抜粋≫
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"君と作り上げた思い出は決して忘れない。君がくれた言葉を強く抱きしめて、新しい人生を歩き出すよ!"
そのような決意で曲は終わります。
Ba谷口滋昭の心境はまさに「桜が咲く前に」そのもの
2019年5月27日、きのこ帝国は無期限の活動休止を宣言しました。ベーシストの谷口滋昭が家業のお寺を継ぐために脱退し、さらに「メンバーチェンジはしない」とバンドが判断したためです。
谷口は、30才という節目の年齢ということもあり、本人としてはかなり以前から悩んでいたことなのでしょう。
ファンはもちろんメンバーも知らない、谷口ならではの事情も多数あったのではないかと推測します。
いずれにしても、他のメンバーは全員、この谷口の意思を受け入れました。
そして、そんな谷口滋昭の心境は、今回紹介したの『桜が咲く前に』の歌詞と丸かぶりしていると、私は感じたのです。
つまり、佐藤千亜妃が故郷を離れるときの心境と、今、谷口滋昭がバンドを脱退する心境が、おそらく同じなのであろうなと、私なりに感じてしまいました。
いずれにしても、これからは「どこにいても君がくれた言葉を強く抱きしめて また歩き出そう」という気持ちで、新しい人生を歩んでいってもらえればと、強く願っています。
TEXT 猫あられ