壊れないように
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今日もまたもらった両手の雨を
瞳の中に仕舞って
明日またここから幕が開くまで
一人お家へ帰る
≪化物 歌詞より抜粋≫
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生きていくのは大変だ。毎日こちらが望んでもいないのに、不条理が顔を覗かせ割り込んでくる。現代社会に身を置く人たちは、よりその経験を多く受けているだろう。
辛いことや悲しいことは天気の移り変わりのように、何もせずとも勝手にやってきて、自分の上に、雨のように降ってくる。その雨が自分の中に溜まり、どうしようもなくなれば、自然と涙となって溢れてしまう。
しかしそのまま流してしまえば、自分がこれまで必死に守ってきたものが壊れてしまい、“イマの生活が変わってしまうのではないか”といった危機を感じて、必死に堪え仕舞うことにする。
そしてまたこれまで通りの明日を迎えるために、平常を保って家路につく。そんな毎日を繰り返して来たことが、ここでは歌われている。
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風呂場で泡立つ胸の奥騒ぐ
≪化物 歌詞より抜粋≫
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身体を洗って湯船に入る。これらは日々の習慣となっている一連の行動の為、毎日その手順について深く考えることはない。それ故これらの作業中に、脳は他のことをよく考えてしまう。
その結果、嫌な記憶を思い出し、自問自答を繰り返してしまう。
一度生まれたら止めどなく発生してしまう。それは泡のようにどんどんと膨れ上がり、やがて自分を飲み込んでいくのだ。
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誰かこの声を聞いてよ
今も高鳴る体中で響く
叫び狂う音が明日を連れてきて
奈落の底から化けた僕をせり上げてく
≪化物 歌詞より抜粋≫
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“本当は泣き叫びたい” “本当はこんなことはしたくない” “本当はイマを壊したい”
自分に眠る様々な本当の声が叫び続け、身体の中で響いている。変わりたいのにギリギリのところで変われない自分の声が、どうしようもない明日を連れてくる。
そして偽りの姿に化けた自分のまま、明日に向かうのだ。
消せない本当
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何気ない日々は何気ないまま
ゆっくり僕らを殺す
そしてまた変わらず何も起こらず
一人お辞儀で帰る
≪化物 歌詞より抜粋≫
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自分を偽りながら、何も壊さないように、いつも通りの日々を過ごす。大きな転機も波乱もないまま過ぎる日々は、平和のように見えるが、ゆっくりと“変わりたい自分”を消そうとしてくる。
それに気づいても、どうすることもできない自分は、いつも通りを変えることができないまま、いつも通りに一日を締めくくることしかできないのだ。
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それでも始まる逆襲の予感
≪化物 歌詞より抜粋≫
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しかし、どれだけ抑えようとも消せない想いがある。それこそ自分にとって本当に忘れてはならない大事なことだったりする。
僅かでも、偽ることのできないモノの存在を身体で感じ取った時、それは、イマを変えられるキッカケなのかもしれない。
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今はこの声は届かず
未だ叶わぬ体中で藻掻く
思い描くものになりたいと願えば
地獄の底から次の僕が這い上がるぜ
≪化物 歌詞より抜粋≫
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イマを変えたい僅かな声に心が気づいても、すぐには体は反応しない。
“その時は、ここではない”、“まだ準備が足りない”と諌めてしまい、何もできないまま時間が過ぎていく。そしてまたいつも通りの明日を迎えてしまうことになるが、一度気づいた想いの声は、日増しで膨れ上がるものである。
そして、体中で暴れる声を抑えられなくなった時、人は望む明日を創り出そうとする。
真に化けた自分
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誰かこの声を聞いてよ
今も高鳴る体中で響く
思い描くものが明日を連れてきて
奈落の底から
化けた僕をせり上げてく
知らぬ僕をせり上げてく
≪化物 歌詞より抜粋≫
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自分の理想、自分の夢、やり残した事、捨てきれない事、本当の自分が、“叶えてくれ” “その姿になってくれ”と叫びだす。
もはや抑えつけることはできないと、覚悟を決めたとき、その声と想いは、自分の外側へ飛び出して世界で鳴ろうとする。
そのエネルギーが、偽りの姿に化けて奈落の底で燻っていた自分を、理想へとせりあげてくれよう。
そして、これまでの偽りの姿を捨て新しい姿に化けた時、自分すら見たことの無い自分に生まれ変われる。
イマも未来も超えた自分に化けられるのだ。
星野源は、くも膜下出血で二度活動を休止した。
しかし二度の手術を乗り越え、彼は復帰した。そしてあらゆる分野で目まぐるしく活躍し、現在、音楽シーンのみならず日本の芸能界で無くてはならない存在となることができた。
奈落の底から這い上がり、理想へと化けられることを彼は身をもって証明して見せたのである。
次の僕らも這い上がるしかない。
TEXT 京極亮友